第763話
「店が襲われただと?」
「それで、被害がどれくらいあるか。ジークに確認して貰いたいんだよね……ジーク、聞いている?」
朝食を食べながらカインがジークとアノスにジオスの店が襲撃された事を話す。
昨晩、店を訪れた時にジークがおかしな気配を感じていた事もあり、アノスは眉間に深いしわを寄せるが、ジークは気にする事無く、朝食を頬張っている。
「聞いているよ。カインが見た感じ、何もおかしなところはなさそうだったんだろ。別に盗まれて困るような物は置いてないからな。ばあちゃんに教わったレシピは頭の中だし資料はリック先生、調合道具もフォルムだからな。置いてあるのは保存の効く常備薬くらいだ。どっちかって言うと店の中より、裏の畑の方が気になるな」
「ノエルとの愛の軌跡もあるんじゃないのかい?」
「……そう言う下世話な話は止めろ」
フォルムに半強制で連れて行かれてからの拠点は完全にフォルムであり、店には盗まれて困る物は残っていないとジークは言う。
慌てないジークの様子にカインはつまらないと言いたいのか、ノエルの名前を出してからかおうとするがアノスに止められる。
「でも、ルッケルに非難していて良かったですね。お店に泊まって襲われていたら大変でした」
「そうか? アノスも居たし、どうにかなっただろうな」
「ジーク、あんたもずいぶんと簡単に言うね」
ミレットはクーの鼻先をなでながらジーク達の無事を喜ぶが、ジークは特に大変な事態だとは思っていない。
その様子にジルは呆れた様子でため息を吐くとジークは苦笑いを浮かべた。
「実力自体はたいした事はなさそうだったからな」
「そうだね」
「……なぜ、そんな事が言い切れる?」
ジークは確信があるようで襲撃者の実力は低いと答え、カインもジークと同様の意見のようで小さく頷く。
2人の意見にアノスは襲撃者の実力を測りかねているようで眉間にしわを寄せて聞き返す。
「ジークを拉致するつもりなら、窓を割って入るなんて、そんな雑な手段は取らないからね」
「気配の消しかたが雑」
「……ダメ出しが普通に出てくるんですね」
カインは襲撃された店の様子から、ジークはルッケルに移動する前に感じた気配から判断したようで迷いなく答える。
2人の回答にミレットは顔を引きつらせ、アノスの眉間にしわはさらに深くなって行く。
「つけてあるカギは平凡な物なんだから、俺やジークならすぐに解錠できる」
「魔法がかけてあるなら難しいけどな。窓を割るとしても店の中に散乱させるようなへまはしない」
「……お前達は本当に泥棒の類の人間じゃないんだろうな?」
ジークとカインは自分達ならもっと上手くやると言い切り、アノスは2人へと疑いの視線を向ける。
「……カギくらい開けられないとアーカスさんの家には行けない」
「カギを開けるのに失敗すると何が飛んでくるかわからないからね」
「アーカスさんは何がしたいんですか?」
2人が施錠技術はアーカスが関係しているようであり、ジークとカインは視線を泳がせた。
その様子にミレットは大きく肩を落とすが、それ以上、聞く事もないため、追及する事はない。
「アーカスさんの目的は……ただの趣味だろ。とりあえず、店の様子でも見てくるか? アノスはどうする? こっちに付きあう必要はないし、先にワームに戻るか?」
「そうだね。アノスは元々、昨晩だけって話でフォルムに来てもらったんだし、あまり遅くなると公務に支障をきたす可能性もあるしね」
「……ここで退けるわけがないだろ」
ジークは朝食の最後の一口を頬張るとアノスを先にワームに帰した方が良いと思ったようで意見を求める。
自分達にアノスの行動の決定権がないため、カインも同感だと頷くが、アノスは自分も襲撃に巻き込まれる可能性があった事もあり、ジオスに同行したいと言う。
「……良いのか? 俺、おっさんに文句を言われるのはイヤだぞ」
「ラース様の娘に原因があるんだ。かまわないだろ」
「そうだとしてもな……」
ジークは面倒事に巻き込まれたくないと頭をかくが、アノスは気にする必要はないと言い切ってしまう。
彼の言葉にジークはカインやミレットに意見を求めたいようで視線で訴える。
「伝言を任せるのが1番手っ取り早いだろうね」
「ですね。1度、フォルムに戻りましょうか? クーちゃん、イヤな顔をしない」
「……クー」
カインとミレットはカルディナに伝言を押し付けて、ワームに戻すのが1番だと考えており、フォルムに戻ると言う。
しかし、カルディナと顔を合わせたくないクーはカウンターの中のジルの背後に隠れてしまう。
「わがまま言うんじゃないよ」
「ジルさん、ありがとうございます。クー、わがままを言うな」
「クー」
ジルはクーを捕まえるとジークの前にクーを差し出し、ジークはクーを受け取ると叱りつけた。
ジークに叱られて肩を落とすクーだがそれでも不満なようで頬を膨らませている。
「ジーク、甘やかし過ぎなんじゃないかい?」
「……甘やかしているのは俺じゃない」
「主にノエルだね。クーに好かれたい一心でね」
クーの様子にジルは苦笑いを浮かべるとジークは大きく肩を落とす。
カインは普段のノエルのクーへの執着心を思いだしたようで苦笑いを浮かべる。
「ジーク、あんたはフィーナの時で子育てを失敗しているんだから、もっとしっかりしないとダメだよ」
「……あいつの性格を形成したのが俺みたいに言うのは止めてくれ。フィーナがバカなのは俺より、村の連中やカインに問題があるんだよ」
「教育やしつけはしっかりとやったつもりなんだけどね。それより、戻ろうか? ジオスでいくつかやりたい事もあるからね」
クーの様子はジルには子供もわがままにしか思えなかったようで、もっとしっかりするように言うがその引き合いに出された名前はフィーナであり、ジークはなぜ自分の責任にされるかわからないとため息を吐く。
カインはどうしてフィーナがあんな風に育ったか理解できないと首を横に振ると普段のカインのフィーナに対する折檻とも言えるしつけを見ているアノスとミレットは眉間にしわを寄せた。
しかし、カインは気にする事無く、フォルムに戻ると転移魔法の詠唱に移る。




