第747話
「……何があったんだ?」
「フィ、フィーナさん!? カインさん、ミレットさん、なんでフィーナさんは黒焦げなんですか!?」
「黒焦げなのは俺のせいじゃないよ」
ジークとノエルが屋敷に戻ってくると庭には黒焦げのフィーナが転がっており、ジークは眉間にしわを寄せた。
ノエルは慌ててフィーナに駆け寄ると治癒魔法を使い、彼女の手当てに移るがカインは自分には責任がないとひょうひょうと笑っている。
「それなら、何があったんだ?」
「クーが炎を吹いた」
「クー」
ノエルとフィーナを眺めながら、ジークはフィーナが黒焦げになった理由を聞く。
カインは簡単に説明するとクーは胸を張った後、誉めて欲しいのかジークの顔を覗き込む。
「炎を吹いたか? そうか、偉いぞ」
「クー」
「……ジーク、誉めるだけじゃダメですよ」
ジークに頭をなでられ、クーは嬉しそうに鼻を鳴らすが、ミレットはおかしな時に炎を吹かれては困るため、大きく肩を落とす。
彼女の注意にジークとクーはバツが悪そうに視線をそらし、2人の様子にミレットは苦笑いを浮かべる。
「それで、ジーク、セス達は?」
「森に入ったメンバーが出てきてから解散するって話だ。俺も待ってようかって言ったんだけど、さっさと戻れって言われた」
「確かにその格好だと言われてもおかしくないですね。速く汚れを落としてきてはどうですか?」
カインは2人で帰ってきた事に首を傾げるとセスやアノス達はまだ時間がかかるようでジークは先に帰されたと話す。
ミレットはジークが巨大蛇の血で真っ赤に染まっている事に気が付き、汗を流して来いと言う。
「いや、巨大蛇を解体しないといけないし、どうせ、汚れるならこのままやってしまいます。俺より、カインもさっさと済ませちゃえよ」
「そうだね。セスやアノスが戻ってきたら使うだろうし、先に汗を流して来ようかな。ジーク、ミレットさんの指示で血抜きは一応しといたよ」
「そうか。それならさっさと済ませようかな? 後で取りに来る人間も居るだろうし……包丁、欠けているな」
ジークは目の前の巨大蛇を解体してしまうと決めたようで浴場をカインに譲る。
カインも森の中で巨大蛇と戦ったためか、埃をかぶっており、ジークの言葉に頷くと屋敷の中に入って行く。
カインの背中を見送った後、ジークは腕まくりをするとカインが血抜きで使ったであろう包丁を手にする。
しかし、包丁は欠けており、使えないと思ったようでキョロキョロと他に仕えそうな物を探す。
「これで良いか? あれ? そう言えば、なんでフィーナは焦げたんだ?」
「クー?」
「それは私も思います。フィーナの剣は特殊なんですよね?」
すぐにフィーナの剣を見つけて剣を拾うと彼女の剣の特性を思い出して首を傾げた。
ジークに釣られるようにクーも首を傾げ、ミレットも先ほどジークと同じ疑問を抱いたためか、苦笑いを浮かべる。
「そう聞いています。実際、俺の冷気の魔導銃も隙をつかないと効かないし、火竜の瞳の炎も叩き斬っていたはずだし」
「どうしてなんでしょうね? クーちゃんの炎が特殊だとかでしょうか?」
「単純にフィーナが油断していた可能性の方が高いですけどね。この剣を持っていてもフィーナを凍り付かせる事はできますしね」
ジークはフィーナの剣を巨大蛇の身体に突き刺すと解体を始め出す。
クーはジークのそばにいたいようだがジークは忙しそうであり、ミレットのそばに移動する。
ミレットはクーの鼻先を指でなでながら、クーの炎には特殊な効果があるのではないかと言うがジークはフィーナの隙が生んだものだと結論付けたようですでに興味はなく、解体を続けて行く。
「簡単にさばけますね」
「コツがあるんですよ。俺もバーニアさんから教わったんですけどね。コツさえつかめばミレットさんでも簡単にできますよ。やってみます?」
「コツがつかめたって私の腕力じゃこんなに大きな蛇は解体できませんよ」
ミレットはクーを抱きしめると危なくないくらいの距離を取ってジークの手元を覗き込む。
ジークは手を止めるとミレットにも解体をしてみるかと聞くが、ミレットは腕力に自信がないと首を横に振った。
「腕力なら俺も自信はありませんよ」
「それにこう言うのは男の子のお仕事ですよ。そうは思いませんか? 弟くん」
「……何ですか。その呼び方は」
ジークも腕力には自信がないため、ため息を吐くとミレットはくすくすと笑う。
ミレットの呼び方にジークは意味がわからないと言いたいのか眉間にしわを寄せた。
「ジークが私の事をお姉ちゃんと呼んでくれないから、私の方から変えてみようかと」
「……止めてください」
「1回くらい呼んでみませんか?」
ミレットはジークが自分の事を姉だと呼んでくれないのが不満だと言いたいのかわざとらしく頬を膨らませる。
ジークは疲れたと言いたいのか、大きく肩を落とすとミレットはからかうように笑う。
「遠慮します」
「……ジーク、あのクズはどこにいるの?」
「……フィーナ、落ち着けよ。また返り討ちに遭うだけだぞ」
ミレットの冗談には付き合えないとジークが笑った時、2人の背後からフィーナの声が聞こえる。
彼女は自分を叩きのめしたカインにやり返したいようであり、殺気を放っているがジークはやるだけ無駄のため、眉間にしわを寄せた。
「フィーナさん、落ち着きましょう。黒焦げにされたばかりなんですし」
「黒焦げにしたのかクーよ……」
「……クーちゃん、お仕置きしても良いですよ」
フィーナの怒りの形相にノエルは少し距離を取りつつも彼女を落ち着かせようと声をかける。
彼女の言葉でフィーナはクーに攻撃された事を思い出したようでミレットの腕の中にいるクーへと視線を向けた。
ミレットはこのままフィーナを暴走させては行けないと判断したようでクーに攻撃の指示を出す。
「ま、待ちなさい!? ……あれ?」
「クー?」
「回数制限ありみたいだな……まぁ、時間は稼げたし良いか?」
ミレットの指示でクーは大きく息を吸った後、フィーナに向かい炎を吹きつけようとするが炎は噴き出さず、クーは首を捻る。
フィーナは炎から身を守ろうとするが、いつまでたっても炎が襲ってこないためか首を捻った時、冷気の弾丸がフィーナを襲う。
彼女の剣は今はジークの手の中にあるため、冷気の弾丸を防ぐ手立てはなく、フィーナは直撃を食らって凍り付く。