第745話
「大量だな」
「とりあえず、目撃例がある3匹は駆除できたね」
指揮官としてたどたどしいながらもシーマの指示で何とか残りの2匹を倒す事ができた。
解体までは追いつかないためか、ジークとカインは地面に倒れ込んでいる2匹を眺めながら満足そうに笑っているが、指揮を押し付けられたシーマの顔には疲労の色が見える。
「シーマさん、大丈夫ですか?」
「……心配する必要はありません」
「まあ、そんな時もある」
シーマの様子に気が付いたノエルは心配そうに彼女の顔を覗き込むが、シーマは心配など無用と撤退の指示を始め出す。
冷たくあしらわれた事にノエルはどうして良いのかわからずにジークとカインに助けを求めるような視線を向ける。
2人はそんな彼女を見て苦笑いを浮かべるとジークはノエルの頭をなでて笑う。
「それじゃあ、俺達も撤退の準備を始めようか?」
「準備って言うけど転移魔法で戻れば良いんじゃないか?」
「そうだけど、まだ森の中にいる人もいるし、セス達のところに3匹を仕留めた事を伝えないといけないからね」
2人の様子を見て、カインは優しげな笑みを浮かべるがすぐに表情を戻すとシーマの指示に従おうと2人の肩を叩く。
ジークは転移魔法で屋敷に戻れるため必要ないと言いたげだが、カインは森の中を探索している人への通達が必要だと言う。
「……忘れていたな」
「そこの3人、遊んでいないで働きなさい」
「そう言うなら、指示を出してくれないかな? 指揮官殿」
ジークはセスの事をすっかり忘れていたようで気まずそうに頭をかくとシーマが3人を怒鳴りつける。
カインは自分達が遊んでいるのはシーマからの指示がないからだと悪びれる事なく言い、シーマはカインを睨み付けた。
「シーマさん、落ち着きましょう」
「……わざわざ、挑発する必要はないだろ。それでシーマさん、俺達は何したら良いんだ?」
「そうですね……一先ずはセスのところに状況説明をして撤退指示をお願いします。性悪領主は目障りなのでさっさと消えてくれますか?」
シーマがカインにつかみかかりそうなため、ノエルは慌てて2人の間に割って入る。
ジークはその様子にため息を吐くとシーマに指示を仰ぐ、シーマは眉間にしわを寄せるとジークとノエルに指示を出した後、カインにはもう用は無いと追い払うように手を振った。
「……カインがいた方が撤退は楽じゃないか? 転移魔法があるわけだし」
「必要ありません。それに転移魔法くらい私も使えます」
「そう言えば、そうだった。カイン、帰るなら蛇の事を頼むぞ。俺が帰ったら解体するから」
ジークはシーマの指示に疑問を覚えたようで首を捻るとシーマはジークを睨み付ける。
その言葉にジークは頷くとノエルと一緒にセスの元に向かって歩き出す。
「……本当に持って帰る気?」
「そうだね。さっきも言ったけど、使い道はあるからね。少しでも財政の足しにしないとね」
「それなら、早く持ち帰ってください。邪魔ですから」
2人の背中を見送った後、シーマは巨大蛇の亡骸を見て眉間にしわを寄せた。
カインは使い道があると笑うとシーマは吐き捨てるように言い、他の者達に指示を出しに戻って行く。
「あんなにカリカリしていて疲れないのかな?」
「……カリカリさせているのはお前が原因だろ」
「そんなつもりはないね。それでアノスはどうしたんだい? 俺の見張り?」
シーマの背中を見てカインがため息を吐くと眉間にしわを寄せたアノスが声をかける。
その物言いはカインを非難するものであり、カインはわざとらしいくらいに肩を落とすと何しに来たかと聞く。
「……俺に貴様の見張りができると思うか?」
「できないだろうね。それなら、疲れたから先に1人で帰りたいって事かな?」
「誰もそんな事は言っていない……おい、貴様は何をしているんだ?」
アノスはカインを1人で押さえつけるのが難しいためか険しい表情で聞き返す。
カインは彼が少しだけでも現実を理解した事にくすりと笑うと持っていた杖で地面に魔法陣を書き始める。
地面に描かれて行く魔法陣にアノスはカインが何をしているかわからないため、首を捻った。
「俺は先に帰っても良いって指示が出たからね」
「……それがその魔法陣にどうつながるんだ?」
「流石に大荷物だから、今の魔力だときついからね」
カインが魔法陣を書き上げると地面からは光の柱が浮かび上がる。
アノスはまたカインが何かを企んでいると思ったようで怪訝そうな表情で魔法陣を覗き込む。
カインは転移魔法に必要な物だと言いたいのか魔法陣の中心に入ると目を閉じる。
光の柱は魔法陣の中心に入ったカインの中に溶け込んで行く。
「……何をした?」
「大地から魔力を少しだけ分けて貰ったんだよ。これも転移魔法を有効利用するための応用ね」
「……意味がわからん」
カインは身体に不調がないか確認するかのように体を軽く動かす。
しかし、アノスは魔法陣を疑っているようで光の消えた魔法陣を覗き込んでいる。
「転移魔法は理論上、術者がいなくても発動できるんだよ」
「転移の魔導機器は見た事があるからな。それは知っている。それとこれが何に繋がるんだ?」
「今は魔導機器を持っている人間から自動的に魔力を取っているんだけどね。この先に考えている事をするには魔力を供給する方法を考えないといけないんだよ。これはその研究の1つ……大丈夫かな?」
アノスが首を捻っている姿にカインは苦笑いを浮かべると身体に不調はなかったようで魔法陣から出る。
「……こんなものを良く研究だと言ってできるな。魔術師と言うのは意味がわからん」
「方向性が違うだけだよ。騎士達は王や民を守るために己を鍛える。魔術師は王や民の生活をより豊かにするためにその知識を深める。鍛えた身体と深めた知識を使う先を間違えなければ騎士と宮廷魔術師の軋轢もなくなるのにね」
「……」
魔法と言う物に見識のないアノスは険しい表情をしており、カインは難しく考える必要はないと笑う。
アノスはカインの言葉を信じられないようで疑いの視線を向け、カインは疑わないで欲しいと言いたいのかわざとらしく大きく肩を落とす。
「まあ、相互理解はおいおい考えるとして、俺はそろそろ戻るよ。そろそろ、フィーナが目を覚まして暴れ始めるから」
「……俺やあの女に余計な事を言う前に自分の妹をどうにかしろ」
「そうだね。頑張るよ」
カインはこの先、協力関係を維持するためにお互いに努力しようと言うとアノスはカインを認めるにはフィーナの行動次第だと言う。
カインにとってフィーナは弱点とも言えるため、苦笑いを浮かべると転移魔法を発動させ、カインと巨大蛇の身体を光がつつむ。




