第775話
「何でついてくるんだよ?」
「別に良いでしょ。それにあんたより、私の方がこの森には詳しいのよ」
「……俺はお前に頭を使う事は求めてない」
フィーナが付いてきた事にジークがため息を吐くとフィーナは任せなさいと言いたいのか胸を張る。
しかし、ジークはフィーナに薬草探しと言った細かい事は期待できないため、首を横に振った。
「何ですって?」
「騒ぐな。それでどこから行く?」
「どこから行くって言ったって、特に俺は目的の物は無いんだよな。バーニアは何か欲しい物はないのか?」
フィーナの額には青筋が浮かび上がり、ジークにつかみかかろうとするとバーニアは彼女を止めた後、ジークに予定を聞く。
ジークは周囲を見回すが特にこれと言った目的の品があるわけでもなく、首を捻るとバーニアに聞き返す。
「俺は毒草が欲しいな」
「……毒草? 何に使う気よ?」
「普通に商品だ。目的がないなら俺の探し物を優先して良いか?」
毒草と聞き、フィーナの眉間には深々としたしわが寄る。
バーニアはフィーナの機嫌が悪くなる事などお構いなしのようでジークに都合を聞く。
「俺は良いけど」
「待ちなさいよ。毒草なんて危ない物を集めるなんて許さないわよ」
「……フィーナ、黙れ。騒ぐならシーマさんのところに戻れよ」
ジークは特に反対する事もないようで頷くとフィーナは大声をあげて反対する。
彼女の反応にジークは大きく肩を落とすとフィーナを追い払うように手を振った。
「何でよ? 悪いのは私じゃないでしょ?」
「殺傷性の高い物は扱わない。動きを鈍らせたり、少し眠って貰ったり、する程度の物だ」
「それに毒草の生息地がわかれば、間違って毒草を口にする事もないだろ。こう言う事は本来、森の中を探索していたお前がやるべき物だろ?」
フィーナはジークとバーニアの前に立ちふさがるとバーニアは彼女が思うほど危険な物を商品にはしないとため息を吐く。
ジークは森の中の植物の分布を調べる事も彼女の仕事だと強く言うとフィーナは知らないと言いたいのか聞こえないふりをする。
「……ジーク、フィーナは大丈夫なのか?」
「もう少し頭を使ってくれると助かるんだけど」
「後は生だと毒草だけど、火を通すと食えるものもあるからな。そう言う物も見つかれば、役に立つだろ?」
人の言葉を聞き入れない彼女の様子にバーニアが眉間にしわを寄せるとジークは力なく笑う。
彼の様子に日々の苦労が見えたようで苦笑いを浮かべるとフィーナがやる気になるような物を探そうと思ったようで食欲に訴える。
「食べられる物が有るの? ……いや、でも、食べられない物を食べるといろいろと不味いわよね?」
「……やる気になったな」
「別に食い意地が張っているわけじゃないわよ」
バーニアの言葉にフィーナは葛藤を始めたようでぶつぶつとつぶやき始めた。
その姿にジークがため息を吐くとフィーナは決して食い意地が張っているわけではないと念を押して言い、ジークとバーニアは苦笑いを浮かべて頷く。
「火を通すと食えるようになるものは俺もいくつか知っているけど見分けるのって大変じゃないか?」
「自信ないのか?」
「そう言うわけでも無いけど……やっぱり、知識の偏りってのはあるからな」
フィーナが納得したため、3人は歩き出すとジークは区別ができるか不安になったのか首を捻る。
バーニアは彼の反応に小さく口元を緩ませるとジークは頭をかきながら苦笑いを浮かべた。
「なら、学べる事は学んで行けば良いだろ。お前は専門家と知り合いなわけだし」
「……専門家? レギアス様か? ミレットさんも詳しいよな」
「レギアス様って、ワームの権力者で医療関係に力を入れている人だったか? その人も確かに詳しいだろうけどもっと詳しい知り合いがいるだろ?」
バーニアの言葉でジークの頭にはレギアスとミレットの顔が浮かぶ。
2人の名前にバーニアは頷くものの、彼が言っているのはその2人ではないようでもう1度考えてみるように言う。
「もっと詳しい人間? フィーナ、いるか?」
「私が知るわけがないでしょ。後はリック先生くらいじゃないの?」
「だよな。だいたい、俺達はバーニアが思っているほど交友関係は広くないんだぞ。後は魔術学園に少しいるくらいだ」
ジークは心当たりがなく、フィーナに聞くが彼女は面倒な事はジークに任せれば良いと思っているため、投げやりに答える。
フィーナに聞いたのは失敗だったと言いたいのかジークは大きく肩を落とした後、目ぼしい人間の顔を思い浮かべようと首を捻った。
「魔術学園って言ったって、顔見知りはそれなりにいるけど、ライオ様とコッシュにおっさんの娘と後はあの性悪の先生?」
「性悪の先生って、フィリム先生か? あの人、地質とか生物とかそっち関係だろ?」
「あの人、興味ないものにはまったく興味なさそうよね? 食べ物なんてお腹が満たされればそれで良いんじゃないの?」
魔術学園の関係者の名前を挙げて行くが、植物に詳しそうな人間は見当たらず、フィーナに至ってはフィリムの悪口まで言い始める始末である。
ジークとフィーナの様子にバーニアは苦笑いを浮かべており、2人の様子を生温かい目で見守っているようにも見える。
「何よ?」
「確かにフィリム先生はそんな風に見えるけどな。詳しいぞ。学園の教授なのにフィールドワークで王都の外やいろんな場所に出て歩いているからな」
「……興味本位でどこにでも行きそうだからな。野営もなんでもこなすだろうな」
バーニアの視線がフィーナには癇に障ったようで彼を睨みつけるとバーニアはフィリムの事を話しだす。
その言葉にジークはフィリムに振り回された事もあるため、大きく肩を落とすがバーニアがフィリムの事を言っていると理解できたようである。
「栽培できる薬草類はきっとレギアス様の方が詳しいだろうけど、食べられる野草に関してはフィリム先生が詳しいだろうな」
「今度、聞いてみるか? 畑とかカインは拡大しているけど、元からある物が使えるなら元手がただの方が良い」
「……ジーク、目が欲で濁っているわよ」
ジークは機会があればと言うが、その目はフィーナには金儲けの事しか考えていないように大きく肩を落とす。