第769話
「そ、それでジークは王都に何の用ですか?」
「俺はカインから頼まれ事、このメモのものをバーニアともども搾取して来いって」
「……代金は置いておけよ」
リアーナは完全に見方がいない状況のため、話を変えようとジークがバーニアの店を訪れた理由を聞く。
ジークは懐からメモを取り出してカウンターの上に置くとバーニアのため息を吐きながら、メモを開いた。
「この間のように存在しないものじゃないですよね?」
「……わからない。メモは見たけど、知らないものばかりだった」
「お前達は何をやっているんだ?」
リアーナは以前にジークとノエルにばったり会った時の事を思い出して苦笑いを浮かべる。
彼女の言葉でジークはその時の事を思いだしたようで、今回もその可能性があると思ったのか眉間にしわを寄せるとアノスは大きく肩を落とす。
「今回は、きちんとある物だけど、それなりの値段がするぞ。払えるんだろうな?」
「俺は言われただけで代金は預かってない」
「……冗談は止めてくれ」
メモの内容にバーニアは頷くものの、踏み倒されては赤字だと思ったようでジークの手持ちを確認する。
ジークは金などないと言いたいのか両手をひらひらと振り、その姿にバーニアは大きく肩を落とす。
「冗談も何も本当に預かってない。だいたい、このメモの物がどんなものかも知らないんだからな」
「……こいつが金を預かっていないのは本当だ」
「カ、カインは何を考えているんでしょうね」
ジークが首を横に振るとアノスはジークの言葉を肯定する。
カインの行動にリアーナはまた何か企んでいると思ったようで顔を引きつらせた。
「俺が知るかよ。俺とアノスはこのメモの物をバーニアにそろえさせてフォルムまで連れて来いって言われただけだからな」
「……連れて来いって、用があるなら自分で来いって伝えてくれ」
「無理だな。あいつは今、フォルムを離れられない。書類の山と戦っているからな」
バーニアは大きく肩を落としてカインを連れて来いと言う。
ジークはフォルムでセスに捕まっているカインの姿を思い出して苦笑いを浮かべる。
「……あいつの企みに乗っかるのは納得が行かないが、これだけの物を搾取されるのは納得が行かないからな」
「わ、私もご一緒して良いですか?」
「ついてくる気か? 止めた方が良いと思うぞ」
バーニアは自分がフォルムに行く事に意味があると思ったようで、メモに書かれたものを集め始めるとリアーナは知り合いの多いフォルムに遊びに行きたいと思ったようで遠慮がちに手を上げた。
アノスは使える人間は誰でも使うと言い切るカインの事を考えてリアーナに止めた方が良いと言うが、リアーナは本当にやる事がないようでジークに助けを求めるような視線を向ける。
「……ついてきても良いけど、アノスの言った通り、使われるぞ。なんか、フォルムにも巨大蛇が出ているし」
「巨大蛇ですか? それなら、剣と盾が要りますね。鎧も必要でしょうか? でも、私室に戻る時間はないでしょうし……バーニア、後払いで良いですか?」
「……なぜ、やる気を出す?」
ジークは昨晩の事を思いだしたようでフォルムにリアーナが行くと巨大蛇の捜索に駆り出されると言う。
リアーナ巨大蛇と聞き、なぜか目を輝かせ始めると店頭に並んでいる剣や鎧を楽しそうに見始め、彼女の様子にアノスは眉間にしわを寄せた。
「別に後払いでも構わないが……本当にそれで良いのか?」
「どうかしましたか?」
「……いや、リアーナがそれで良いなら別に良い」
バーニアは代金が支払われるなら問題ないと言うが、どうしてもリアーナの行動が若い娘の行動には思えないようであり、眉間にしわを寄せて聞き返す。
しかし、当の本人は意味がわかっていないようで彼女の様子にバーニアは大きなため息を吐いた。
「あれは良いのか?」
「……そう思うなら、なんか名門貴族でも騎士でも紹介してやれよ。おかしな偏見を持っていないヤツな」
「イオリア家の知り合いにそんなヤツがいると思うか?」
アノスはリアーナの様子に眉間に深いしわを寄せる。
ジークは王都に知り合いがいないのが原因だと考えたようでアノスにリアーナの交友関係を広げる方法はないかと聞く。
アノスは自分の家に関係する者達は地位や名誉、金にうるさい者達であり、新参者など見下すだけだと言い切ってしまう。
「……お前、自分で言っていて悲しくならないか?」
「仕方ないだろ。事実なんだからな」
「それもそうか……だけど」
ジークはアノスが自分の家に悪い印象しか持っていない事に少し思うところがあったようで小さなため言いを吐く。
その言葉にアノスは自分が誰よりもイオリア家が腐っていると言いたいようで吐き捨てるように言い、ジークは困ったように頭をかいた後、リアーナへと視線を移す。
「……なんか、キャラ変わってないか?」
「仕事の時とは別なんじゃないか?」
「そうなのかな?」
リアーナは嬉々として武具を選んでおり、ジークは彼女を指差すと今までの彼女と違わないかと言う。
バーニアは仕事とプライベートを分けている人間も居ると言いたいようで特に気にする様子もなく、ジークは納得が行かないのかポリポリと首筋をかく。
「……むしろ、仕事中毒で禁断症状の可能性はないか?」
「……テッド先生にカウンセリングでもして貰うか。心の病は専門外だからな」
「真面目な人間ほど、心を病むと言う話は聞くな」
アノスは眉間にしわを寄せて1つの可能性を示唆し、ジークは納得する部分もあったようで眉間にしわを寄せた。
2人の会話にバーニアはどう反応して良いのかわからないのか苦笑いを浮かべる。
「ジーク、私の準備は出来ました。バーニアはまだですか?」
「もう少しだ。少し待っていてくれ」
「テンションが高いリアーナか? ……なんか、不安だ」
リアーナは武具を選び終えたようでバーニアを急かすように言い、バーニアはため息を吐くと待つように言う。
ジークはリアーナの様子に不安が頭をよぎったようで眉間にしわを寄せる。
「ジーク、おかしな事を言うなよ。お前がそう言う事を言うとおかしな事が起きそうな気がする」
「そ、そんな事はない」
バーニアはジークのおかしな危険感知能力の事を知っているようであり、彼の言葉にジークは視線を泳がせた。