第789話
「知っているんですか? ……いや、知らなかったんですか?」
「……言っている事はわからないけど、言いたい事はわかるね」
「そうですね」
ジークはカインを介して2人が知り合いだと勝手に思い込んでいたようであり、カインへ聞く。
彼の言葉は少しおかしくカインは大きくため息を吐くが、セスもジークと同じ事を考えているようで彼女の眉間には深々としたしわが寄っている。
「俺は言った事はないね。アーカスさんは世捨て人だし、魔術学園とか王都とかに関わり合いたくないだろうからね」
「そう言われればそうか?」
「だから、アーカスさんがルッケルの毒ガス騒ぎを手伝っていたのは、俺は結構な衝撃だったんだよね」
カインはその質問に答えるとジークは納得したようで頷く。
ジークが頷いている様子にカインは特に考えもなくアーカスを表舞台に引っ張り出せたジーク達に驚いたと言いたいのか大袈裟に肩を落とす。
「手伝ったって言ったって、確実に他の目的があったからでしょ」
「……興味の対象があったからな」
「そうですね」
しかし、アーカスを動かしたジーク、ノエル、フィーナの3人はそんな気はまったくないため、首を捻っている。
「あの、それよりもフィリム教授の質問に答えなくて良いのですか?」
「そうですね。師匠がどのアーカスさんについて話しているかはわかりませんが、俺達の知っているアーカスさんは興味の対象が性格の悪い罠作製や使い方のわからない魔導機器作製が趣味なハーフエルフですよ」
「そうか……案外、近くにいたんだな」
リアーナは完全にフィリムを無視して内輪話を始めている4人の姿に質問に答えるべきだと手を上げた。
カインはバツが悪そうに苦笑いを浮かべると誤魔化すように1つ咳をした後、間違いなく同一人物だと言いたげに頷く。
フィリムは小さく頷くと何かあるのか考え込み始める。
「……どう言う知り合いなのよ?」
「わからないけど……カイン、心当たりはないのかよ?」
「なくもないけど、それは師匠が話してくれるんじゃないの? 後、フィーナ、失礼だから人を指差すのは止めなさい」
フィーナは考え込んでいるフィリムを指差し、2人の関係を聞くとジークはカインに予想で良いから話せと言う。
カインはすぐにフィリムから答えが聞けると思っているためか、待っているように指示を出すとフィリムに巨大蛇の説明をしていたため、中断していた夕飯を再開する。
「とりあえず、お茶でも淹れてくるか?」
「そうですね」
カイン以外は夕飯を食べ終えており、ジークとノエルは人数分の紅茶を淹れにキッチンに向かって行く。
「あの、ジークさん、お店は大丈夫でしたか?」
「店の中は何ともなかったな。ただ、裏の畑がな」
「一生懸命、育てたのに残念です……」
2人がキッチンに並ぶとノエルは店の様子が気になっていたようで声をかける。
ジークは思いだしただけで腹が立ってきたようで眉間にしわを寄せるとジークと一緒に薬草を育てていたノエルは悲しくなってきたようで肩を落とす。
「そうだな。せっかく育てたのにもったいないよな」
「はい……もったいないです」
「なるべく、使える物は使おうと思うけどな」
ノエルがかなり落ち込んでいる様子にジークは困ったように笑うと彼女を元気づけようと思ったようでノエルの頭をなでる。
彼の行動にノエルは恥ずかしくなってきたようで顔を赤らめるとジークの顔を見上げた。
「……そこ、いちゃつかない」
「フィーナ!? お前、どこから湧いてくる!?」
「フィリム先生が待っているから戻って来なさいよ」
ジークとノエルの距離が近づき始めた時、2人の後ろからため息交じりのフィーナの声が聞こえる。
2人は慌てて距離をるとジークは誤魔化すように声を上げるがフィーナはジト目でジークを見た後、居間に戻って行く。
「も、戻りましょうか?」
「そうだな。お湯も沸いたし」
ノエルは顔を赤くして声をジークに声をかけるとタイミング良くお湯が沸いたようで2人は紅茶の準備をしてキッチンに戻る。
「お帰り、いちゃついていたみたいだね」
「いちゃついてない。店の様子を話していただけだ」
「そ、そうですよ」
2人が戻るとカインはニヤニヤと笑いながら声をかけた。
ジークはため息交じりで否定するとテーブルに紅茶を並べて行き、ノエルはジークほど上手く誤魔化せないため顔を真っ赤にして否定する。
しかし、その反応はカインの言葉への肯定でしかなく、カインのニヤニヤが止まる事はない。
「それで、フィリム教授はアーカスさんとどういう知り合いなんですか?」
「……アーカス=フィルティナは私の恩師だ」
「恩師って事は……フィリム先生の先生?」
ノエルとカインの様子にジークは大きく肩を落とすと話をそらそうとフィリムにアーカスとの関係を聞く。
フィリムは眉間にしわを寄せたまま、口を開くとフィーナは状況がいまいち理解できないようで首を捻る。
「……そんな事もわからないのか?」
「そうじゃないわよ。それくらいわかるに決まっているでしょ」
「アーカスさん、王都に居たって事か?」
アノスは彼女をバカにするように鼻で笑うとフィーナは彼を睨みつけた。
2人の視線の間には無駄な火花が散り始め、ジークは眉間にしわを寄せるとジークは確認するように聞く。
「そうですね。それもフィリム教授の恩師と言う事は……魔術学園の教授職に就いていたはずです……でも、アーカス=フィルティナと言う名前は歴代の教授職、生徒ともになかったと思います」
「……セスさん、覚えているんですか?」
「これくらい。当たり前です」
セスは自分の記憶の中から魔術学園の名簿を引っ張り出したようで首を捻る。
リアーナは彼女の言葉に聞き間違いだと思ったようで聞き返すとセスはリアーナが何を言いたいのかわからないようで怪訝そうな表情で聞き返す。
「リアーナ、気にしなくて良い。セスさんの記憶にないって事は……アーカスさん、名前を変えているって事か?」
「そうなるね……師匠」
「……別に本当の名前を聞く必要なないだろう。お前達に取って、アーカス=フィルティナはあの人しかいないんだからな」
ジークはアーカスが偽名だと考えたようで頭をかくとカインへフィリムへと視線を向ける。
フィリムはジーク達には関係ない事だと言うとそれ以上、アーカスの本当の名前に触れる気はないようで小さくため息を吐いた。