第750話
「いつまで続くんだろうな」
「そうですね」
「……そろそろ、あの性悪が俺をここに呼んだ理由を聞かせて貰っても良いか」
ジーク達にはいつの間にかクーが合流し、4人で森との境界線を警備している兵達に夜食を運んで広場に戻って来たのだが宴会は収まる気配はない。
その様子にジークとミレットは力なく笑うとアノスは心底疲れた様子でカインの考えを理解していそうなミレットに説明を求めた。
「そうですね……その前に場所を移動しましょうか? ここは話し合いに適しませんし」
「そうだな。そうしてくれると助かる」
「……酔っぱらいは元気だな」
ミレットもこれ以上、アノスを引き止めるのは難しいと思ったようであり、小さく頷くとカインの屋敷に戻る事を提案する。
アノスはバカ騒ぎしている人だかりの中に叔父のオクスの声が聞こえたようで眉間にくっきりとしたしわを寄せると彼女の提案に頷き、ジークも屋敷に戻ると決めたようで苦笑いを浮かべた。
「ノエル達も連れて帰りますか?」
「そうですね……回収しないとつぶされている気がしますね。流石に置いて帰るわけにはいかないでしょう」
「フォルムだと女の子より、男の子の方が心配ですけどね」
ノエル、フィーナ、セスの3人も宴会場にいるため、ミレットは3人にも声をかけようとかと聞く。
屋敷に戻ってこられなさそうなのはノエルだけだが、ノエルだけに声をかけて行くわけにも行かないと思ったようでジークは眉間にしわを寄せる。
女性の方が強い能力を持っているラミア族が多いフォルムでは狙われそうなのは人族の男性であり、ミレットは小さくため息を吐いた。
「……男の方が心配? 襲われるとしたら、普通は女だろう」
「いや、できればどっちも襲わないでくれ。それで、アノスも3人を探してからで良いか?」
「仕方ないだろう。少なくともノエルは見つけなければいけないだろう。フィーナはどうでも良いが」
ミレットの言葉が聞こえたようでアノスは首を傾げるとジークは気にしなくて良いと言いたいのか苦笑いを浮かべた後、アノスに屋敷に戻る前に3人を探す許可を取る。
鈍いノエルを放っておくわけにはいかないとも考えたようでアノスは不服そうな表情で頷くが、悪態を吐かないと治まらなかったのか、フィーナの事はどうでも良いと吐き捨てるように言う。
「それでは行きましょうか? ジーク、どこにいると思います?」
「……そうだな。とりあえず、セスさんの行動パターンは自信がないけど、ノエルとフィーナはあっちの人混みにいる気がする」
「その勘は当たるのか?」
ミレットはアノスが悪態を吐く姿を見ながらくすくすと笑うとジークに3人の居場所に心当たりはないかと聞く。
ジークは宴会場の様子を見回すといくつかに分かれている人混みから1つを指差す。
アノスはジークの勘に頼って良いものかわからないためか眉間にしわを寄せるが、クーはジークの言葉を全面的に信用しているため、パタパタと羽を動かし、人混みに向かって行く。
「おい。あの幼竜を行かせても良いのか?」
「良くない。追いかけるぞ」
「セスさんも一緒にいれば良いですね」
アノスは幼竜であるクーは貴重な存在のため、冒険者に盗まれてはいけないと考えたようでクーの背中を指差す。
冒険者の中にはクーをおかしな目で見ている者もいるようであり、ジークは歩き出すとアノスとミレットが続く。
「全部、ぶっ倒してやるわ。剣を抜きなさい!!」
「フィ、フィーナさん、ダメですよ!? お、落ち着いてください!?」
「……あのバカは何をしているんだ?」
3人が人混みに近づくとフィーナの笑い声とともに彼女を落ち着かせようとしているノエルの大声が響く。
フィーナの声が耳に届いた瞬間にアノスは嫌悪感を表すように眉間にしわを寄せた。
「居ましたね」
「……ですね。あいつは何をしているんだろうな?」
「顔が赤いみたいですし、お酒を飲まされたんじゃないでしょうか?」
何とか人混みをかき分けて、ジークとミレットが人混みの中を覗き込むと剣を振り回しているフィーナの腰にノエルが抱き付いている。
状況がわからずにジークは眉間にしわを寄せるとミレットは冷静に状況を判断しようとしているようでフィーナの様子がおかしい事に気が付く。
フィーナは何かにつけて暴れる事はあるが、いつもは怒りで顔を真っ赤にしている状態であり、今回は明らかにいつもとは違う。
「酒? カインは極端に弱くて、フィーナは笑い上戸か? ……あいつら改めて兄妹だったんだな」
「兄妹でお酒に弱かったみたいですね」
「……迷惑な兄妹だな」
ジークもフィーナが酒を飲んでいるのは初めて見たようでカインとの共通点に眉間にしわを寄せた。
ミレットは苦笑いを浮かべるとアノスは不快感を隠す事無く吐き捨てるように言う。
「ジークさん、た、助けてください。フィーナさん、お酒をたくさん飲まされて、み、皆さんも剣を抜かないでください!? お、落ち着いてください!?」
「……ここは酷い状況だな」
「お酒って怖いですね」
その時、ノエルがジーク達を見つけ、助けて欲しいようで大声で助けを求めるとその矢先にフィーナの周りにいた人間達の何人かが剣を抜き始める。
ノエルは状況がさらに酷くなっている事に声を上げるが、酒に飲まれた酔っぱらいの様子にジークはどうして良いのかわからないようで眉間のしわは深くなって行き、ミレットは困ったように笑う。
「わ、笑ってないで皆さんも止めてください!?」
「……完全に余興だと思われているな」
「俺かよ……まぁ、仕方ないか」
数名が剣を抜いた様子に周囲は宴会の席の余興だと判断したようでフィーナからノエルを引きはがす人間まで現れる。
その様子にアノスは大きく肩を落とすと視線でジークにこの場を収めろと指示を出す。
ジークは大きく肩を落とすが剣で斬りあわれては大惨事になるため、冷気の魔導銃を引き抜くと次々とバカ騒ぎをしている酔っぱらい達を凍らせて行くが、余興だと思っている者達は戦闘経験のない魔導銃の使い手が対戦相手になったと考えたようで次々と剣を抜き始める。
「……キリがない」
「ジーク、待たせてしまって申し訳ありません。シーマさん、お願いします」
「……まったく、なぜ、こんなバカ騒ぎに私が巻き込まれなければいけないの?」
セスもこの宴会をそろそろ終わらせなければいけないと思っていたようでジークが動き出したのを見つけるとそばにいたシーマへと頭を下げた。
シーマはこのような場所に引っ張り出された事に心底迷惑だと言いたいようで険しい表情でため息を吐くと彼女の瞳は怪しく光り、バカ騒ぎしている酔っぱらい達を籠絡して行く。