第808話
「今日も盛況ね」
「……診療所が盛況なのはダメだろ」
ジークとフィーナが診療所を訪れると待合室はいつも通り、フォルムのお年寄り達で賑わっている。
その様子にフィーナは苦笑いを浮かべると集まっているお年寄り達が暇つぶしに診療所に来ている事を知っているジークは大きく肩を落とす。
「ジーク、どうかしましたか? ケガでもしたんですか?」
「ミレットさん、そう言うわけじゃないですけど」
その時、待合室に患者を呼びに来たミレットが2人を見つけて首を傾げた。
ジークは苦笑いを浮かべるとお年寄り達はジークとフィーナがテッドに用があると思ったようで順番を譲ると言い出し、ミレットは苦笑いを浮かべると2人を先導して診察室に入る。
「ジークさん、フィーナさん、どうしたんですか?」
「ちょっと調べ物があって」
「調べ物ですか? どのような事ですかね?」
ジークとフィーナを見てノエルが首を傾げるとジークはテッドへと視線を移した。
テッドはジークの顔を見て首を傾げるとジークとフィーナは森の奥で見てきた白い花の群生地に付いて話す。
「森の奥に白い花があって、そこの土だけが植物を育てるのに適しているのですか?」
「そうなんです。それでテッド先生は先々代の領主様と懇意にしていたわけですし、何か知らないかと思って」
「後、ここにはフォルムのお年寄りが集まるから何か聞けないかと思って」
ジークから森の奥に白い花の群生地があると聞き、テッドは首を捻る。
首を傾げているテッドにジークは気になる事はないかと聞き、フィーナは待合室にいるお年寄り達にも話を聞きたいと言う。
「それじゃあ、そっちの方は私とフィーナが聞いてきましょうか? ジークはノエルと一緒にテッド先生のお手伝いをお願いします」
「わかりました」
「えー」
ミレットは自分の方がフォルムのお年寄り達から話を聞きやすいと思ったようで率先して協力してくれる。
ジークは断る理由もないので素直に頷くがフィーナはカインから逃げるのが目的だったため、不満を言い出す。
「良いから行きますよ」
「……フィーナ、なんだかんだ言って、ミレットさんの言う事は聞くよな」
「そうですね」
ミレットは笑顔でもう1度、フィーナに声をかけるとフィーナはしぶしぶ頷き、2人は診察室を出て行く。
そんなフィーナの様子にジークは苦笑いを浮かべるとノエルは小さく頷いた。
「それでテッド先生、何か思い出せませんか?」
「白い小さな花ですよね? 何か思い出せそうな気がするんですけど……」
「ゆっくりでも良いですよ」
ジークは首を捻っているテッドの様子に何か思い出さないかと聞く。
テッドは何か引っかかるものがあるようで首を傾げているがすぐには出てきそうもない。
そのため、ジークは診察室の状況を確認し始める。
「ジークさん、先々代の領主様がお花を植えたんだとしたら、シーマさんは何か知らないですかね?」
「シーマさんの爺ちゃんが植えたんなら……小さい頃のシーマさんが好きだった花とか? いや、ないだろ。子供の足で行くには流石に遠すぎるぞ。巨大蛇も出るだろうし」
「ですけど、無いと否定するのは良くないと思うんです」
ノエルはジークを手伝いながら、娘であるシーマのために先々代の領主が植えた物ではないかと夢見がちな事を言うが、ジークは場所を考えて違うのではないかと首を横に振った。
ジークの考えにノエルは可能性があるなら聞いてみるべきだと主張するが、ジークはあまり乗り気ではなく、困ったように頭をかく。
「……ノエル、聞きにくい事を聞いて良いか?」
「何ですか?」
「俺の個人的な印象なんだけど……シーマさんが花で喜ぶように見えるか?」
ジークの様子にノエルは納得が行かなさそうに頬を膨らませており、ジークはノエルに聞いておきたい事があったようで眉間にしわを寄せる。
ノエルは自分の考えが理解して貰えないため、不機嫌そうに返事をするとジークは頭をかきながら、シーマが花を見て喜ぶようには見えないと言う。
「当然です。女の子はお花が大好きなんです!!」
「……そうか」
「フィーナは花が好きなんですか?」
ノエルは拳を握り締めて女性は総じて花が好きだと強い口調で主張する。
ジークはフィーナと言う花が好きにも見えないような人間がすぐそばにいるため、眉間に深いしわを寄せた。
その時、診察室のドアが開き、フィーナとミレットが診察室に戻ってくる。
ミレットの耳にはノエルの主張が聞こえていたようで後ろにいたフィーナに聞く。
「別に好きじゃないわよ……食べられるものなら好きだけど」
「……お前は色気より、食い気だよな」
「仕方ないでしょ。送ってくれるような人だっていないんだから」
ミレットの質問にフィーナはため息交じりで答えた後、少し考えて食用の花なら好きだと答える。
彼女の回答にジークは呆れたように言うとフィーナは診察用のベッドに腰を下ろし、観賞用の花の良さなどわからないと言う。
「それで、待合室の方はどうだったんですか?」
「森の奥の事だし、誰も覚えてないって、何か思い出したら教えてくれるって、家族にも家に帰って聞いてみてくれるって……そして、みんな、家に帰ったわ」
「……そうか。先々代の領主様がやったとは限らないし、そんなもんだよな」
フィーナの返事にノエルは少し納得が行かなさそうな表情をしているが待合室の情報を聞く。
待合室にいたフォルムのお年寄り達はすぐには何も思い出せなかったようで、何かわかったら教えてくれると言って家に帰ってしまったと大きく肩を落とした。
診療所なのに病人やけが人がまったくいない事にジークは眉間にしわを寄せるが、白い花については後ほどと納得したのか頭をかく。
「でしょうね。あいつの前はバカ領主だったんだろうけど、それでも数年はやっていたんだから、先々代の領主様だってなくなったのはだいぶ前でしょ?」
「そうですね。その辺の事は屋敷に残っているとは思いますけど」
「そうですね。カインもそう考えて資料室に閉じこもっていますよ」
フィーナは古い記憶を引っ張り出すのは時間がかかると思っており、ゆっくりと待つと言いたいのか欠伸をする。
テッドもすぐには思い出せないようで苦笑いを浮かべると他に探す方法はないかと言い、ジークはカインに任せていると苦笑いを浮かべた。