第754話
「そこはほら……簡単に口を滑らせようとするのがいるし、おかしな感じでばれるより、場を作って話した方が良いと思って」
「……そうだな。口を簡単に滑らせそうだよな」
「わ、わたしはちゃんと注意しますよ!?」
アノスの疑問にカインは酔いも冷めてきたようで本調子になってきたのか、わざとらしく視線を泳がせるとその場にいた全員の視線がノエルに集まる。
ノエルは言いがかりだと言いたいようで声を上げるがすぐに全員が首を横に振った。
「……わたしだって、秘密くらい守れます」
「とりあえずは理解したが……納得が行かないな」
「そう言わないでくれるかな。俺達も集落でノエルがいつ自分はドレイクですって言い始めるか心配で、心配でたまらなかったんだから。ゼイも簡単に言いそうだったし」
ノエルは周囲からの反応に自信を失ったようで大きく肩を落とす。
落ち込む彼女の様子にアノスはノエルの性格がここに居る者達の弱点だと認識しているようで頷くが表情は険しい。
カインは苦笑いを浮かべながら、更なる爆弾を落とし、彼の発言にジークとセスは固まるがミレットはくすくすと笑っている。
「ド、ドレイクだと? ……何の冗談だ?」
「この反応も慣れてきたね」
「……カイン、あなたは順序立てて話すと言う事を知らないのですか?」
ドレイクだと聞き、一瞬、驚きの表情をするアノスだがすぐに眉間にしわを寄せた。
ノエルがドレイクだと聞かされた人間の反応はほとんど変わらず、カインは楽しそうに笑い始めるとセスは怒りの表情でカインの首を絞める。
「……いや、カインの事だから、順序立ててこれなんだろ」
「ですね」
「これがドレイクだと? 信じられるか」
カインとセスの様子にジークは大きく肩を落とすとミレットがジークの意見に賛同を示す。
周囲の様子にアノスは信じられないようでノエルを指差しながら言うとノエルは信じて欲しいとこくこくと頷く。
「……どんな冗談だ?」
「言いたい事もわかるけど、真実だから」
「ノエルの持っている魔導機器も誤魔化す事はできますけど、理解して貰おうとすると不便ですね」
しかし、アノスは信じ切る事ができずに眉間にしわを寄せており、ジークは苦笑いを浮かべる。
ミレットはドレイクの身体的特徴である2本の角が見られない事に小さくため息を吐くとノエルは首飾りになっている魔導機器を握った。
「誤魔化す?」
「魔法で身体的な特徴を変える事ができるんだよ。ノエルはそれを魔導機器でやっていてね。常時、魔法を使っているようなものだから、ドレイクだって見せるのは難しいんだよね」
「ジーク、いつも見たく、アノスにノエルの角を触らせてはどうですか?」
誤魔化すと聞き、カイン達がまたおかしな事を企んでいると思ったようでアノスの眉間のしわはさらに深くなる。
カインは何とかセスの腕の中から脱出したようで首をさすりながら、ノエルの手の中にある青い魔導機器を思い浮かべて笑うとセスはいつのも確認方法を使うように言う。
「それはなんかイヤです」
「……そこで無駄な独占欲を出すのは止めなさい。良いでしょう。別に減る物でもないですし」
セスの提案をジークは拒否するとノエルを抱き寄せる。
ノエルはジークの腕の中で顔を真っ赤にすると2人の様子を見たセスは大きく肩を落とす。
「減る、減らないの問題じゃないんですよ」
「……とりあえず、このバカップルはどうにかならないのか?」
「どうにもならないね。ノエルは運動神経皆無で全然、ドレイクに見えないけど本当にドレイクだよ」
ジークはノエルを抱きしめている手に力を込めて、セスの提案を拒否するとアノスは2人の様子に大きく肩を落とした。
ジークが独占欲を出している様子にカインは苦笑いを浮かべると必要な事のため、事実だと言うがアノスは疑いの視線を向けたままである。
「……わたし、本当にドレイクなのにどうしていつも信じて貰えないんでしょう」
「ノエルが落ち込んでいるのは置いておいて」
「置いておいて良いのか? ……いや、しかし」
ジークの腕の中でノエルはいつも自分がドレイクだと信じて貰えない事に自信を失っているのか大きく肩を落とす。
その様子にカインは話を元に戻そうとするとアノスはノエルの落ち込みように若干、心が痛んだようで難しい表情をしている。
「どうやら、罪悪感に訴えられる事ができたようですね。流石、性悪領主、外道ですね」
「その評価は要らない。元々、そんなつもりもなかったよ」
「どうだか」
アノスの様子を見たシーマはカインへ悪態を吐く。
彼女の評価にカインは大きなため息を吐くがシーマはカインの事を信用しきっていないため、舌打ちをする。
「……エルト様やライオ様、シュミット様、次期王位継承者の有力候補とドレイクが懇意にしているのは問題がないのか?」
「シュミット様に至っては魔眼に捉えられていた時に本気でシーマの事を想っていたんだけどね」
「……何?」
王位継承者達のすぐそばにドレイクがいると言う事実にアノスは深いしわを寄せた。
そんなアノスをからかうようにカインはシュミットがシーマの魔眼で操られていた時の事を話すとアノスは殺気を込めた視線をシーマに向ける。
しかし、シーマはその時の事を悪いとなど思っていないため、アノスの視線を気にする事はない。
「……それは今、言う事なのか?」
「アノス、シーマさんがフォルムにいる事はシュミット様に内緒ね。面倒な事になっても困るから」
「シュミット様はだいぶ落ち着かれましたが……確実に面倒な事になりますわね」
カインがぺらぺらと余計な事を話す姿にジークは眉間にしわを寄せるとカインは口に指を当てて、シーマの事はここだけの秘密だと笑う。
シーマを抱え込んでいる事が危険な事を理解しているセスは深いしわを眉間に寄せている。
「面倒な事になるだろうね。再燃とか?」
「……そっちかよ。普通はシーマさんを殺すって言い出さないか心配するんじゃないのか?」
「そんな事にはなりません」
カインはセスの心配を振り払いたいのか、冗談めかして言う。
彼の言葉にジークは大きく肩を落とすがノエルの目はまたも輝き始め、シーマは面倒な事に巻き込まれたくないと言いたげに大きく肩を落とした。




