第749話
「……お前達は何をしているんだ?」
「俺に聞くな。俺が聞きたいくらいだ」
領民達に肉を配り始めてしばらくするとフォルムに滞在している冒険者達が酒と料理を運び込み始め、屋敷の庭で宴会を始め出してしまう。
宴会が始まってしまえば、他人が肉を受け取っても家に帰らずに参加してしまう領民達も増え、屋敷の庭では限界が来てしまい、兵や領民達の手を借りて肉を広場に運ぶと完全に領民の酔っぱらいを巻き込んで宴会会場が出来上がった。
アノスとオクスはカインの屋敷に向かう途中でジークを見つけると険しい表情でこの状況を説明するように問うが、完全に巻き込まれたジークは肉をさばくと肉を取りに来た領民に引き渡す。
「お祭り騒ぎだな。アノスも貰ったらどうだ?」
「……叔父上、いくらなんでも酒は」
「ジーク、なぜ、このようになったのか。簡単な説明を頼めるか?」
オクスは領民達に酒を渡されたようであり、楽しそうに笑うがアノスはカインから話があるとも聞かされているせいか叔父の行動を非難するように大きく肩を落とした。
しかし、オクスはアノスの言葉を気にする事無く、酒に口をつけた後、ジークにわかる範囲の説明を求める。
「肉を配り始めたら、冒険者が酒を持ってきて、独り身の奴らが同調、それに酔っぱらいが同調して、食い物が足りないからって、各家が夕飯を持参で拡大した」
「……どんな状況だ。それは」
「だから、俺が聞きたいって言っているだろ」
ジークもこの状況に頭が痛いようで眉間にしわを寄せて説明をするが、アノスは領民達の行動の意味がわからないようで眉間にしわを寄せた。
アノスに質問されたものの、ジーク自身もどうして良いかわからないため、大きく肩を落とすと若い2人の反応が楽しいのかオクスは表情を緩ませている。
「……それであの性悪はどこに行った?」
「俺が聞きたい。どこかで囲まれているんじゃないのか……今日は話を聞けないかも知れないぞ」
「どうかしたのか?」
アノスは付き合っていられないと言いたいようでカインの居場所を聞く。
ジークは肉の処理を任せられている事もあり、この場所を動く事ができずにカインの居場所を教えられないのだが、イヤな予感がしているのか視線をそらす
ジークの眉間のしわを見て、オクスは何か感じたのか首を傾げるが、彼の手にはいつの間にか新しい酒が渡されている。
「……叔父上」
「気にするな。それで、ジーク、どうかしたのか?」
「いや、言い難いんだけど、カインはもの凄く酒に弱い……きっと、あいつでもこの数の酔っぱらいは相手にできないだろう」
わずかな間でかなり進んでいるオクスの飲みっぷりにアノスは眉間にしわを寄せているが、彼は気にする様子もなく、ジークの心配の種を聞く。
ジークは頭をかくと1番盛り上がっている人混みを眺めながら、カインの弱点を話す。
「そうか。それは意外だな。領主となれば酒の飲むような場所にも出席しないといけないだろう」
「そう言う面倒なのはきっと誤魔化すと思いますよ。実際、ティミル様のご厚意でアノスのお披露目パーティーにも出席させて貰いましたけど、上手く誤魔化していたみたいですし、あいつにとって都合が悪いのは酔っぱらいが押し寄せてくるこの状況かな? 逃げても、逃げても襲い掛かってくる」
「確かに領主になってわずかな時間の割には領民達に慕われているようだからな。このような機会には領民達にも貴重だろう」
オクスは苦笑いを浮かべると領主には必要な技能だと言う。
社交界の時なら、カインは上手く誤魔化すと思えたようでジークは苦笑いを浮かべる。
ジークの言葉にオクスは自分がフォルムに来てから、見てきたカインの姿に納得したのか楽しそうに笑うと酒をあおった。
「……慕われているのか?」
「カインは平民出身ですからね。目線が一緒の事もあると思いますよ」
「ミレットさん……カイン、見ませんでしたか?」
オクスのカインの評価が信じられないようで怪訝そうな表情をする。
その時、ミレットが顔を出し、彼女のなりの意見を言うのだが、3人とも声をかけられるまでミレットの気配に気が付かなかったようでジークは眉間にしわを寄せるが何事もなかったかのようにカインの居場所を聞く。
「カインなら、お酒を飲まされて屋敷に帰されましたよ」
「……どうするんだ?」
「何のために呼ばれたかわかりませんね」
すでにカインは酒を飲まされてダウンしてしまったようであり、ミレットは苦笑いを浮かべる。
アノスは自分を呼び寄せた本人がいなくなってしまった事に怒りを通り越して呆れたようで眉間にしわを寄せ、ミレットはくすくすと笑った。
「ジーク、ワームに戻せ」
「戻せって言われてもな」
「もう少し付き合ってくれて良いんじゃないでしょうか? この光景がカインの見せたかったものでしょうし」
アノスはフォルムに残っていても仕方ないと判断したようでジークにワームに送るよう。
ジークは本題が終わっていないためか、アノスを戻して良いか判断が難しいようでミレットに視線で助けを求めると彼女はアノスにもう少しフォルムにいるようにと話す。
「……何が言いたいんだ? これが見せたいものだと、ただの酔っぱらいの集まりじゃないか」
「それに関しては否定のしようがありません……と言うか、騒ぎ過ぎです」
「良い事ではないか? フォルムはザガードから逃げてきた難民も多い。大勢で騒ぐ事で仲間意識が生まれる事もあるからな」
ミレットの言葉の意味がわからないため、アノスは眉間にしわを寄せるとバカ騒ぎをしている領民へと視線を向けた。
この状況はミレットも行きすぎだと思っているようで大きく肩を落とすがオクスはどこからか酒樽を運んできており、彼の周りには領民達が集まり始めている。
領民の中には酒樽の伝票を持っている商人も含まれており、ジークとミレットを見つけると伝票を渡して去って行く。
「……このお金ってどこから出るんですかね?」
「セ、セスさんに相談してみましょうか? 絶対に怒られる気がしますけど」
渡された伝票のあて名は領主であるカインの名前になっており、ジークとミレットはどう対応して良いかわからずに眉間にしわを寄せるが、騒ぎは一向に収まりそうもない。