第812話
「……」
「フォトンさん、大丈夫ですか?」
「カイン様、これはどういう状況でしょうか?」
応接室のソファーでフォトンは目を覚ますと覚醒した頭は状況を理解できていないようでキョロキョロと周囲を見回す。
その様子に気が付いたカインは彼に声をかけるとフォトンは状況を確認するように聞く。
「階段を踏み外したのよ。どんくさいわね」
「……フィーナ様、そうですか。申し訳ありません」
その時、キッチンで料理を温めてきたジークフィーナが応接室に入ってくる。
フィーナはカインとフォトンの話が聞こえたようで自分は悪くないと言いたいのか話に割って入った。
フォトンは階段を踏み外した事を思いだしたようで仰々しく頭を下げると彼の態度にフィーナは後ずさりをして、ジークに助けを求めるような視線を向ける。
「フィーナ様?」
「ジーク、笑わない。フォトンさん、俺の事もフィーナの事も呼び捨てで良いって、疲れるし」
「そう言うわけにはいきません」
執事の家系のためか、フィーナは領主の妹としてフォトンは扱っており、彼のフィーナへの態度にジークは笑いをこらえている。
カインはジークの様子に小さくため息を吐くとフォトンに呼び捨てで良いと言うが、フォトンは生真面目なのか首を横に振った。
「しかし、こうやって、フィーナにも礼節を尽くしてくれている人の事を覚えてないんだから……お前は失礼なヤツだな」
「……ジーク、これは嫌がらせにしか聞こえないんだけど」
「そう思うのはフィーナに少しでも罪悪感が出たからじゃないかな? とりあえず、料理を並べてしまおうか? そろそろ、セス達も来るだろうし」
今は執事ではないにしてもしっかりと執事としての教育は受けてきたようでフォトンの態度は素晴らしい物であり、その分、ジークにはフィーナの悪いところが目立ったようでため息を吐く。
フィーナはフォトンの態度に責められている気がしたようで眉間にしわを寄せるとカインは苦笑いを浮かべて夕飯の準備を終わらせてしまおうと言う。
「それなら、私が」
「気を失っていたんだから、もう少し休んでいてよ。準備はジークがやるから」
「別に断らないけど、なんか納得が行かないよな」
フォトンは準備を買って出ようとするが、カインが彼を引き止めてジークに指示を出す。
ジークは元々、準備を全てやる気だったため、応接室を出て行き、フィーナはフォトンを苦手だと判断したようで足早にジークの後を追いかけて行く。
「温めるだけなんだから、こっちに来てもやる事ないぞ」
「うるさいわね……なんか、あそこに居たくないのよ」
元領主の屋敷のため、キッチンはしっかりとしたものがあり、ジークは食器を出しながら、フィーナに向かいため息を吐いた。
フィーナもミレットから調理を一通り教わっているため、何もやる事はないと理解しているのかイスに腰を下ろすと不満そうな顔で言う。
「別に悪い人じゃなさそうだろ。なんか真面目そうだったし」
「確かに真面目そうではあるけど……正直、勘弁して欲しいわ」
「お前が苦手にしているのはわかった。それで逃げ回っていたから記憶からも排除されたんだな」
ジークのフォトンへ対する印象は悪い物ではないのだが、フィーナは苦手意識があるのか大きく肩を落とす。
その様子にフィーナがフォトンの事を忘れた理由に自己完結ができたようでジークは苦笑いを浮かべる。
「執事の家系って事はシーマさんの事もきっと知っていたんだろうな」
「執事って、領主がおかしな事をしようとするといさめるような事もするって話よね? ……本当に優秀なの? あの性悪の前の領主をほったらかしにしていたんでしょ」
「どうだろうな。いろいろと問題があった領主みたいだし、他人の話なんか聞かなかっただろうからな」
ジークは元々の領主の家系であるシーマとフォトンが知り合いの可能性があるのではないかと首を捻った。
フィーナは不正に手を染めて処罰された前領主を制御できなかった責任があるのではないかと言うが、ジークはテッドや診療所に来るお年寄り達から前領主の悪事を聞かされているためか彼女の意見を否定する。
「そうかも知れないけど……ねえ、正直な話、シーマさんが普通に領主を継いでいたら、あの人が執事長になった可能性が高いのよね。シーマさんを制御できると思う?」
「……シーマさんも思い込みが激しいからな。いさめる意見とか聞かなさそうな気はするな」
「それに関して言えば賛成ですね」
フィーナは例え話としてシーマが領主、フォトンが執事の状況を考えてみろとジークに言う。
ジークは少し考えるとシーマの性格上、騒ぎが起きるのではないかとため息を吐いた。
その時、セスがキッチンに顔を出し、2人の話が聞こえていたようであり、2人の意見に頷く。
「セスさん、どうしたんですか?」
「お水をいただきたくて」
「そうですか? 今、用意します」
水が欲しいと言うセスにジークはフィーナの前のイスに座るように言い、カップに水を注ぐ。
セスは座って待っているほどでもないと考えているようでジークの様子を見ながら待っているとフィーナが彼女の服を引っ張り、座るように促す。
「別に座るほどでは」
「良いじゃない。少しくらい。それに夕飯までもう少し時間がかかるし」
「そうですか……そうしましょうか」
セスは苦笑いを浮かべて断ろうとするが、フィーナはフォトンの情報をもう少し手に入れたいようである。
彼女の考えを理解できたかわからないが、セスは少し考え込むと小さく頷いてフィーナの向かい側のイスに腰を下ろす。
「研究の方はどうですか? 何かわかりそうですか?」
「一先ずは少し時間が必要なので休憩ですね。成分分析ですし、わかる事は限られています。その後はジークの仕事ですね」
「そんな事はどうでも良いわ。セスさん、あのフォトンさんって人はシーマさんと相性ってどうなの?」
ジークはセスの分だけではなく、フィーナの前にも水を置くと調査の状況を聞く。
セスは特に新たな発見は見つからないだろうと思っているようで結果後にジークの意見が欲しいと言う。
ジークはあまり難しい事はわからないと言いたいようで困ったように笑うとフィーナは苦手な2人が組まれるのは勘弁したいと思っているのか食いつくように聞く。