第803話
「……ジーク、ヒマなんだけど」
「頼むから静かにしてくれ」
小さな白い花の中を歩いているが研究書に記されている通り、巨大蛇は近づいてこない。
そのため、安全なのだがフィーナは何もない事がつまらないようで頬を膨らませており、ジークは調査に集中したいため、静かにしろと言うと白い花を抜き、根についてきた土を確認する。
ジークが何をしているか考えないフィーナは不満を隠す事無く、つまらないと言う事を身体で表現したいようで白い花の上に座り込む。
「……」
「汚いわね。何しているのよ?」
「……やっぱり、おかしいな」
根と土を確認していたジークは土を少し手に取ると口に含む。
その様子にフィーナは汚いと顔をしかめるがジークは気にする事無く、目を閉じて土の味を確認している。
フィーナは理解できないと言いたいのか眉間にしわを寄せるが、ジークは味を確認した後、口に含んだ土を吐き捨て首を捻った。
「……私は土を食べているあんたがおかしく見えるわよ」
「食ってない。吐き出しただろ」
「吐き出したから良いってわけじゃないでしょ」
フィーナにとってはジークの考え事より、行動の方がおかしく映っており、怪訝そうな表情をする。
彼女の言葉にジークはため息を吐くと歩き出す。
フィーナは慌てて立ち上がり、ジークの跡を追いかけるとジークは白い花の群生地から出て、近くに生えている草を地面から抜く。
「……あんた、また、土を食べるんじゃないでしょうね」
「だから、食っているわけじゃない」
ジークは引き抜いた草とまたも根に付いた土を覗き込んでおり、フィーナは眉間にしわを寄せる。
彼女の言葉にジークはため息を吐くとまたも土を取り、口に含むと目を閉じた。
フィーナはジークの様子に汚いと言いたいのか距離を取るが、ジークが気にする事はない。
反応もなく、蛇除けの花の群生地から出た事もあり、フィーナは何かあっては困ると考えたのか周囲への警戒を始める。
「……やっぱり」
「何がやっぱりよ?」
「この花が咲いている所だけ、土地の成分が違う」
ジークに口に含んだ土を吐き捨てると考えていた事が確信に変わったようで小さくつぶやく。
フィーナは周囲への警戒を解く事無く聞き返すとジークは口に含んだだけで土の成分の違いを判断したようで間違いないと言い切った。
しかし、フィーナは疑っているようで怪訝そうな表情をしている。
「……本当にそんな事がわかるの?」
「お前に言ってもわからないだろうけど、わかるんだよ。薬草作りに土作りは欠かせない物だからな」
「まあ良いわ。それで違うのは良いけどそれが何の関係があるのよ?」
フィーナは疑問を思ったまま口に出すとジークは言っても仕方ないと思っているのかため息を吐いた。
その言葉にフィーナは土を口に含むなどあり得ないと思っているため、興味なさそうにその上で何かわかったのかと聞く。
「ここだけ、土が良い。良い畑を作れそうだ」
「……あんた、目的を覚えている?」
「もちろん覚えている……なんで、ここだけ、良い土なんだ? これを広げられればフォルムでも良い畑ができる」
ジークはフォルムの土地は肥沃ではないため、フォルムのためになると言い切る。
フィーナは巨大蛇の調査に来たと言う本題を忘れるなとため息を吐くが完全にジークの目は違う意味で輝きだす。
「……ジーク」
「何だよ? 元々、俺達はフォルムの土地でも育てられる野菜を探すためにフォルムに来たんだろ。フィーナだって森の中の恵みを探しているんだろ。ここで畑を作れればジオスに帰れる」
「それは確かにそうね」
フィーナは呆れたように肩を落とすがジークはこれを解ければフォルムの問題が解決すると言う。
その言葉にフィーナは首を傾げるがジークは彼女が本当に理解しているのか疑問のようで疑いの視線を向けている。
「……お前、本当に理解しているのか?」
「問題解決すれば、あの性悪から解放されるって事でしょ?」
「開放はされないだろ。転移魔法もあるんだ。何かあればジオスに普通にくるぞ!?」
ジークはため息を吐くが、フィーナはカインから放れられる事だけしか考えていない。
彼女の言葉にジークは考えが甘いと言いたいようでため息を吐くと何かイヤな予感がしたのか視線を上に向ける。
その瞬間、タイミング悪く小鳥が飛んできて、小鳥のくちばしは彼の額に突き刺さった。
「ジーク、大丈夫?」
「……言っておくけど、今回はわざとじゃないよ」
「何で、私の肩の上に乗るのよ?」
ジークは額に走る痛みに地面を転がりまわるとフィーナは眉間にしわを寄せてケガの状態を聞く。
小鳥はカインの使い魔であり、小鳥の口からはカインの声で偶然の結果だと言うと一先ず、フィーナの肩に降りる。
フィーナは耳の横から聞こえるカインの声に嫌悪感しかないようで顔をしかめた。
「フィーナ、ここからだとすぐに頸動脈を狙えるんだけど」
「……ジークが立ち上がるまでよ」
カインは黙れと言いたいのか彼女に楽しそうな口調で脅しをかける。
その声に背中に冷たい物が伝ったのかフィーナは顔を引きつらせると地面を転がっているジークに速く立ち上がれと視線を向けた。
「……お前、どこから湧いて出てくるんだよ?」
「いや、流石にジークとフィーナだけだと何かあった時に不味いかなと思って使い魔を飛ばして見たんだけど」
「書類対応への息抜きじゃないでしょうね?」
ジークは額をさすりながらカインの使い魔を睨み付けてこの場に訪れた理由を聞く。
カインは調査に対応しているのが2人だけでは不安だと考えたと言うが、フィーナはそれが彼の逃げだと思ったようで眉間にしわを寄せると3人の間には微妙な沈黙が広がった。
「……否定しろよ」
「冗談に決まっているだろ。それで何かわかったのかい?」
「とりあえず、蛇除けの花は見つかった」
しばらく、広がっていた沈黙を破るようにジークは大きなため息を吐く。
その言葉にカインはため息交じりの声で否定すると調査の進捗状況を聞き、ジークは目の前に広がっている白い花の群生地を指差す。




