第780話
「……疲れた」
「私は何のために、ここの指示を任せられたんですか?」
ジークが囮を始めてしばらくすると同類の血の臭いに引き寄せられた巨大蛇が3匹ほどジークに襲い掛かってくる。
魔導銃で牽制しながら、ジークは拠点に戻るとバーニアの指示で巨大蛇の鱗の脆い部分を狙ったアノス、オクス、リアーナを中心にした攻撃によって簡単に巨大蛇は倒されて行く。
ジークは囮の役目を終えたためか、地面に腰を下ろし休憩に入るなか、シーマは自分がここに居る理由が見いだせないようで眉間にしわを寄せている。
「何で、私の攻撃は効かないのよ!!」
「……何も考えないで攻撃をするからだ」
そんななか、フィーナは巨大蛇に自分の攻撃が効かなかったようで地団駄を踏んでおり、バーニアはもう少し他人の話を聞けと言いたいのか大きく肩を落とした。
「……こういう戦い方もあるんだな」
「何事も全力で戦うのが最善ってわけじゃないからな。まぁ、弱者だろうと戦略や戦術で強者と戦える」
「私はそんなのは認めないわ」
アノスは手に残る巨大蛇の感触が昨日とは違う物と感じているようで小さな声でつぶやく。
バーニアはその声が聞こえたようでくすりと笑うとフィーナは弱点を狙わなくても実力で相手をねじ伏せると言いたいようで大声を上げた。
「バカは置いておくとして、人間は各自にくせがあるから対峙している間に探さないといけないだろうけどな。巨大蛇とかその辺にいる生物相手は本能で攻撃をしてくるから頭を使う事も知らないから、くせなんていくらでも調べられる」
「……その辺の獣と変わらないな」
「そうだな」
バーニアはフィーナをバカと切り捨てると戦い方を覚えた方が良いと言う。
ジークとアノスはフィーナの戦い方は本能で戦っている獣と変わらないと思ったようで大きく肩を落とした。
「とりあえず、解体するか? このままだと荷物になるし、血が残っていると肉が不味くなる」
「そうだな……だけど、倒す方法は浸透したけどこのままで良いのか? いつまでも森の中に人手を割いているわけにもいかないだろ」
「それはそうですね……」
バーニアはいつまでも倒した巨大蛇そのままにはできないと言うとジークも手伝う気のようで腕まくりをするが、巨大蛇がいつまでも森の中に現れるのはフォルムを統治する上で障害になると思ったようで首を捻る。
シーマは拠点の指揮を任せられているため、このままにしていられないと思っており、難しい表情で頷く。
「引き寄せる方法があるんですから、遠ざける方法もあるんじゃないですか?」
「確かにそうだな……フィリム先生なら何か知っているか? 後で行ってみるか?」
「あ、あの。どうして、ジークは嫌そうな顔をするんですか?」
リアーナは2人の手元を覗き込みながら、巨大蛇への対策方法はないのかと言う。
彼女の言葉にジークは考える事があったようで、生物学を専門にしているフィリムの顔を思い浮かべたようで眉間にしわを寄せた。
ジークの表情にリアーナは苦笑いを浮かべて聞くとジークだけではなく、フィーナとアノスの眉間にも深々としたしわが寄っている。
「……ジーク、あんた1人で行きなさいよ」
「そうだな。お前が行け」
「お前ら、俺1人に押し付けるな」
フィーナとアノスはフィリムに会いに行くのはジークだけだと言うとジークは大きく肩を落とす。
「行く時は俺も行ってやるから」
「そう言ってくれると助かる」
「その、フィリム先生と言うのはどんな人なんですか?」
3人の様子にバーニアはジークが可哀そうになってきたようで苦笑いを浮かべた。
ジークはその言葉で少しだけ肩の荷が下りたようで胸をなで下ろすとリアーナはフィリムと面識がないため、どんな人なのかわからないようで眉間にしわを寄せる。
「いや、実際問題で言えば、フィリム先生は会うのがイヤなわけじゃない。ルッケルに居れば良いんだけど、いない時は魔術学園に行かないといけないから……ライオ王子が出てきて面倒そうだ」
「……そういう事ですか」
「大丈夫だ。俺達が魔術学園に行く時に、きっと、リアーナがライオ王子を引き受けてくれるから」
ジークはため息交じりで厄介なのはライオだと言うとリアーナも納得ができたようで大きく肩を落とす。
バーニアはジークの心配事はリアーナに丸投げしてしまえと言い、その言葉にジークは良い考えだと思ったようでポンと手を叩く。
「ま、待ってください。無理です。私が何かやったら、エルト様がかぎつけてきて絶対にばれます」
「……確かに出てきそうね」
「最近はシュミット様もワームに居るから仕事を押し付ける相手もいないから、何かあったらすぐにかぎつけてきそうだな」
リアーナは両王子の相手をしなければいけなくなると大きく首を横に振り、ジークとフィーナは改めて、2人の王子が厄介だと思ったようで頭をかいた。
「……一先ずはカインとセスさんに相談だな。フォルムの報告とか適当な内容をあいつならでっち上げるだろうし」
「確かにそうだな。あの男なら何か考え付きそうだ」
「フォルムの事だし、曲がりなりにも領主なんだから案の1つや2つ出して貰わないと困るわね」
ジークはエルトとライオを引きつけると言う面倒事はカインとセスに任せてしまおうと考える事を諦める。
フィーナとアノスもあまり2人に関わり合いたくないようでカインに丸投げする事を決めたようで大きく頷く。
「とりあえず、話は決まったか?」
「……丸投げする方向にみたいですけどね」
「仕方ないだろ。エルト王子とライオ王子の扱いは俺達には無理だ」
3人の様子に巨大蛇の解体を終えたバーニアは苦笑いを浮かべる。
シーマは呆れているのか大きなため息を吐くとジークは気まずいのか頭をかいた。
「2人とも灰汁が強いからな。さてと、ジーク、アノス、俺達はそろそろ、カインのところに戻っても良い時間じゃないか?」
「そうだな。時間もかなり経ったし、そろそろ、良い時間かな?」
「……書類の山が増えていそうな気がするがな」
バーニアはカインの仕事も終わった頃合いだと思ったようでジークとアノスに屋敷の戻ろうと提案する。
ジークは頷くと自分が解体に使っていた道具を片付け始めるが、その隣でアノスはまだカインの仕事が終わっていない可能性を示唆するとジークとバーニアの眉間には深いしわが寄った。