第78話
「おはよう。ジーク」
「あぁ……」
日が昇り、まだ眠いのか開ききっていない目をこすりながらフィーナがジークに挨拶をする。ジークは流石に徹夜をしていたためか、少し、反応は鈍い。
「……顔洗う」
「あぁ。簡単な朝飯を作ったら、1時間くらい寝かせて貰うぞ」
「わかってるわ」
フィーナはふらふらと近くにある川に向かって歩き出すとジークは朝食の準備に移る。
(……ノエルが起きてこないな。やっぱり、昨日、何か怒らせる事を言ったのか?)
ノエルはいつもなら、この時間帯には起きて来ているようで、ジークは昨日の夜のやり取りもあるため、包丁片手に小さくため息を吐く。
「何、朝から、たそがれてるのよ?」
「何でもない。それより、川まで行ったなら、水を汲んで来て沸かしてくれよ。朝食の準備ができなくてもそれくらいできるだろ。鉱山まで距離もまだあるしな」
顔を洗ってきたフィーナはジークの様子に首を傾げる。ジークは手ぶらで戻ってきたフィーナに呆れているようである。
「わ、わかってるわよ。それくらい」
「なら、良いけど」
フィーナは頭の中から、すっかり飲み水の確保が抜けていたようだが、忘れていないと虚栄を張る。ジークはそんな彼女の様子に深く追求する事はしない。
「あ、あれよ。水を汲んでくる物を忘れたから取りにきたのよ」
「そうか。それなら、さっさと行って来てくれ。沸かす時間と冷やす時間もあるんだからな」
「い、言われなくてもわかってるわ。わ、忘れていたわけじゃないんだからね」
フィーナはジークからの追及がないにも関わらず、自爆を始める。ジークは気にする事なく朝食の準備を続けて行くとフィーナは忘れていないと言う事を強調して再度、川へ向かって歩き出す。
「……どうして、あいつは自分の行動で墓穴を掘ってる事に気が付かないんだ?」
「あ、あの。ジークさん、おはようございます」
ジークはフィーナの行動に眉間にしわを寄せた時、昨日の夜のやり取りがあったため、気まずそうな表情をしたノエルがテントから顔を出し、朝の挨拶をする。
「あぁ。おはよう。ノエル」
「お、おはようございます」
ジークはノエルの声に気が付き、頭を下げると彼女は、ジークにつられるようにもう1度、朝の挨拶を交わす。
「2度はいらないんじゃないか?」
「そ、そうですね」
ジークはノエルから、昨日の夜に感じた怒りが消えている事に安心したのか笑顔を見せる。ノエルは彼が昨日の事を怒っていると思っていたのか、ジークの表情がいつもと変わらないため、胸をなで下ろした。
「ノエル、もうすぐ、朝食ができるから、顔を洗ってきたら良いよ。今、フィーナが水を汲みに行ってるし」
「は、はい。行ってきます」
ジークは朝の準備をしてくるように言うと、ノエルは慌てているのか大きく頷き、川へ向かって駆け出して行く。
「転ばないと良いけどな……ノエルが怒ってなくて良かったよ」
ジークはノエルの背中に運動神経の鈍い彼女が川に辿りつくまでに何もない事を祈るようにつぶやいた後、いつもと変わらないノエルの表情を見たためか表情を緩ませた。