第794話
「兄上だって働いているよ。今はカインもシュミットも居ないから自分で働かないといけないからね」
「……そうなんだけど、そう思えないのはどうしてかな?」
「それで王都周辺でも巨大蛇が見られていると言ったがそれをどうしたいんだ? 元々、王都の周辺には生息していたんだ。少し増えたくらい騎士団でどうにかしろ」
ライオは小さくため息を吐くとジークは眉間にしわを寄せたままである。
フィリムはエルトの話などどうでも良いのか本題に移ろうと考えたようだが、特に興味がないようでため息を吐く。
「そうだよな。バーニアも元々、武具の材料に使っていたんだし……王都周辺でも巨大蛇が出ているって事は値が下がるな」
「値段が下がるって事はバーニアさん、困ってしまいますね」
「それに関して言えば仕方ないね」
ジークも王都の周辺に巨大蛇がいる事は知っているため、ライオの件はフィリムの意見を聞かなくても良い事だと思ったようで首を捻る。
巨大蛇の鱗や骨の値が崩れる可能性が高くノエルは心配そうな表情をするが、ライオはバーニアとは面識が薄いため、反応は鈍い。
「だけど……」
「それに関して言えば、ライオ王子の言う通りなんだよな。だけど、王都でも巨大蛇か? ……フィリム先生、この間の薬品でおかしな実験してないですよね?」
「外ではしていない。研究対象を逃がすと面倒だからな」
ノエルは納得が行かないようで目を伏せているが、ジークはライオの言葉に頷くとおかしな考えが頭をよぎったようで疑いの視線をフィリムに向ける。
フィリムは実験を外ではしていないと言い切るが、その言葉を信じ切れるほど彼の印象は良くない。
「……あれだよな。フィリム先生がアーカスさんと知り合いって聞いたら、更に何をしでかすか不安になってきたよな」
「そうですね……でも、ジークさん、そんな事を言ってフィリム先生の気分を害してしまったら」
「別に気にする必要はない。まだ、外で研究をするまでに至っていないだけだ」
ジーク不安を隠す事無く、言葉にするとノエルは苦笑いを浮かべて頷くが、すぐに表情を引き締める。
フィリムは2人の言葉に気分を害する事はなく、あくまでも実験の途中だと言い、その言葉に3人の眉間にはしわが寄った。
「……とりあえず、本題に戻っても良いですか」
「かまわん」
「私はさほど詳しくありませんが、蛇の嫌がる薬草類があると聞きました。今回の蛇騒動がいつまで続くかはわかりませんが、広範囲で蛇の目撃例があるため、騎士団だけでは手が足りませんのでその薬草を使って蛇を村々から遠ざけたいと私は考えています」
ライオはこのままだと話がまったく進まないと考えたようで話を戻して良いかと聞く。
フィリムが頷いたのを見てライオは自分の考えを話し始めて行き、彼の意見はジーク達がフィリムで考えていた事と同じであり、ジークとノエルは顔を見合わせる。
「どうかしたのかい?」
「わたし達もフィリム先生に同じ事を相談するつもりだったんです」
「そうなのかい? それなら、二度手間にならなくて良かったね」
2人の反応にライオが首を捻るとノエルは慌てて答える。
彼女の言葉にライオは小さく頷くとフィリムへと視線を向けた。
フィリムはソファーから立ち上がると研究室にある本棚から本を2冊取り出す。
「……見られている蛇の種類はどれだ?」
「蛇の種類ですか?」
「ジーク、私はこっちを先に読ませて貰うよ」
フィリムは本から蛇の種類を探せと言うとノエルは良くわからないようで首を捻る。
ライオは1冊を手に取るとページをめくって行き、ジークは残りの1冊を読みだす。
「……」
「ジークさん、飽きていませんか?」
「そんな事はないぞ……と言うか、フィリム先生はフォルムに出ている蛇を見たんですから俺が探す必要はないんじゃないですか?」
しかし、ジークは長続きさせる事ができず、ノエルはそんなジークの様子に気が付いたようで大きく肩を落とした。
彼女の言葉にジークは慌てて首を振るが、フィリムが中庭で巨大蛇を見ていた事を思い出し、本をテーブルの上に置く。
「見たが生きている時にしか見られないわずかな違いもある。それをわかるのはジークしかいないだろう」
「……そう言う物なのか?」
「そうだね。だけど……本当にジークは興味のない物には集中力が続かないね。薬草類の本を見ていた時や調合の時とは全く違うね。そこまでとは言わないけど少しでも集中して見なよ」
フィリムはジークが調べるのが当たり前の事だと言う。
調べるのが面倒なためか、フィリムの言葉が本当かとライオに聞く。
ジークの様子にライオは小さくため息を吐くとジークが集中している時の事を思いだしたようで眉間にしわを寄せる。
「そう言ってもな」
「それにこの本はジークが興味のある物もしっかりと載っているみたいだけどね。しっかりと読みなよ」
「……」
ジークはため息を吐くがあまり乗り気にはなれないようで頭をかく。
ライオは改めて本を読んでみるように言うと自分の持っている本をジークの前に開き、本に載っている文を指差す。
ジークはライオが指差した文へと視線を向けると目つきが変わる。
「本当にしっかりと読んでいなかったみたいだね」
「あの、ライオ様、ジークさんはどうしたんですか?」
「これ」
ジークは読みかけていた本を手に取ると食い入るように読み始める。
その様子にライオはため息を吐くと状況が理解できないノエルは首を傾げた。
ライオは自分の持っていた本をノエルにも見せるように広げると彼女は首を傾げたまま覗き込む。
「えーと?」
「難しい事は後にしようか? まあ、蛇の部位の薬になる物や毒を持っている物の場合は解毒方法も細かく書いてあるんだよ。それにね」
「アリア=フィリス? これって、ジークさんのおばあさんの書いたものですか?」
ノエルはジークがどこに興味を示したかわからないようで首を傾げたままである。
ライオは彼女の様子に苦笑いを浮かべると簡単な説明をした後、本の背表紙をノエルに見せた。
そこにはジークの祖母であるアリアの名前が記されており、ノエルは驚きの声を上げる。