第813話
「相性ですか?」
「そう」
「……フィーナ、セスさんが何を言いたいかわからないって顔しているぞ。きちんと説明してやれよ」
セスはフィーナの様子に戸惑った表情で聞き返す。
フィーナは大きく頷くがセスの様子からは状況が理解できていないのは容易に想像がつき、ジークは大きく肩を落とした。
「何よ?」
「こっちを威嚇するな。セスさん、フィーナはフォトンさんが苦手みたいだから、シーマさんと結託されると敵わなさそうだから、仲はどうなのかと思っているみたいだ」
「そうですか……」
フィーナはジークを睨み付けると彼女に代わり、ジークがセスにフィーナの言いたい事を代弁する。
ジークの説明でセスは目を閉じて少し考え込む。
「仲は悪くないとは思いますけど……ただ、シーマさんも我が強いですからね。フォトンさんは真面目ですから小言も少しだけ多いでしょうし」
「それに関して言えば、俺も同感ですね……似ているところはあるよな」
「そうですね。カインはいつか、シーマさんをフォルムの領主に戻したいと考えていますから、その時にはフォトンさんに執事に戻って貰う事も考えているでしょうし」
セスは普段見ている2人の様子からの意見を言うが、彼女もシーマのきつい性格が見えるため、フォトンの意見を聞くかは難しいと首を横に振る。
ジークも同じ事を考えていたため苦笑いを浮かべると他人の意見を聞かないのはフィーナも同じだと彼女に視線を向けた。
セスはジークの考えている事を察したようで小さく咳をするとジークはセスへと視線を戻すとカインが以前から考えているフォルムの今後について話す。
「そうなるとシーマさんの性格改善は必要だけど……俺達には無理だな」
「簡単に諦めないでください」
「……無理でしょう。性格に難がある奴らの集まりですよ」
シーマに落ち着いて貰う事が最重要なのだがジークは自分の周囲を見回した時に頼りになる人間がおらず、大きく肩を落とした。
ジークの言いたい事がセスにもわかるようだが諦めるわけにはいかないようで首を横に振るとジークは冷静になって欲しいと言う。
「そうかも知れませんけど」
「セスさんはカインを王都に戻したいから、シーマさんをフォルムの領主に据えたいからやる気かも知れないけど……俺としてはエルト王子の側にカインを置きたくない」
「そう言うわけではありませんが……それにエルト様の側にカインがいないと他の方が大変な気がします」
セスの願望にジークは協力したいようだが、カインとエルトをセットで置くのはジークから見れば都合が悪くため息を漏らす。
シュミットの様子を見ているとエルトの補佐をできるのはカインしかいないと思うようでセスは大きなため息を吐く。
彼女の言葉には納得できる事も多く、ジークとフィーナの眉間には深いしわが寄る。
「……とりあえず、今はこの件は置いておきましょう。そろそろ、温まりますしね」
「そうですね。それでは私は先に戻っていますね」
「フィーナ、お前は手伝え」
ジークは火にかけていた鍋の事を思い出したようで苦笑いを浮かべた。
セスは夕食の事もあるため、イスから立ち上がるとフィーナは彼女に続こうと席を立つ。
フィーナが逃げようとした事はジークには簡単に予想が付き、彼女の首根っこをつかむ。
「何よ?」
「お前の事だから、このまま、本来の目的も無視して帰りそうだからな」
「そんな事は無いわよ。資料を持って帰れば良いんでしょ?」
「それなら、目をそらすな」
ジークはフィーナの考えに察しがついている事もあり、彼女をジト目で見る。
フィーナは否定をするが目は泳いでおり、ジークは大きく肩を落とした。
「……先に戻っていますよ」
「はい。フィーナ、お前は食器を運べ。俺は鍋を運ぶ」
「わかったわよ」
2人の様子にセスは大きく肩を落とすとジークは先ほど準備していた食器をフィーナに運ぶように指示を出す。
フィーナは不満げだが、熱い鍋を運ぶよりは良いと思ったようで素直に従い、3人はキッチンを出て行く。
「……なぜか、完璧になっている」
「フォトンさん、やりすぎではないですか」
「ここまでする必要はないんだけどね」
応接室に置いてあったテーブルはジーク達が居なかった間にしっかりとしたものになっており、ジークは眉間にしわを寄せる。
セスは準備を済ませたのがフォトンだと予想が付いたようでため息を吐くとカインは止められなかったと言いたいようで苦笑いを浮かべた。
「とりあえず、カイン、そろそろ戻らないとシーマさんがキレるぞ。ただでさえ、呼び出してからかなり時間が経っているんだからな」
「そうだね。そろそろ、怒られるかな。セス、後は任せるよ。朝食も明日、運んでくるから」
「わかりました。そっちはお願いします……フォトンさん、どうかしましたか?」
ジークはセスと一緒に自分が持ってきた森の土の成分検査に協力してくれている人達に頭を下げると4人分の夕飯を並べる。
夕飯を並べ終えたジークはセスやフォトン達が食事を始めるのを見て、カインにそろそろ屋敷に戻ろうと言うとシーマを待たせるのも限界だと思ったようでセスに後を任せてジークとフィーナに応接室から出るように促す。
セスはカイン達も時間がない事はわかっており、小さく頷くとフォトンは何か考えているのかイスから立ち上がる。
「いえ……シーマ様の事ですから、騒ぎにならなければ良いなと思いまして」
「大丈夫ですよ。カインなら上手くやりますよ。それにフォトンさんに今、抜けられると検査が遅れてしまいますからね」
「わかりました……そうですね。カイン様なら上手く、シーマ様の手綱を握る事ができるでしょうし」
フォトンはジーク達が心配なようで彼らに付いて行こうと考えたようでセスに許可を得ようとするが、セスはカインを信じるように言う。
彼女の言葉にフォトンは少し考え込むとカインに任せようと決めたようで席に座り直すが、シーマの事が心配なのか妙にそわそわしており、彼の様子に一緒に夕食を食べていた残りの2人はニヤニヤと笑っている。