第761話
「……結局、泊まったのね」
「あなたに文句を言われる筋合いはありませんわ」
「2人とも朝からケンカをしないでください」
フィーナは強制的に日課にさせられた朝の訓練を終えて居間に移動するとミレットを見つけた。
彼女の姿にフィーナは大きく肩を落とすとミレットはフィーナを睨み付け、2人は睨み合いを始めだそうとする。
2人の様子にミレットは多きく肩を落とすと2人の間に割って入り、強制的に距離を取らせる。
「と言うか、さっさとおっさんのところに帰りなさいよ。あんたは仕事があるんじゃないの?」
「クーちゃんを見たら……いえ、抱き締めたら帰りますわ!!」
「確実に嫌われるから止めたら」
ミレットに止められたフィーナはソファーに腰を下ろすとカルディナを追い払うようにワームに戻るように言う。
カルディナは目的を達するまで帰らないと拳を握り締めて宣言するが、それはフィーナにはクーに嫌われるようにしか思えないようで大きく肩を落とした。
「でも、ジークもクーちゃんも帰ってきませんね。何かあったんでしょうか?」
「まだ、いると思って帰ってこないだけでしょ。あいつ、無駄に危険感知能力は高いし」
「確かにジークの危険感知能力は高いけどね。ちょっとした事で油断するから、大丈夫だと思って帰ってきてもおかしくないんだけどね。だから、何かあった可能性もないとは言えないけど……ちょっと、ジオスにでも行ってみるかな?」
苦笑いを浮かべてカルディナを見ていたミレットは朝になっても帰ってこない2人に少しだけ心配になったようで首を捻る。
フィーナはジークなら心配ないと言い、だらだらとソファーに寝ころぼうとした時、カインが居間に入ってきて彼女の頭に拳骨を落とす。
頭を押さえてソファーの上で身もだえるフィーナを眺めながらも、カインはこの状況から万が一もあると思ったようで首を捻った。
「お兄様、それなら、私も」
「カルディナ様はフォルムで2人の帰りを待っていてくれますか。私は他に用事も済ませてきますので」
「……逃げましたね。カイン、私もついて行って良いでしょうか?」
カルディナはクーにすぐにでも会いたいため、手を上げるがカインはやんわりと断る。
その姿にミレットは小さくため息を吐いた後、何か思う事があったようでカインにジオスに行きたいと言う。
「ミレットが?」
「はい。ジークの作っている紅茶の葉っぱが少なくなってきているのでジークがいる可能性があるなら補充しようと思いまして」
「そうですか? それなら行きましょうか? フィーナ、ノエル、カルディナ様の事を任せるよ」
首を傾げるカインだが、ミレットは紅茶の葉が欲しいと理由を話す。
特に反対する理由も見つからなかったカインは頷くとソファーの上で身もだえているフィーナとキッチンで朝食の準備をしているノエルにカルディナを押し付ける。
「は、はい。わかりました」
「待ちなさいよ」
「ソファーでだらしない事をするからだ。拳骨が嫌なら、ミレットにもう一度、礼儀作法を教えて貰うように頼もうか? それじゃあ、ミレット、行こうか?」
ノエルはキッチンから顔を出して頷くが、フィーナは頭を押さえながらカインを睨み付けた。
それは先ほどの攻撃は理不尽な物だと言いたいようだが、カインはミレットを指差し、フィーナがミレットへと視線を向けると彼女は楽しそうに笑っている。
ミレットの笑顔にフィーナは寒気を感じたようですぐに視線をそらすとそれ以上、何も言う事はなく、カインは小さく肩をミレットに声をかけ、2人はジオスに飛んで行く。
「……なんか、騒がしいね」
「そうですね……ジークのお店の方でしょうか?」
「行ってみましょうか」
カインの移動場所は自分の実家の前であり、ジオスには無事に到着したのだがジオスの村がなぜか騒がしい。
ミレットはきょろきょろと周囲を見回しながら、騒ぎの場所を探そうとすると騒ぎはジークの店がある方向のように思える。
2人は顔を見合わせるとジークの店に向かって駆け出す。
「シルドさん、何かあったんですか?」
「カインか? 見ての通りだ」
「窓が割られていますね。ジークとクーちゃんはどうしたんですか?」
2人がジークの店の前に着くと店の前には村人や冒険者達が集まっており、カインはシルドを見つけて状況を聞く。
シルドはカインの顔に少し驚いたような表情をした後に店の窓を指差し、2人は窓が割られている事に気づき、ミレットはジークの安否を尋ねる。
「ジーク? ジオスに戻ってきていたのか?」
「推測ですけどね。クーに執着している娘が居て、クーはその娘の事をあまり好きじゃないから、逃走したみたいです」
「そうか? とりあえずは見た感じ、店の中が荒れている形跡はないからジークは無事だと思うけどな」
シルドは眉間にしわを寄せるとカインはあくまでも推測でジークがジオスに来ていた可能性があると言う。
その言葉にシルドは店の中を見た上でこちらも推測だと答えるとカインは店の中の様子が見たいようで店に近づいて行く。
「シルドさん、さっきの話だとこの店を襲撃した人間は捕まってないんですよね?」
「ああ、見張りをしてくれていた奴が違和感を覚えて駆け付けた時にはこんな感じだ。特に盗まれているような物はないと思うけど、ジークかノエルじゃないとわからないよな?」
「俺は昨日、店に来ているから特に変わったような事はないと思うけど、他には……ぎりぎりで他の場所に移動したってところかな? 転移魔法の魔力も少し残っているし……ジルさんのところかな?」
店の中はすでに村人達が片付け始めてくれているようで窓のガラスは片付けられている。
カインは店の配置を昨晩の記憶と重ね合わせたようで紅茶を置いている棚を見た後、ジークの移動した場所を推測し、頷いた。
「ルッケルですか?」
「ちょっと、気になる物が無くなっているからね。ジークがジルさんに頼み事をする時に使う物が無くなっているんだよ。シルドさん、ちょっと、ジルさんの店に行ってきます。ミレットはどうする?」
「行きます」
首を傾げるミレットにカインは苦笑いを浮かべるとミレットについてくるかと聞き、2人はシルドに店の事を任せると転移魔法でルッケルに移動する。