第799話
「……何をしているんですか? 体を休めなさいと言ったでしょう」
「そうなんですけどね。ちょっと、いろいろありまして」
解散になったのだが、ジークは眠気よりもフィリムから受け取った研究書が気になったようで居間でページを開いているとセスが顔を出す。
彼女はジークを見つけて大きく肩を落とすとジークはバツが悪そうに苦笑いを浮かべた。
「いろいろですか? ……ジークが本を読んでいるなんて珍しいですね」
「それに関して言えば、自覚はありますけど……こういう事なんで」
「アリア=フィリス? ジークのおばあさまが書かれた物ですか?」
セスはジークが研究書を開いている事に気が付き、首を捻るとジークは研究書の背表紙に書かれているアリアの名前を彼女に見せる。
アリアの名前を見てセスは驚きの声を上げるとジークは小さく頷いた。
「フィリム先生がばあちゃんから預かっていたみたいなんですけど」
「そうですか……フィリム教授がですか。確かにレギアス様との関係を考えればアリアさんと面があってもおかしくはありませんが」
「……セスさんも何か引っかかります?」
研究書の出所がフィリムだと聞いたセスは何かあるのか眉間にしわを寄せる。
彼女の様子にジークは苦笑いを浮かべるとセスは小さく頷く。
「そうですね……アリアさんの名前が魔術学園の名簿から消されていた事もあります。それにアーカスさんの事もあります。作為的にいろいろな事が隠されている気がしますね」
「そうなんですけど……誰も教えてくれなさそうなんですよね」
「確かにそうですね……どうすれば調べられるんでしょう?」
セスは以前に調べたアリアの事と繋がっていると思ったようで険しい表情で言う。
ジークは頷くものの詳しい話を教えて貰えないと思っているようで小さくため息を吐くとセスはアリアの過去を調べる事で何かわかると考えているようで首を捻っている。
「だけど、いろんなところからばあちゃんの残してきた物が出てくると……ばあちゃんの手のひらで踊らされている気がする」
「そうですね……どうしてジークの周りには人を裏から操ろうとする人間ばかりが集まるんでしょう?」
「いや、それはカインだけだから」
アリアがジークの事を見越していろいろと準備していると感じたようでジークは小さくため息を吐く。
セスは頷くとジークの周囲の人間の性格の悪さが気になるようで眉間にしわを寄せるとジークは首を横に振る。
「とりあえずは役に立つ物が手に入ったと思っておきましょう。アリアさんの書いた物なら相当な物なのでしょうし。それがジークの成長につながるなら悪い事ではありませんし」
「俺が成長できるかは別として……これが良い物だって言うのはライオ王子もそんな事を言っていたな。と言うか、良い物なら広めちまえば良いのに」
「それもそうなのですが……本当にジークはお人好しですね」
セスはこのまま考えていてもアリアの事に決着はつかないと思ったようでジークに役に立たせなさいと言う。
ジークはあまり成長を期待されてもしんどいと言いたいようで目をそらすと研究書がフィリムの手の中で日の目を浴びなかった事に首を捻る。
セスは研究書の1冊を手に取ってページをめくると彼女にもアリアの研究書がかなりのものだと理解できたようでジークの言葉に小さく肩を落とす。
「何ですか? これだけの物があればいろいろと役に立つでしょ」
「そうですね……でも、これはアリアさんがジークのために残した物でしょう。それにアリアさんの名前は表舞台から消されているのですから、これが出回るわけにもいかないでしょう」
「でも、写本して自分の名前で発表する事だってできるでしょう……フィリム先生はする必要はなさそうですけど」
ジークはセスの言いたい事がわからずに首を捻るとセスはもう少しアリアの気持ちを考えろと言いたいのか眉間にしわを寄せた。
研究書として名前を売るには充分な物が書かれているとジークでも理解できたようでフィリムが欲のない人間だと思ったのか頭をかく。
「フィリム教授は他人の成果を奪うような人ではありませんね。だから、アリアさんもフィリム教授に預けたんでしょうし」
「そうですね」
「ですけど」
セスはアリアがフィリムの事を信頼していたのだと言うとジークは笑顔で頷くがセスの言葉はまだ続くようで研究書をテーブルに置くとジークへと鋭い視線を向ける。
彼女の視線にジークは怒られると思ったようで視線をそらす。
「……なぜ、ジークは私から視線をそらすんですか?」
「いや、なんか、セスさんには怒られている印象しかなくて」
「それはカインと一緒にジークが私を怒らせるような事をするからです」
視線をそらされた事にセスのこめかみには小さく青筋が浮かび上がり、その青筋にジークは気まずそうに笑う。
セスは自分が怒っているのではなく、ジークとカインが自分を怒らせているのだと言ってジークを睨み付ける。
「そうですね……すいません」
「わかれば良いです。ジーク、良いですか? 先ほど、ジークは自分が成長できるかは別としてと言いましたがこれや今、テッド先生に預けている本もアリアさんがあなたのために、あなたの成長を望んで残した物です。残された本人が言って良い言葉ではありません」
「そうですね……せっかく、ばあちゃんが残してくれた物なんだから、大切にしないといけないですよね」
ジークは完全にセスに威圧されているのか、慌てて頷くとセスはまっすぐとジークを見てアリアの気持ちをくんで欲しいと言う。
その言葉にジークは改めて研究書に視線を向けた後、大きく頷いた。
「わかれば良いです。それより、そろそろ寝なさい。眠くて動けないとフィーナに何を言われるかわかりませんよ」
「明日、フィーナと一緒ですか? できれば別の人と、それこそ、レインとか」
「ダメです。フィーナの戦い方をフォローできるのはジークしかいませんから……シーマさんからも別行動にして貰わないと困ると言われていますし」
セスはジークの様子に彼が言いたい事を理解してくれたと思ったようで今日は休もうと言う。
ジークは頷くが明日、フィーナと組まされると聞き、眉間にしわを寄せるが今日の巨大蛇探索の報告から考えた結果だと首を横に振る。