第787話
「それで師匠は何をしにフォルムへ?」
「カイン、酒は出てこないのか? 夕飯には酒が必要だろ?」
「……バーニア、黙れ」
夕食の準備を終えて、全員が席に着くとカインはフィリムにフォルムを訪れた理由を聞く。
フィリムが答える前にバーニアはテーブルの上に酒がない事に文句を言うとカインは話の邪魔のため、バーニアを睨み付ける。
「酒を出せ」
「……ここには酒を飲む人間がいないからない」
「そうですね。わ、わたしも飲みたいとは思いませんし」
バーニアはそれでも諦めきれないようでこの場に居るメンバーの顔を見まして言う。
ジークは眉間にしわを寄せて首を横に振るとノエルも肯定するように頷き、バーニアはつまらないと言いたいのかムスッとした表情で夕食を食べ始める。
「まったく……それで、師匠、フォルムには何の用で?」
「……これだ」
「……これって、ルッケルの遺跡で見つかった液体ですか?」
カインはバーニアの姿に小さくため息を吐くとフィリムへと再び、視線を向けた。
フィリムは青く発光している液体の詰まった小瓶をテーブルの上に置くとノエルはその液体に心当たりがあったようで首を捻るとフィリムは小さく頷く。
ノエルの口から遺跡と聞き、心当たりのあるジーク、レイン、アノスの3人は小瓶を覗き込むが遺跡探索に同行していなかったカイン達は首を捻る。
「何かわかったんですか? やっぱり、ミミズとかを巨大化させていたのはこの液体なんですか?」
「そう考えるのが妥当だな。あの時に入手した他のサンプルからもこの液体と同等の成分が検出されている」
「……おかしなものが入っている物を普通に食っているんだけど、大丈夫なのか?」
フィリムはサンプルとして持ち帰ったミミズの肉片やモグラとポイズンリザードの血液からも液体の中に含まれた成分が残っていたと言い、その成分がルッケル周辺の生物を巨大化させている可能性が高いと言う。
ジークはその成分が巨大化の原因なら、巨大ミミズの肉を売りにして商売をしているルッケルの人達が心配になったようで眉間にしわを寄せた。
「ルッケルに滞在している生徒からの血液サンプルを貰って分析したところ、この液体と同等の成分は検出されなかった」
「それなら、大丈夫と言う事ですよね?」
「師匠の事ですから、他にもわかっている事があるんですよね?」
フィリムは淡々とした口調でわかった事だけを話して行き、ノエルはどう判断して良いのかわからずに不安そうな表情で聞き返す。
カインはフィリムが話をしている間にレインから簡単に説明して貰ったようでフィリムに説明の続きを求める。
「共通した成分は人族の中の唾液で分解される事がわかった」
「……どういう事だ?」
「一応は食べても人体には影響がないって事かな? それより、師匠、これを知らせるためにフォルムまで来たんじゃないですよね?」
フィリムの説明でカインは一先ず、安心して良いと言うとジーク達は胸をなで下ろす。
しかし、カインはフィリムの性格上、その程度の事でわざわざフォルムまで来たとは思えないようで視線を鋭くするがフィリムは返事をする事無く、夕食を頬張っている。
「……師匠?」
「ただ飯を食いに来ただけじゃないの?」
「そんなわけないでしょう?」
カインはフィリムの次の言葉を待つが返事はなく、フィーナはクーちぎったパンを食べさせながらどうでも良さそうに言う。
セスはそんなわけないと言いたいのか大きく肩を落とすがフィリムからの否定は無く、微妙な沈黙が広がって行く。
「……本当にこれだけですか?」
「魔術学園周辺の食事も飽きたからな。最近は代わり映えのする店を探してくる人間も居ないからな」
「まるで俺が食事処を探してさまよっていたような言い方は止めてください。それなら、俺達の相談に乗って貰っても良いですか?」
ノエルは遠慮がちに手を上げて聞くとフィリムは表情を変える事無く、淡々とした口調で答える。
カインは大きく肩を落とすとフォルムでここ最近で見られている巨大蛇への対策を行いたいため、フィリムに聞く。
「……興味深い話なら付き合ってやろう」
「とりあえず、説明しますね」
フィリムはつまらない話なら答える気はないと言い、カインは眉間にしわを寄せると巨大蛇の事を話し始める。
「……期待できるのか?」
「俺に聞くな」
「とりあえず、どうにかしてくれないと仕事増えるから、何とかして欲しいわ」
カインの説明にフィリムは興味なさそうに食事を続けており、その様子にアノスは眉間にしわを寄せた。
ジークはフィリムが何に興味が湧くかなどわからないため、大きく肩を落とすとフィーナは巨大蛇退治が面倒のようで大きく肩を落とす。
「お前、働いてないだろ。今日だって、バーニアの話を聞いてなかったし、1匹も倒せなかったんだろ」
「何を言っているのよ。大きいって言ったってたかが蛇でしょ。余裕よ」
「バカな事を言うなよ」
ジークは火との話を聞かずに足を引っ張ったであろうフィーナを小ばかにするように言うとフィーナはバーニアの話など聞かなくても蛇くらい余裕で倒せると言う。
しかし、ジークは彼女の言葉を信じる気はないようで呆れたようにため息を吐いた。
「それがですね……」
「リアーナさん、どうかしましたか?」
「……最後の方にはフィーナさんは普通に巨大蛇を剣で斬っていました」
ジークのため息にリアーナは苦笑いを浮かべる。
レインは何が起きたかわからずに首を傾げるとリアーナはどう言ってわからないようでフィーナが巨大蛇を倒していた事を話す。
彼女の言葉にジークとアノスは怪訝そうな表情でフィーナを見るが、彼女は当然だと言わんばかりに胸を張っている。
「……どういう事だ? バカだから、本能でどうにかなる物なのか?」
「わ、わかりません」
「理解ができない」
リアーナが嘘を吐くようには見えず、アノスは眉間にしわを寄せて聞き返す。
その状況を見ていたリアーナもなぜ、フィーナが巨大蛇の鱗を切り裂けたかわからないようで首を横に振り、ジークはなんと言って良いのかわからないようで頭をかく。