第751話
「それでは後片付けの事をお願いします。私達は帰りましょう。ジーク、フィーナの事を任せますよ。私は先に戻ります」
シーマの魔眼を使用して宴会を強制的に終了させたジーク達は後片付けに移ろうとするがセスが割と冷静な領民達に後片付けを指示する。
領民達も騒ぎ過ぎた事を反省しているようで彼女の指示に素直に頷くとセスはカインの事が心配なのか足早に屋敷に向かって歩き出す。
「やっぱり、俺が運ぶのかよ……それじゃあ、後片付けは任せて良いみたいだから俺達も戻りましょうか?」
「ジークさん、本当に後片付けを手伝わなくて良いんですかね? これだけ騒いだんですし、後片付けにも時間がかかりますよ」
「皆さんのご厚意ですし、素直に受けておきましょう。それではシーマさん、失礼します。シーマさんもゆっくりと休んでくださいね」
セスの背中にジークは苦笑いを浮かべると凍り付いたフィーナを背負い、屋敷に戻ろうと声をかける。
ノエルは領民達に後片付けを任せるのを申し訳なく思っているようでジークの腕を引っ張った。
彼女の様子にジークは少し考えるような素振りをするとミレットはノエルをやんわりと説得した後、シーマに向かい頭を下げる。
シーマはあまり関わり合いたくないと言いたげにそっぽを向いてしまい、彼女の様子にジークとミレットは顔を見合わせて苦笑いを浮かべた後、屋敷に向かい歩き出そうとするがアノスが2人の肩をつかむ。
「何だよ? フィーナを運んでくれるのか? それなら、受け取ってくれ」
「そんなバカは捨てて行け……それより、詳しい話を聞かせて貰おうか? あの女は今、何をした?」
「力を込めるな。折れるだろ!? 俺はお前と違って筋肉バカじゃないんだよ」
魔眼を使用した事もあり、アノスもシーマに特殊な能力がある事には気が付いたようで彼女の能力を追求したいようである。
ジークは面倒だと言いたいのかとぼけるとアノスはジークの肩をつかんでいる手に力をこめ、ジークの顔は歪みだし、痛みに声を上げた。
「シーマさん、申し訳ありませんが同行して貰っても良いですか? これから、アノスさんにフォルムの事をお話ししますので1人くらいフォルムの生まれの人がいた方が良いと思いますから」
「……仕方ないわね。今、イオリア家を敵に回すのは面倒だし」
「これで良いでしょうか?」
ジークとアノスの様子にミレットは小さく肩を落とすとシーマに頭を下げる。
シーマは断りたいようだが、アノスがイオリア家の後継者である事を知っているようであり、考える事があるのかしぶしぶ頷く。
シーマから了承を得たため、ミレットはアノスに確認すると彼は疑いの目を向けながらも追及するのは屋敷に戻ってからでも良いと判断したようで小さく頷いた。
「それじゃあ、戻りましょうか? アノスさん、オクスさんはどうします?」
「……気にしなくても良いだろう」
「アノス、ずいぶんと冷たいな。ジーク、フィーナをこれに乗せろ」
ミレットは改めて、屋敷に戻ろうと言うが元々、オクスにも同席して貰う予定だったため、周囲を見回す。
アノスは尊敬していた叔父が酒でバカ騒ぎをしていた姿に少なからず、幻滅してしまったようで気にしなくても良いと首を振った時、手押し車に酒樽を乗せてオクスが現れる。
オクスはフィーナを背負って移動するよりは手押し車に乗せた方が効率的だと言い、ジークは頷くとフィーナを酒樽の隣に下ろす。
「……叔父上、この酒樽はいったい何ですか?」
「余ったと言うからな。貰ったんだ」
「そうですか……」
アノスは眉間にしわを寄せて酒樽について聞く。
オクスは上機嫌のようで豪快に笑うが、アノスは叔父の様子に頭が痛くなっているようでこめかみを指で押す。
「とりあえず、戻りませんか? そろそろ、カインも復活していると思いますし……オクスさん、間違ってもカインに酒を飲ませないでくださいよ」
「わかっている」
「……オクスさん、元気ですね」
2人の様子にジークは苦笑いを浮かべると屋敷の方向を指差した。
オクスは大きく頷くとフィーナと酒樽を乗せた手押し車を押して歩き出し、オクスの様子にノエルは苦笑いを浮かべる。
「行きましょうか?」
「ですね」
ミレットは先に歩き出したオクスの後を追いかけようと言い、ジーク達は屋敷に向かって歩き出す。
「カイン、生きているか?」
「……みんな、お帰り」
「ジーク、薬はないですか?」
セスが先に帰ったため、居間には灯りが点いている。
居間を覗き込んだジークはソファーの上に倒れ込んでいるカインの姿を見て声をかけると弱々しい声が返ってくる。
セスはカインが少しでも楽になるようにとキッチンから水を運んでくるとジークに薬がないかと聞く。
「部屋にあると思いますから、フィーナを置いてくるついでに持ってきます。オクスさん、酒を持ち込まないでください」
「ジーク、知っているか。酒は飲んで強くなるんだぞ。1杯、試しに飲んでみないか?」
「……それは酒好きの妄言だ」
オクスが酒に弱いカインに酒を飲ませる可能性が考えられるためか、ジークは彼を睨みつけるがオクスは気にする事無く酒樽から酒を注ぐ。
しかし、元々、酒の弱いカインにはオクスの言葉は信じられるものではないため、眉間にしわを寄せて彼の言葉を却下する。
「セスさん、ミレットさん、カインとオクスさんの距離を取ってくださいね。話をするのにカインがつぶれると面倒だ」
「そうですね。オクスさんはこちらにどうぞ。今、簡単につまめるものを用意しますから」
ジークはセスとミレットを呼び寄せると自分がいない間にオクスがおかしな方向に動き始めた時の対処を任せた。
セスはどうするか頭を捻るがミレットはすぐにオクスの腕を引っ張り、カインから距離を取らせる。
オクスは酒につまみが必要だと思ったようでミレットの指定した場所に座り、酒をあおった。
「流石、ミレットさん、頼りになる……ノエル、部屋をあけてくれるか?」
「わかりました」
ジークは苦笑いを浮かべるとフィーナを背負い直し、ノエルと一緒に2人の部屋に向かう。




