第785話
「……現に昨日の夜にお店が襲撃されていますよね?」
「でもな。そんな事を言っていたら何もできないだろ」
「カインからも何か言ってください」
レインは自分の事になると危機感の薄いジークを説得しようとするが、ジークは心配ないと笑っている。
その様子にレインはカインから説得して貰おうと考えたようで視線を向けた。
「そうだね……それでも、ジークにはいろいろと動いて貰わないといけないから、あまり警戒してがちがちになって貰っても困るんだけど、ここまで無警戒のは困るかな?」
「警戒はしているぞ」
「あまり油断しているとフィーナみたいに下手を打つよ」
カインも少しジークが心配になったようで苦笑いを浮かべるとジークは油断していないと言う。
それでもカインの目には油断しているように見えたようでフィーナを引き合いに出すとジークの顔は引き締まる。
「……それはフィーナさんに失礼じゃないですか?」
「いや、正当な評価だろう」
「そうだな。今日だって、バーニアの話を聞いてないから、役立たずだったんじゃないか……バカだから、話を聞いても覚えきれないだろうけどな」
レインはフィーナの評価に肩を落とすがアノスはレインの言葉を鼻で笑う。
ジークはリアーナやオクス達が巨大蛇の解体を教わっているなか、頑なに話を聞こうとしなかったフィーナの姿を思いだしたようで大きなため息を吐いた。
「フィーナはバカだからね。それならどうするかな? 今回は俺が全部、回るか? あんまりフォルムを空けるとセスに怒られるんだよね」
「……最近は他の場所の事に首を突っ込んでいるからな」
「カインは今に関わらず、昔からいろんな場所に首を突っ込んでいるじゃないですか?」
カインは考え直したようでフィリムを探すのは自分でやると言うも、セスに怒られると思ったようで大きく肩を落とす。
ジークとレインはカインの事だから余計な事に首を突っ込むとしか思えないようで苦笑いを浮かべた。
「……あまり、おかしな事に首を突っ込まないで貰いたいんですけどね」
「セスさん、お帰りなさい……ずいぶんと大荷物ですね」
「都市の統治が上手く行って国に忠誠を尽くしていれば国のためじゃないか?」
その時、セスが書類を運んできたようで大きなため息を吐くと書類をテーブルの上に置く。
セスの様子からはカインにもう少し腰を落ち着けて領地運営をして貰いたいと言う思いが見えるがカインはあくまでも国のために動かないといけないと言う考えを持っている。
「それはわかりますが」
「それに今回はフォルムの件だからね。領主として動くんだから問題はないよ」
「フォルムの件?」
セスはカインへと疑いの視線を向けており、カインは苦笑いを浮かべると今回は自分の仕事だと言う。
その言葉にセスは話の全貌を理解していないため、首を傾げるとカインはフィリムに巨大蛇の件で相談したい事があると説明する。
「確かに巨大蛇の件が片付いてくれるとこちらもありがたいのですが……」
「シーマに領地運営を手伝わせる事ができるからね。セス的にも楽だろうね」
「……あいつは何を企んでいるんだ?」
セスは巨大蛇の事をフィリムに相談したいと聞き、納得はできたようだがそれでもカインを疑っているようでジト目でカインを睨み付けている。
2人の様子にジーク達は下手な事を言うと矛先がこちらに来ると思ったようで口をつぐむ。
セスはカインにフォルムの領地運営をするように目で訴えているがカインは笑っており、その笑顔にアノスは背中に冷たい物を感じたようで小さな声でつぶやく。
「それなら、セスが師匠に会ってきてくれても良いけど」
「……早急に済ませて、こちらに戻ってきてください」
「簡単に折れたな……変わり者だから仕方ないか」
カインはセスにフィリムの相手を任せると言うとセスはすぐにカインに許可を出した。
その様子にジークは頭をかくとセスは少しだけ気まずそうに視線をそらす。
「まぁ、師匠を苦手としている人は多いからね。セスみたいな人間は特にかな?」
「……人の都合を聞かないからな。セスさんみたいな真面目な人間には辛いだろうな」
「そう言うわけではありませんけど、私より、フィリム教授の研究室にいた事もあるカインの方が適任だと思っただけです」
ジークとカインはセスがフィリムの事を苦手にしている理由がわかると苦笑いを浮かべた。
セスは苦手ではないと言うが、その態度からもフィリムの事が苦手なのは明らかであり、カインは生温かい笑みでセスを見つめている。
「実際問題、俺が行かないといけないんだけどね。セスがエルト様やライオ様に見つかると厄介だから」
「……確実にフォルムに押し掛けてくるからな」
「そうですね。私だとお2人に見つかると断り切れる気がしません」
セスはカインの視線にふて腐れたように頬を膨らませるとカインは小さくため息を吐く。
ジークとカインの心配はエルトとライオの自由すぎる王子の言動であり、真面目なセスでは2人の命令に逆らう事はできない事は簡単に予想できる。
「まあ、リアーナを犠牲に逃げる事は可能だけどね。1度しか使えないけど」
「……流石にそれは可哀そうだろ。今日は助けて貰ったわけだし」
「そうですね。彼女のおかげで今日の成果は良かったようですし」
カインはリアーナにエルトとライオを押さえる役目を与えようとするが、ジークとレインは非難のこもった視線を彼に向けた。
セスはリアーナの名前に首を傾げるとアノスが指で中庭を指差し、セスは中庭へと視線を移すとそこには巨大蛇を解体しているバーニアの姿と血だらけになっている中庭がある。
「どうして、今日もここに運び込んでいるんですか!?」
「それは俺達に言われても困る。フィーナに言ってくれ」
「むしろ、中庭で作業をしていたんだから、屋敷に入ってくる前に気づかないものか?」
セスは顔を真っ赤にしてこの場にいた4人を怒鳴りつける。
しかし、巨大蛇を運んできたのはフィーナとリアーナであり、ジークは首を横に振り、アノスは屋敷の中に入ってくる前に気づくべきだと言いたいようで呆れたように言う。