第76話
(……ようやく寝たか)
ジークは光度を維持するために焚火に薪をくべながら、テントの中から聞こえていたノエルとフィーナの会話に小さくため息を吐くと、目を閉じ、虫の声と言った夜の音に集中し始める。
(……周囲への警戒と言ってもここら辺じゃ、野盗の類は出ないからな。平和なもんだ)
ジークの耳に入る音には彼等を脅かすものはなく、ジークは苦笑いを浮かべた。
(しかし、こいつとも長い付き合いなんだよな?)
ジークは警戒しながらもやる事もないため、腰のホルダにしまってある1対の魔導銃を取り出すと自分が祖母の店を手伝い始めた時の事を思い出したようで小さく口元を緩ませる。
(改めて、見ると細かい傷が多いな。結局は無茶をさせていたって事だよな)
ジークは無事な方の魔導銃を見ると、そこには小さな傷が多く付いており、それだけの間、ジークが魔導銃に力を貸して貰っていた証である。
「感謝しないといけないのは血や肉になってくれた植物や動物だけじゃないか? 迷惑をかけてるな。これからもよろしくな」
ジークはノエルやフィーナに話をした感謝と言う話を思い出し、魔導銃のキズを手でなぞると返事をするわけがない魔導銃にお礼を言う。
(……周りから見ると間抜けな光景だな)
ジークは自分の行動に苦笑いを浮かべると破損した魔導銃を手に取った。
(自分でどうにかしろか? そう考えると手入れの方法をアーカスさんに聞かないとダメか? それはやっぱりイヤだな)
ジークは改めて、今まで魔導銃の手入れをしていなかった事を申し訳なく思ったようで、これからは真面目に魔導銃の整備する事を誓う。しかし、アーカスのところに行くのはやはり抵抗があるようで表情は優れない。
「ジークさん、どうかしましたか?」
「ノエル? 寝たんじゃなかったのか?」
その時、ノエルがテントから出て来て、ジークの名前を呼ぶ。
「そのつもりだったんですけど、眠れなくて、フィーナさんは寝てしまいましたし、眠くなるまで居ても良いですか?」
「まぁ、寝れないって言うなら、仕方ないか? ほら、熱いからやけどするなよ」
ノエルは寝付けないようで苦笑いを浮かべると、ジークの向かいに座る。ジークは彼女の行動に小さくため息を吐くが特に責めるような事もせずに焚火にかけていたポットをつかむとノエルに飲み物を準備したようでカップを渡す。
「あ、ありがとうございます。あれ、ジークさんは飲まないんですか?」
「ん? 飲むけど、それじゃないな」
ノエルは飲み物が自分の分だけしか用意されなかった事に首を傾げるとジークは苦笑いを浮かべて自分の分の飲み物をカップに注ぎ始める。
「何が違うんですか?」
「ノエルのは眠りを誘うハーブを使った飲み物、俺のは眠気を抑える飲み物」
ノエルは首を傾げるが、ジークはノエルには休んで貰わなければ明日に響くから、別の飲み物を用意したとため息を吐く。
「そ、それもそうですね。あ、あの、ジークさん?」
「どうかした?」
ノエルはジークに言われて気が付いたようであり、慌てて頷いた後、何かあるのかジークの顔に視線を向ける。ジークはノエルの様子に何かあったのかと首を傾げた。