第81話
「で、ですけど、わたし、治癒魔法で手伝いを」
「俺達にできる事はないよ。ノエルは確かに治癒魔法を使えるかも知れないけど、治癒魔法にだって限界がある。ノエルだって、それくらいわかるだろ?」
台車を追いかけて行こうと駆け出すノエル。ジークは彼女の手をつかみ、彼女を引き止める。
「そ、それは……」
「2人ともまずは宿に移動するわよ。ここで立ち止まってると邪魔だし、それにノエルが目立つ事をするのは私もジークも避けたいのよ」
ノエルは納得が言ってないようであり、ジークに手を放して欲しいと目で訴える。ジークは魔導機器で正体は隠せていてもあまり、彼女に目立つ事をさせたくないようで首を振った。フィーナは2人の様子にお互いの言いたい事も理解出来るようで1度、宿に移動しようと提案する。
「わかりました……」
「診療所には顔を出す。薬を買ってくれるかもしれないからな。俺達にできるのはその時に手を合わせてやる事だけだよ」
ジークは優しいノエルにはきつい事を言っているのは理解しているようであり、肩を落としている彼女の頭を撫でた。
「行くわよ」
「は、はい」
「……」
フィーナはジークがノエルを励ましているのが面白くないのか、ノエルの手を引っ張って歩き出す。ノエルはフィーナに引きずられて行き、ジークは納得がいかないような表情をする。
「すいません。3名なんですけど」
「ジークにフィーナじゃないか。よく来たね……あれ? 今日は知らない顔がいるね」
ジークとフィーナはルッケルに立ち寄るといつも使用している宿のドアを開けると店の女主人である『ジル』が笑顔で3人を出迎えるもノエルの顔を見て首を傾げた。
「あぁ。ちょっと、ウチの店を手伝って貰ってる子なんだ。1泊2部屋、俺が1人で、あっちが2人部屋」
「へぇ、ジークのところで人を雇うようになるなんてね。フィーナが代金を払うようになったのかい?」
「いや、相変わらずの窃盗娘だ」
ジークはカウンター越しでジルと部屋の予約について話をしており、その中でフィーナの話が出ている。
「あ、あの。フィーナさん、あなたはいったい何をしているんですか?」
「何もしてないわ」
ノエルとフィーナはテーブルに腰掛け、聞こえてくる2人の話に顔を引きつらせるが、フィーナは悪びれる事なく何もないと言い切った。
「ノエル、フィーナ、部屋、取れたから、昼飯にしよう。腹減ったしな」
「そうね。ねぇ、ジルさん、鉱山に何かあったのか? 酷くさびれているように感じたんだけど」
ジークは2人のいるテーブルに腰かけるとジルから渡されたメニューを広げる。フィーナはメニューを覗き込みながら、鉱山の様子が閑散としている理由をジルに聞く。
「あぁ。やっぱり、気になるよね」
「そりゃあね。こんなに活気がないのは初めてだからな。それで、ジルさん、鉱山に何かあったの?」
「今は客もいないから話してやっても良いけどね。まずは注文」
ジルは3人分のお冷をテーブルの上に置くと彼女に視線が集まる。ジルは3人の様子に話がそれなりに長くなりそうなため、注文をしてからだと答える。