第811話
「遅かったね」
「……ここに居たのかよ」
「こっちにお願いします」
セスの案内で研究室に移動すると4人をカインが出迎えた。
彼の顔を見てため息を吐くジークだが、まずは背中の男性をどうにかしたいようでセスへと視線を向け、セスは研究室の隅に置いてあるイスへとジークを誘導する。
セスの指示に従いジークがイスの上に男性を座らせるとカインは男性の顔を覗き込んだ。
「フォトンさんはどうしたの?」
「階段を踏み外したようです」
「そう……なんで、階段を踏み外したのかな? 何かに驚いたのかな?」
男性の様子を確認したカインは小さく首を傾げ、セスはフィーナに言われた事を信じているため、特に考える事もなく言う。
彼女の言葉にカインは小さく頷いた後、原因がフィーナにあると思ったようで彼女へと視線を向けるが彼女は素知らぬ顔で持っていたバッグを置く場所を探している。
「……完全に確信しているじゃないか」
「何の事かな?」
「何でもない……それで、コイツはどうするんだ? 研究室で夕飯って言うのもなんか違うだろ」
カインの様子にジークは大きく肩を落とすとカインはわざとらしく首を傾げた。
言っても無駄と感は得たジークは首を横に振った後、夕食をここで準備しても良いかと聞く。
「ここでそのまま食べられるものなの?」
「ミレットさんはそのままでも良いとは言っていたけど、温めた方が美味いだろうな」
「それなら、ここじゃないね。セス、とりあえず、キリが良いところで応接室に来てくれるかな?」
カインはセスの持っているバッグを覗き込んで夕飯のメニューを確認する。
ジークはミレットからメニューを聞いているためか、温めた方が良いと答えるとカインはセスからバッグを受け取り、セスに指示を出した。
「そうですね。わかりました。ただ……」
「フォトンさんはジークが運んでくれるから問題ないよ」
「そう言われると思ったよ……なんか、無駄な事をした気がする」
セスは頷くものの、イスに座らせた男性の事を心配しているようで苦笑いを浮かべる。
カインはジークに男性を運ばせると笑うとジークは何のために彼を研究室に運んだかわからないとため息を吐くと男性を再び、背負う。
「フィーナも行くよ」
「わかったわよ……それより、この人って誰なの?」
「……フィーナ、その冗談は悪質じゃないかな?」
カインはフィーナに声をかけるとフィーナはジークの背の男性を指差す。
その言葉にカインは大きく肩を落とすがセスは首を横に振る。
「……フィーナの記憶にはフォトンさんはまったく残っていないようです」
「そう……それじゃあ、移動しながら話すよ。ジークもフォトンさんを背負ったまま、待っているのは辛いだろうし」
「そうしてくれ」
セスは大きく肩を落とすとカインは眉間にしわを寄せるがジークが男性を背負っている状況で話す事ではないため、移動しようと言う。
ジークは気づいてくれた事に苦笑いを浮かべるとカインは研究室のドアを開けてジークに先に行くように促し、研究室を出て行く。
「それで、この人、誰よ?」
「……本当にフィーナには呆れるね」
「フィーナは知り合いなんだよな?」
廊下を歩く途中で、フィーナは背中の男性を指差す。
彼女の様子にカインは大きく肩を落とすとジークは首を捻る。
「知り合いだよ。何度か、フィーナ達に同行して森の中の探索にも行っているし」
「……記憶にないわ」
「お前、本当に大丈夫か?」
カインはフィーナ達と森の探索に行っているメンバーの1人だと言うが、フィーナは本当に記憶にないようで深々と眉間にしわを寄せて首を横に振った。
フィーナのあまりに失礼な様子にジークは大きく肩を落とす。
「知らないわよ。こんなに影の薄い人」
「……お前は本当に失礼だな。気を失っていたのは救いかもな」
「そうだね。このままだと俺はフォトンさんに平謝りしないと行けなくなるよ」
自分は悪くないとフィーナは言い切り、ジークは眉間にしわを寄せた。
カインは男性の気分を害する状況にならなくて良かったと大きく肩を落とす。
「それで、誰なんだ?」
「ジークも会った事はなかったかな? ……俺は紹介していないか」
「俺は基本的に調合室にこもりっきりだからな。ここで働いている人の顔と名前はほとんど一致しない。顔が一致するフォルムの人達はほとんどが年寄だからな」
ジークも男性に心当たりはないため、カインに男性が気づく前に説明するように促した。
カインは1度、首を捻るがジークに男性を紹介した記憶はないようで小さく頷くとジークは少しだけ困ったように笑う。
「そうだね。えーと、フォトン=クイストさんだよ。フォトンさんは代々、フォルムの領主様の執事長をしていた家系なんだけど」
「……執事とかしっかりとした人間には見えないわね」
「フィーナ、失礼な事を言うな」
カインは男性の事を『フォトン=クイスト』と言う名だと説明し、彼の家系の事も話す。
フィーナはカインの説明にジークの背中のフォトンの顔を覗き込むと執事と言う職業が似合わないと思ったようで首を捻った。
ジークは初対面のため、ため息を吐くがフィーナと同じ事を考えてしまったようである。
「まあ、フォトンさん本人も似合わないって笑っていたけどね。それで昔から領主の身の回りの世話をしていた事もあるし、以前の領主がしていた事についても知っているから内政を手伝って貰っているんだよ」
「執事の家系か? 確かに補佐をしているなら、カインの補佐にも最適だな……執事にはむいてなさそうだけど」
「いや、俺も執事なんかいらないけど。それに優秀な人だよ……運動神経は無いけど」
カインはフォトンにはフォルムの統治を手伝って貰っていると笑う。
ジークはフォトンを背負い直して頷くも気を失っている彼の様子に小さくつぶやいた。
フォトンの能力の高さをカインは評価しているようで頷くが、欠点も見えているようでため息を漏れる。
「そうよね。階段を踏み外すような人だし」
「……あれはお前が大声を上げるからだろ」
フィーナはフォトンの運動神経が悪いと聞き、彼が階段から落ちた原因を彼のせいだと言うが、ジークは彼女の言い分は間違っていると思っているため、大きく肩を落とす。