第786話
「とりあえず、巨大蛇の鱗と骨はバーニアが引き取ってくれるから……おかしな事にならないように頼むよ」
「……わかりました」
「あの、カインさん、お客さんです」
カインはセスの味方をするように話をした後、2日続けて宴会にならないように頼む。
セスも昨日のようなバカ騒ぎは避けたいようで大きく頷いた時、ノエルが帰ってきたようで遠慮がちにカインを呼ぶ。
「ノエル、お帰り……なんで、フォルムに居る?」
「師匠、どうして、フォルムに?」
「……でも、返事がないんだよな」
視線がノエルに集中すると彼女は気まずそうに中庭を指差しており、ジーク達が再び、中庭へと視線を移すとそこには巨大蛇の解体を見学しているフィリムの姿がある。
ジークは眉間にしわを寄せ、カインは中庭に近い窓へと駆け寄り、フィリムに声をかけるがフィリムの興味は巨大蛇にあり、返事はない。
「師匠だし、仕方ないね。それでも手間が省けたから良しとしようか」
「そうだな……ちょっと、バーニアを手伝ってくるか? 解体が終わらないとフィリム先生は話を聞いてくれなさそうだし」
「任せるよ。俺は夕飯の準備でもしましょうか?」
カインは苦笑いを浮かべるとジークは頭をかきながら立ち上がり、バーニアを手伝いに中庭に向かう。
夕飯も近い時間のため、カインは夕飯を食べながらの話にした方が良いと思ったようでキッチンに向かい歩き出すが、セスが笑顔でカインの肩をつかむ。
「カインはこれをお願いします」
「……いや、まずは夕飯の準備をしないといけないだろ。ミレットにだけ任せるのも悪いし」
「えーと、わたし、夕飯の準備を手伝ってきますね」
セスはカインには書類の山を片付ける仕事があると言うが、カインは昼前に書類の山と対峙したのがかなりの苦痛だったようで遠慮したいのか首を横に振る。
カインは苦笑いを浮かべながら逃げようとするがセスが許すわけもなく、ノエルはこの場の空気に耐え切れなくなったようで逃げるようにキッチンに向かう。
「ノエルが夕飯の準備を受け持ってくれるみたいですね」
「……わかったよ」
「私達はあっちですかね」
カインは諦めたのか大きく肩を落とすと書類に目を通し始めるとレインは中庭の方に領民達が集まってきたのに気づく。
彼の言葉にセスは頷くと2人は居間を出て行ってしまう。
「バーニア、手伝うぞ」
「そうか。悪い……フィリム先生? ジーク、俺が解体している間に王都に行ったのか?」
「いや、なんか勝手に来た。何しに来たかは俺達も知らない」
ジークが中庭に着くとバーニアに声をかける。
バーニアは1人で作業をするのもきつかったようで笑顔を見せるがすぐにフィリムがいる事に気づき、首を捻った。
ジークは苦笑いを浮かべるとバーニアは解体に使えと言いたいのかナイフを投げて渡す。
「フィリム教授、お久しぶりです」
「セスさん、挨拶は無駄じゃないですか?」
「……わかっていますが、必要な事でしょう。それより、ジーク、バーニアさん、領民に渡して良い物はどれでしょうか?」
ジークが巨大蛇の解体を始めようとした時、セスとレインが中庭に到着する。
セスはフィリムに向かい頭を下げるが彼が返事を擦る事はなく、ジークは苦笑いを浮かべた。
大きく肩を落としたセスは屋敷の外に集まり出した領民達に巨大蛇の肉を配ってしまいたいようで2人に聞く。
「ずいぶんと急いでいるみたいだな」
「……昨日の晩のようになるわけにはいきませんから」
「カインが酒を飲まされたら元も子もないからな」
バーニアはセスの様子に首を捻るとセスは昨晩のバカ騒ぎが起きるのは遠慮したいとため息を吐いた。
ジークはタイミング良くフィリムが来ているため、カインを酔わせるわけにもいかないと苦笑いを浮かべる。
「酒? ……フォルムの酒って美味いのか?」
「バーニア、手を止めるなよ」
「ジーク、フォルムの酒は美味いのか?」
酒と聞き、バーニアの手は止まってしまう。
ジークは大きく肩を落として作業を続けるように言うが彼の興味は商品よりも酒に移っており、ジークに詰め寄る。
「俺に聞くな。俺は酒を飲まないからな」
「飲めよ。覚えた方がいろいろと世界が広がるぞ」
「……あれだよな。悪い見本が多いから酒を飲みたいと思わないんだよな」
バーニアは酒を飲まないジークを仲間に引き込もうとするが、ジークはバーニアやソーマと言った酒癖の悪い人間が居るのが原因で酒は飲みたくないと言う。
ジークの意見にはセスも賛成のようで大きく頷いており、レインは苦笑いを浮かべている。
「……お酒は後でいくつか選んで届けさせますから、作業を続けてください」
「何を言っているんだ。酒は大勢で飲んだ方が楽しいに決まっているだろ」
「レイン、セスさん、そっちの方から配って良いぞ」
セスはため息交じりでバーニアに提案をするが、彼は昨晩に続き宴会をやりたいようである。
その様子にジークは眉間にしわを寄せるとセスとレインにバーニアが解体を終えた巨大蛇の肉を領民に配るように言う。
2人は頷くと屋敷の外にいた領民達を招き入れるが、昨日と違い肉を取りに来ているのは女性が多い。
「バーニア、さっさと続けるぞ」
「待て。俺の話は終わっていない」
「バーニアさん、どうやら、今日は宴会にはならないようですよ」
ジークはバーニアに作業へ戻るように言うが、バーニアは宴会をどうしてもやりたいようであり、ジークの肩をつかむ。
2人の手が止まっている様子にレインは気が付いたようで苦笑いを浮かべると何か思うところがあったのか宴会は起きないと言う。
「どういう事だ?」
「昨日のバカ騒ぎで奥さん達が怒ってしまったみたいでしばらく、お酒は取り上げのようです」
「……あれだけバカ騒ぎすればそうなるよな」
彼の言葉にバーニアの矛先はレインに向けられる。
屋敷に来ている人達からレインは情報収集をしたようであり、苦笑いを浮かべたまま彼女達から聞いた事を話す。
昨晩のバカ騒ぎは家庭を持っていた男性達には妻や子供から不評だったようで禁酒を命じられたようであり、ジークは苦笑いを浮かべる事しかできないが、バーニアは宴会がつぶれた事が残念なようで大きく肩を落とした。