第783話
「……ジークは何をしているんですか?」
「いろいろあってね」
「あれ? これはひょっとして」
ジオスの店は侵入者があったものの、ジークとカインの見立てでは被害は何もなく、罠の設置を終えるとフォルムに戻った。
ジークはフォルムに戻るなり、踏み荒らされた薬草や植物を加工できるものは加工してしまおうと考えたようでキッチンで作業を始めだし、帰宅したミレットは彼の様子に首を傾げる。
彼女の質問にカインは苦笑いを浮かべる事しかできないでいるとミレットは何かに気が付いたようでキッチンに入って行こうとする。
「どうかしたのか?」
「いえ、ジークが持っている植物はジークのお茶の材料じゃないですか?」
「気のせいだろう。邪魔をしてやるな」
アノスはミレットの行動に何か感じたようで彼女を引き止めた。
ミレットは少しキッチンを覗いただけでジークの手元にあるものの種類を理解したようで興味が湧いたようで目を輝かせており、アノスは彼女をキッチンに入れてはいけないと考え、留まるように言う。
「でも……」
「えーと、昨日の店の襲撃の件で店の裏にあった畑が踏み荒らされてね。ジークは使える物の選別、その他にもいろいろとやっているんだ。お茶も元々は薬の材料から余ったもので作っているって言っていたし、使える物は全部、薬になるんじゃないかな?」
「それは……もったいないですね」
ミレットはキッチンの中が気になるようでちらちらと覗いており、このままではジークの邪魔になると思ったようでこれまでの経緯を話す。
それでもミレットは薬の材料にするよりはジークが作っている紅茶にした方が良いと考えているようでジークの手元に鋭い視線を向け始める。
「……どうにかしないといけないんじゃないか?」
「そうなんだけどね……どうした物かな?」
「それはジークがどうにかするだろ。それより、お前は他にやるべき事があるんじゃないか?」
アノスはカインに何か手を打てと目で訴えるがカインも良い案が浮かばないようで首を捻った。
その時、ソファーでだらけていたバーニアがカインに声をかける。
「……書類確認は今日はやりたくないな」
「違う……用が済んだなら、俺を王都に戻せ。俺だっていつまでもフォルムで遊んでいるわけにはいかないんだ」
「忘れていた。勝手に帰ったらどうだ?」
カインは書類を思いだしたようで大きく肩を落とすがバーニアは王都に戻せと大きく肩を落とす。
その言葉でカインは小さくため息を吐いた後、バーニアを追い払うように手を振る。
「バカな事を言うな。フォルムから王都まで何日かかると思っているんだ」
「冗談だよ。王都に戻してあげたいんだけどね。リアーナもいるし、何度も往復するのはしんどいんだよね」
「……忘れていたな。森の方は上手く行っているのか?」
バーニアは大きなため息を吐くとカインはくすりと笑った後、フィーナ達に協力しているリアーナの名前を出す。
リアーナの事をバーニアはすっかり忘れていたようで気まずそうに頭をかくと巨大蛇探索を気にし始める。
「行ってきたらどうだ? アノスもヒマなら手伝ってきてよ」
「別にヒマではない。それにあのバカ女の近くにいるのは正直、精神的に良くない」
「言いたい事もわかるけど、兄としては複雑な言葉だね」
バーニアの様子にカインはアノスとともに巨大蛇探索の手伝いを頼む。
しかし、アノスは乗り気にならないようであり、首を横に振ると原因がフィーナにあるため、ため息しか出ないようで大きく肩を落とした。
「……貴様は兄貴なら、どうにか出来ないのか?」
「できたら、こんなに苦労してないよ。どうして、あそこまでバカに育ったんだろうね」
「2人とも言いすぎじゃないですかね。それより、話が長くなるならお茶を淹れてきましょうか?」
フィーナの頭の悪さにカインとアノスは顔を見合わせた後、深いため息を吐く。
ミレットはその様子に苦笑いを浮かべるとキッチンに入るチャンスと思ったようで嬉々としてキッチンに向かって歩き出す。
「……しまった」
「ジークに任せようか」
ミレットの止めようと思った時にはすでに遅く、アノスは舌打ちをし、カインはジークに丸投げをする。
「ジーク、紅茶を淹れたいんですけど?」
「すいません。俺がやるんで居間にいてください」
「そうは言わずにジークも忙しそうですし」
ミレットはキッチンに入るなり、ジークの手元を覗き込もうとするが、ジークは身体を上手く動かして彼女の行動を遮った。
それでもミレットは紅茶の材料を確保したいようでテーブルに置いてある薬草類を見つけて物色し始める。
「……ミレットさん、邪魔しないでください」
「でも、これはいつもの紅茶の材料ですよね? それにこっちは生食でもいけますし。ジークはいろいろと育てていたんですね」
「元々、薬用に栽培しているんでダメです」
ジークは振り返る事無く、ミレットがやっている事に察しがついたようでため息を吐くとミレットは紅茶の材料以外にもいろいろ見つけたようでジークの説得に移ろうとする。
それでもジークは頷く事はなく、ミレット恨めしそうにジークの背中を見ており、ジークはここで負けてはいけないと考えたのか紅茶用のお茶を沸かしだす。
「……ジーク、お姉ちゃんのお願いは聞いてくれないんですか?」
「その言い方、止めて貰っても良いですか?」
「良いじゃないですか。たまにはお姉ちゃんの言う事を聞いてくれても」
ミレットはジークを説得しようとしたようで背後から甘えるような声で言い、ジークは大きく肩を落とした。
ミレットは頬を膨らませはじめ、滅多に見る事のない彼女の反応にジークはどういう対応をして良いのかわからないようで眉間に深いしわを寄せる。
「聞いてくれないなら、ノエルを味方に引き入れますよ」
「……止めてください。ノエルが挟まれてオロオロしている姿しか目に浮かびません。それより、忙しいんで邪魔しないでください」
ミレットはノエルを味方に引き入れれば有利と考えたようであり、勝ち誇ったように笑う。
ジークは彼女の言葉に大きく肩を落とすと紅茶を淹れ終えたようでミレットに渡すと彼女の背中を押してキッチンから追い出す。




