第748話
「……フィーナは何をしたんですか?」
「気にしないでください。どうせ、いつもの逆切れです」
「そうですか」
ジークが巨大蛇の解体を続けているとセスが帰ってくる。
セスは氷漬けのフィーナを見て眉間にしわを寄せるとジークは少し考えるが詳しい事を知らないため、逆切れと判断するとセスは大きく肩を落とした。
「セスさん、アノスやオクスさんはどうしたんですか?」
「埃まみれですからね。オクスさんは家で汗を流してくると1度、家に戻りました。アノスは着替えを借りるとついて行きました」
「俺やカインの服じゃ、合わないから仕方ないか」
セスが1人で帰ってきた事もあり、ジークはアノスとオクスについて聞く。
2人は埃まみれのまま、屋敷に来るのを悪いと考えたようであり、ジークは自分やカインよりアノスの方が大柄のため、替えの服がなかった事に初めて気が付き苦笑いを浮かべた。
「そうですね。後は森との境目に警護兵を置いてきて残りは解散しました」
「見回りがいるのか? 夕飯、用意しないといけないですね」
「交代制にしていますから、問題はないと思いますけど、簡単な夜食くらいは頼めますか? ……言っておきますがあの栄養剤は要りませんよ」
セスは小さく頷いた後、目撃された3匹以外にも巨大蛇がいる可能性があるため、兵士達を残してきた事を告げる。
その言葉にジークはフォルムを守ってくれる兵士達の疲れを少しでも和らげようと差し入れの事を考え始めるとセスはジークの気づかいに笑顔を見せるが、栄養剤を持って行くのは止めるように釘を刺す。
「気付け薬代わりにもなりますから、眠気覚ましになりますよ」
「……永眠する可能性の方が高いから、止めてください」
「わかりましたよ。眠気覚ましの紅茶の葉にしておきます」
相変わらずの栄養剤の評価にジークは少しだけ不機嫌そうに言うが、セスから言わせればジークの意見を聞き入れる事はできずに彼を睨みつける。
ジークは不満げながらも代わりのものを提案すると巨大蛇の解体を終えたようでフィーナの剣から巨大蛇の血を拭きとった。
「……血だらけですね」
「それでもカインとミレットさんが血抜きをしておいてくれたから、そんなに汚れていませんよ」
「ジークの服ではありません。庭です」
セスは改めてひどい状況だと思ったようで小さく声を漏らす。
ジークは自分の服を見ながら苦笑いを浮かべるとセスは大きく肩を落として巨大蛇の血で真っ赤に染まった庭を指差した。
「あー」
「まったく、曲がりなりにも領主の屋敷の庭なんですよ。それが血だらけと言うのはどうかと思います」
「流石に不味いですよね。カインが何も言わなかったから気にせず、続けていました」
セスの指を目で追いかけたジークはそこで初めて中庭の惨状に気が付いたようで気まずそうに視線をそらす。
ジークを責めても仕方ないと思いながらもセスは何かを言わなければいけないと思ったようで眉間にしわを寄せて言い、ジークはすぐにカインの責任にしてしまう。
「ジーク、終わった? セス、お帰り」
「終わったけど、現在、セスさんに怒られちゅうだ」
「ジーク、今回は何をしたんだい?」
その時、着替えを終えたカインが様子を見に来たようで2人を見て声をかける。
ジークは苦笑いを浮かべて状況を簡単に説明するとカインはわざとらしくジークに聞き返す。
「この庭の惨状が気になるみたいだ」
「確かにこの状況は何かの惨劇があったみたいだね。蛇の血以外はフィーナをブッ飛ばしたくらいしかないんだけどね」
「……悪気もなく、ブッ飛ばしたとか言うのは止めなさい」
カインは中庭を見渡してため息を吐くがあまり気にした様子もなく、彼の様子にセスは眉間にしわを寄せる。
「やってしまったものは仕方ないよ。それに俺達が巨大蛇を持って帰った事は直ぐに民に伝わるだろうからね。おかしな事があったとは誰も思わないよ」
「そうかも知れませんが……後、これはどうするつもりなんですか? このままにしていても腐らせるだけですよ」
「……流石にこの量が腐ったら目も当てられないな。とりあえず、干し肉にでもするか?」
セスの怒りをカインはなだめるように何も心配ないと言う。
それでもセスは納得がいかないようでもう少し考えて運んで来いと2人を睨み付ける。
セスの視線にジークはバツが悪そうに視線をそらすと山積みになっている肉をどうするか首を捻った。
「そうだね……とりあえず、まずは配ろうか?」
「配る? これを持って歩くつもりか? 今日はもう動きたくないぞ。重労働だったんだからな」
「ジークが忙しかったのは知っているよ。ただ、配りに行く必要はないね……すでに人が集まっているから」
カインはジークの意見に頷くものの何かに気が付いたようで肉を民に配ると言い始める。
それは現実的だとは思えず、眉間にしわを寄せるジークだが、カインは屋敷の門がある方向を指差し、ジークとセスが視線を移すと巨大蛇討伐に参加した領民が顔を覗かせており、ジークとセスと目が合うと気まずそうに笑う。
「配りましょうか」
「もうここで食べちゃう?」
「……流石に無理だろ。配るにしても適当に配って良いのか?」
セスは大きく肩を落とすとカインは笑いながら無責任な事を言い、集まった人達を呼び寄せる。
彼の言葉にジークはため息を吐くと分け方など意見がないかとカインとセスに聞く。
「とりあえずは今回、家畜を襲われた家には優先だけど、まずはそこに連絡かな? 後はここだけで勝手に決めるわけにも行かないから、領民に通達」
「……食い意地張っている割には指揮系統が行きわたっているな。とりあえず、夜間の間に森を警備している人達にもわけないといけないから、先に取り分けるか」
「ミレットさんに手伝いを要請してきます」
カインはすぐに庭に入ってきた兵士達に領民達へ状況の説明を行うように指示を出すと兵士達はすぐに伝令に走る。
彼らの行動の速さにジークはため息を吐くとすでに包丁と化しているフィーナの剣を抜くとセスはジーク1人では大変だと思ったようで屋敷の中にいるミレットを呼びに向かう。