第777話
「……剣、折れないだろうな?」
「加護を受けた剣だし、簡単には折れないとは思うけどな。体力がいつまで持つかだな」
三度、振るった剣も巨大蛇の鱗に跳ね返されてしまったのだが、そのせいで完全にフィーナは意地になったようで巨大蛇の攻撃を潜り抜けながら何度も何度も剣を巨大蛇に叩きつけて行く。
その様子にジークは彼女の剣が折れてしまう事を心配し始めるがバーニアは剣の事は心配していないようでフィーナの体力を心配している。
「体力は大丈夫だろ。バカだし」
「バカなのはわかるけどな」
「誰がバカよ!! 待ってなさい。こいつを叩き斬ったら、次はあんた達よ!!」
ジークはバーニアの心配をフィーナはバカの一言で切り捨てるとバーニアは小さなため息を漏らす。
2人の言葉はフィーナの耳にしっかりと届いており、フィーナは大声を張り上げて叫ぶ。
「……集中しろよ」
「集中力を切るのはあんたが余計な事を言うからでしょ!!」
「お前達、仲良いな」
その時、巨大蛇はフィーナを一飲みにしようと飛びつこうとし、ジークはそれを見逃す事はなく、魔導銃を放つ。
魔導銃で牽制された巨大蛇は飛ぶのを躊躇し、フィーナはジークに文句を行った後、巨大蛇へと剣を構え、攻撃をするスキを探す。
2人の様子にバーニアは苦笑いを浮かべると巨大蛇の意識をフィーナだけからそらそうとしたようで巨大蛇の視界から外れるように位置をずらした。
巨大蛇は3方向からの攻撃に対処するために後手に回ったようで攻撃のタイミングを見計らっているのか、赤い舌を出しながら距離とスキを探している。
「……蛇でも頭を使っているのにな」
「何なのよ。この硬さ。全然、斬れないじゃない!!」
巨大蛇の動きを見ていたジークからため息が漏れた。
その瞬間、フィーナは大地を蹴り、巨大蛇へ向かって駆け出す。
巨大蛇はフィーナの攻撃では鱗を貫けないためか、その攻撃を受け切ってから攻撃に転じようと決めたのか、フィーナへと鋭い視線を向ける。
しかし、フィーナは巨大蛇の考えなど気にする事無く、剣を巨大蛇へと振り下ろす。
それでも彼女の剣では鱗を切り裂く事ができず、彼女の不満はさらにたまって行く。
巨大蛇は近づいてきたフィーナを見下ろすように睨み付けると彼女を薙ぎ払おうとしたようで尻尾をしならせる。
「フィーナ、離れろ」
「いやよ」
「……まったく」
尻尾の動きを確認したジークはフィーナに巨大蛇と距離を取るように言うが、不満がたまっている彼女はジークの言葉を聞く事無く、剣を何度も振り下ろす。
彼女の言葉にジークは大きく肩を落とすと冷気の魔導銃の引鉄を引いて巨大蛇の尻尾を打ち抜き、尻尾の攻撃を止めた。
「昨日のより、小さいからそれなりに動きは止められるな」
「変温動物だからな。冷気の攻撃は効くな。ジーク、何発か撃ち込んでくれ。動きが鈍くなった方が解体しやすい」
「わかった」
冷気の魔導銃の効果にジークは小さくつぶやくとバーニアは動きが止まった尻尾へと剣を振り下ろす。
氷が砕ける音とともに鱗も砕けたようでバーニアはジークへと指示を出し、ジークは冷気の魔導銃を放つ。
冷気の魔導銃で撃ち抜かれた箇所は徐々に凍り付いて行き、巨大蛇は氷を剥がそうと身体を揺らし始めるとそのスキを付いてバーニアが剣を振り下ろす。
バーニアが剣を振り下ろした先の鱗は砕け、巨大蛇からは血しぶきが上がる。
その様子にフィーナは自分の剣では切り裂けないため、バーニアの剣に何かあると思ったようで舌打ちをするとバーニアに負けじと巨大蛇を切りつけて行く。
「何で、斬れないのよ? その剣、見せなさいよ」
「剣としてはそっちの方が良いと思うぞ」
バーニアの攻撃で巨大蛇はその動きを止めて地面に倒れ込む。
フィーナは自分の攻撃が効かなかった原因を剣の差だと決めつけたいようでバーニアに剣を渡すように詰め寄る。
彼女の様子にバーニアは苦笑いを浮かべると剣をフィーナに渡し、自分は巨大蛇の解体に移り出す。
「そんなわけないでしょ。絶対にこっちの方が良いはずよ」
「……お前、武器屋のバーニアが言っているんだから信じろよ」
「武器屋だから信じられないのよ。自分用に良い武器を隠し持っている可能性だってあるでしょ? それに武器屋なのにこいつを斬れるなんて絶対に武器の差に決まってるわ」
フィーナは必死にバーニアの剣を見ており、ジークは彼女の様子に大きく肩を落とした。
ジークの言葉などフィーナは彼を睨みつけ、ジークは彼女のバカさ加減に呆れたようにため息を吐く。
「何なら、交換してやっても良いぞ」
「本当に?」
「絶対に止めろ。バーニアもおかしな事を言うな」
バーニアはフィーナの剣に価値があると思っているため、小さく口元を緩ませるとフィーナはしめたと言いたいのか表情を緩ませた。
ジークはフィーナが剣をだまし取られる気しかしないようでバーニアを注意するとバーニアは苦笑いを浮かべる。
「冗談だ。頭の弱い妹から剣をだまし取ったら、カインに何を言われるかわからないからな。あいつを敵に回すほど俺もバカじゃない」
「誰の頭が弱いのよ!!」
「……間違いなく、お前だ。少し頭を冷やしていろ」
バーニアはフィーナの剣に商品価値は見出しているようだが、カインを敵に回すほどの価値は持っていないと判断しており、首を横に振った。
フィーナはバカにされた事に気が付いたようでバーニアを怒鳴りつけるが、ジークはフィーナの頭を冷やすためか、彼女を冷気の魔導銃で撃ち抜く。
「……便利な道具だな」
「バカを静かにするにはちょうど良いからな。だけど、どうするんだ? 俺達は探し物があって森の中を進んでいたわけだし、正直、邪魔だろ?」
「そうだな。今回は他の物が欲しいんだよな……」
凍り付き動きを止めるフィーナの様子にバーニアは小さくため息を吐いた。
ジークはバーニアが解体した巨大蛇を見て、荷物になると考えたようで眉間にしわを寄せる。
バーニアは解体したものの、今回の目的は別にあり、首を傾げた。