第809話
「……何の用ですか?」
「いや、聞きたい事がありまして……ただ、シーマさんを呼び出したカインが居ません」
「とりあえずはこれでも飲んで落ち着いてください」
夕飯前にレインがシーマを連れて屋敷に現れた。
レインからはカインが使い魔で呼び出したと聞いて状況を察したジークだが、呼び出されたシーマは不機嫌そうに眉間にしわを寄せている。
彼女の様子にジークは怒られると思ったようで悪いのはカインだと言うとミレットはテーブルの上に紅茶を置くとシーマに座るように言う。
「……」
「なんで、カインは帰ってこないんだよ?」
「仕方ないだろ。資料を運んでくれる人間がいないんだから」
シーマは眉間にしわを寄せたまま、ソファーに腰を下ろすと紅茶に口を付ける。
彼女の背中からは怒りのオーラが立ち上っており、ジークは大きく肩を落とすとカインの使い魔の小鳥がジークの頭の上に降り立つ。
「……さっさと戻ってこい」
「静かにする。シーマにばれる」
「そう思うなら、そんな恰好で出てくるなよ」
頭の上から聞こえるカインの声にジークは大きく肩を落とすとカインの使い魔は彼の肩の上に降りて耳元で話す。
ジークは眉間にしわを寄せるもシーマに見つかって面倒な事になっても困るため、カインの使い魔を肩に乗せて廊下に出て行こうとする。
「ジーク、どこに行くの?」
「少しな」
「……フィーナ、もう少し空気を読めるようにならないかな?」
カインの使い魔には気が付いていないようだが、ジークの様子にフィーナは首を捻った。
その声にジークは振り返る事無く居間をでて行こうとするとクーが後を追って行き、居間から出るとカインは小さなため息を吐いた。
「それで、資料を運ぶのに人手が足りないって言いたいのか? 転移魔法を使えよ」
「魔力が底を尽きそうなんだよ。荷物もあるし」
「セスさんだっているだろ」
ジークはカインの使い魔を手に取ると話しやすいように自分の目の前に動かす。
小鳥相手に話をする自分の様子に少し情けなく思ったようでジークは文句がありそうな口調で聞く。
カインは魔力が少ないと言うが使い魔をここまで飛ばしている事もあり、信じられないと言いたいのか疑いの視線を向ける。
「セスはジークが持って帰った土と花の成分分析中だよ。今日は帰れないかもね」
「……大丈夫なのかよ」
「と言う事で、4人分の夕飯を届けてね」
セスは成分分析で忙しいようであり、カインから彼女の様子を聞いたジークは眉間に深いしわを寄せた。
カインはセスの事を気づかっているようで夕飯の準備をジークに押し付ける。
「4人分?」
「手伝ってくれている人の分」
「そうか……そして、夕飯を運ばせて荷物運びをさせる気か?」
考えていたより、食事を用意する量は多くジークは首を傾げるとカインはすぐに追加情報を渡す。
人数に納得したジークはカインの目的が食事を運ばせるついでに自分の荷物運びを手伝わせるためだと理解したようで大きく肩を落とした。
「そうなるね」
「……と言うか、シーマさんをここに呼び出さずにそっちに呼んだ方が良かったんじゃないか?」
「ダメだよ。まだ時間がかかるから、眉間にしわを寄せて睨まれていたら作業が進まないじゃないか」
返事をするカインにジークはシーマを屋敷に呼び出す理由がわからないと眉間にしわを寄せる。
ジークの言葉にカインが答え終えると使い魔は解けて消えてしまう。
「……逃げたか?」
「クー?」
「何でもない。ミレットさんとノエルに話をしてこないとな」
使い魔が完全に消えたのを見てジークは乱暴に頭をかいた。
ジークの様子にクーは心配そうに彼の顔を覗き込むとジークは苦笑いを浮かべると居間を指差し、クーとともに居間に戻る。
「ジーク、何しているのよ?」
「……いろいろあったんだよ」
「何なのよ?」
ジークが居間に戻るとフィーナは彼の様子がおかしいと思ったようで首を傾げた。
あまり騒ぎ立てるとシーマにカインがまだ戻ってこない事がばれてしまうため、静かにするように言うとキッチンを指差す。
フィーナはジークが何をしたいのかわからないようで首を傾げながらもキッチンに向かって歩いて行く。
2人のやり取りにレインは気が付いたようでジークは彼の視線に気が付く、レインの前にはシーマがいるため、ジークは目配せをするとレインはなんとなくだが察してくれたようで小さく頷いた。
彼の様子にジークは苦笑いを浮かべてキッチンに移動し、クーも彼の後に続いて行く。
「何なのよ?」
「落ち着け。騒ぐな。シーマさんに気づかれるだろ」
「……何を企んでいるのよ?」
ジークがキッチンに入ってくるとすぐにフィーナはキッチンに呼んだ理由を尋ねる。
騒ぎ出しそうな彼女の様子にジークは声を落とすように言うとフィーナはまたジークが何かを企んでいると思ったようで大きく肩を落とす。
「……原因は俺じゃない」
「それなら……また、あの性悪ね」
「そういう事だ。ノエル、ミレットさん、料理の追加をお願いします」
ジークは言いがかりだと言いたいようで首を横に振るとフィーナは珍しく状況を察したようで眉間には深いしわが寄った。
フィーナが理解してくれたため、ジークは小さく頷くと夕飯の準備をしている2人に声をかける。
「追加ですか? シーマさん以外にも誰か来るんですか?」
「カインから指示なんだよ。セスさんが帰れないみたいだから、手伝っている人達にも差し入れだそうです」
「そうですか……そうなると明日の朝ごはんも届けないといけませんね」
ノエルは客人が増えると思ったようで首を捻るとジークはキッチンを取り仕切っているミレットにカインの指示を話す。
ミレットは状況をすぐに理解してくれたようで明日の朝食の事も考え始める。
「そうですね。それもお願いしたいんですけど、後……帰ってくるまでのシーマさんの相手もお願いしたいです」
「シーマさんの相手ですか?」
「……カインが言うにはまだ時間がかかるらしい。後、荷物運びも」
そんなミレットの様子にジークは本題だと言いたいのかキッチンの外に聞こえないように声を落として言う。
ミレットは頷くがノエルは理由がわからずに首を傾げており、ジークは大きく肩を落とす。
「荷物運び? ……いやよ」
「それなら、シーマさんの相手になるぞ」
「……仕方ないわね」
荷物運び要員に自分が含まれていると思ったようで首を横に振るフィーナだがすぐにシーマの相手はしたくないと考えたようでしぶしぶ頷いた。




