第80話
『ルッケル鉱山』
鉱山には発掘された鉱石を購入しに来る者、鉱石を加工し、剣や防具を鍛える者が集まるため、小さなコミュニティが形成されており、町と言われても遜色はないくらいに発展している。
「……着いたな。取りあえず、宿を探すか?」
「宿? その前に武器よ。私に相応しい武器がないか見ないといけないわ」
ジークとフィーナは何度か訪れているためか、直ぐに行動に移そうとする。
「拠点を決めるのが、先だ。ノエルも行くぞ」
「は、はい」
ジークはフィーナを1人で歩かせるとまた、問題を起こすと思っているようで彼女の首根っこをつかむと物珍しいのか周囲を見回しているノエルに声をかけた。
「どうかしたか?」
「い、いえ。何でもありません」
「まぁ、物珍しいのもわかるけど、迷子にならないでくれよ」
ジークはノエルの様子に苦笑いを浮かべた。ノエルはジークに考えている事がばれている事が照れくさいのか1度、目を逸らすと彼の隣に並んで歩き出す。
「ジーク、放しなさいよ。宿を決めるって言ったって、どうせ、いつものところでしょ?」
「だとしても付いて来い。宿が埋まってたら、どうするんだよ」
「埋まってるって、見てよ。人なんかいないじゃない……ねえ、ジーク、ここってこんなに寂れていた?」
フィーナは武器の探索に駆け出したいようだが、ルッケルの宿場町を歩いている人間がいない。
「あぁ。俺も気になってなってたんだよ。だから、情報くらいは集めたいだろ? 鉱石が高騰してたら、手持ちで買って帰れないかも知れないからな」
「うーん。でも、ここまで寂れてるなら、村で噂になってても良かったんじゃないの?」
ジークは人気のなさには気が付いていたようであり、乱暴に頭をかく。フィーナは村で鉱山の話が出ていない事を不思議に思ったようで首をひねった。
「あ、あの。いつもはこんな状況じゃないんですか?」
「そりゃな。ルッケルの領主様は交易を重視していたから、多くの人を受け入れていたし、下手したら、王都で貴族が納めてる領地よりも発展してるかもな」
ジークは周囲を見回してため息を吐くとノエルは心配そうな表情をする。
「そこの3人どけてくれ!!」
その時、鉱山から続く道から、けが人を乗せた台車を引いた男2人がジーク達に道を開けるように叫び、一直線にこちらに向かってきた。
「ノエル、こっち」
「は、はい。ありがとうございます」
ジークは台車に轢かれそうになったノエルを引き寄せた。彼の腕の中でノエルは顔を真っ赤にしてお礼を言った。
「事故?」
「だろうな。あのけがの様子じゃ、手遅れかもな」
鉱山で事故が起きたようであり、フィーナは表情を引き締めた。ジークは彼女より冷静に先ほどの人達の様子を見ていたようで目を閉じた。
「あ、あの。ジークさん、手遅れって」
「そのままだよ。鉱山には崩落とか事故が日常茶飯事だからな」
ジークの言葉にノエルは顔を真っ青にして、彼の服をつかむ。しかし、ジークはこれ以上は言える事もないためか、首を横に振った。