第743話
「食うか?」
「……いらん。それより、その恰好はどうにかならないのか?」
「洗い流したいけど、さすがに1人で巨大蛇を倒す自信はない。川もこの辺にはないからな」
巨大蛇を解体し終えたジークは先ほどまで身体を温めていたたき火で巨大蛇の肉を焼くとアノスの前に出す。
アノスは理解できないと言いたいのか眉間にくっきりとしたしわを寄せて首を横に振ると巨大蛇の血で汚れたジークの格好が気になるようでわざとらしいくらいの大きなため息を吐いた。
ジークは洗い流す場所がないと苦笑いを浮かべるが、ジークの言葉をアノスは胡散臭いと思っているのか眉間にしわを寄せたままである。
「ジーク、アノスが胡散臭いと考えているよ」
「胡散臭いって、カインにだけは言われたくない。血の匂いをまき散らして、1人で動き回ったら何が襲ってくるかわからないからな。それに……このメンバーはまとまりにかけるからな」
「……ですね」
カインはアノスの考えている事を笑いながらジークに教えるとジークは1人で森の中を歩きたくないと言った後、周囲を見回して大きく肩を落とした。
ノエルはジークの意見に賛成のようだが、アノスやシーマに聞かれては怒られる可能性があるためか聞こえないようにつぶやく。
「それにジークは囮だからね。居て貰わないと困るね。それより、シーマさんは次に巨大蛇が来た時に倒すプランを考えてくれないと困るよ。それとも今日はもう遅いから撤退するかい?」
「……」
カインは血の匂いが付いたジークで残りの巨大蛇を呼び寄せようとしているためか、ジークを動かさないと言うとシーマに残りの巨大蛇を仕留める作戦を立てろと指示を出す。
その言葉にシーマは考え込むが答えが出てこないようであり、険しい表情をしている。
「ほう……美味いな」
「新鮮ですからね」
「……叔父上、なぜ、そんなものを食べているんですか?」
カインとシーマが話し込んでいる間に焼きあがった巨大蛇の肉をオクスはジークから受け取って頬張ると驚きの声を上げた。
アノスは蛇など食い物だと思えないようで険しい表情で聞くが肉の焼ける香ばしい匂いに兵士達は我慢できなくなったようで次々とジークから肉を頬張る。
「食い過ぎには注意してね。食い過ぎで動けなくなっても困るから、解体した蛇はフォルムに配ろうか」
「……あいつ、他人にエサを与えるタイミングが上手いよな」
兵士達が肉を頬張る様子にカインは苦笑いを浮かべて注意すると兵士達への労いなのか巨大蛇の扱いを決め、兵士達からは声があがった。
その行動は解体を終えた後のジークの行動もカインは予想していたようであり、兵士達から支持のあがったカインを見て、ジークは納得が行かないと言いたげに大きく肩を落とす。
「……」
「あの、シーマさん、大丈夫ですか?」
「カインの考えがわからないって顔ですね」
周りが蛇肉で盛り上がっているなか、シーマは1人難しい表情をしている。
その様子にノエルは心配になったようで彼女の顔を覗き込むが反応は薄く、ノエルはジークに助けを求めるような視線を向け、ジークは苦笑いを浮かべてシーマに話しかけた。
「……あなたにはわかると言うんですか?」
「いや、全然。ただ、シーマさんの弱点はなんとなく、カインはそれを埋めさせようとしているんだとは思います」
「そのなんとなくと言う物をご教授願いますか?」
ノエルの声には反応の薄かったシーマだが、ジーク相手なら話す価値があると判断したようで質問を返す。
ジークは苦笑いを浮かべたまま首を横に振るもなんとなくだと言い、シーマは参考にならないとは思いながらもジークの意見を聞かせるように言う。
その物言いはジークを明らかにバカにしているのだが、ジークは特に気にした様子もなく、頷いた。
「シーマさんって、割となんでも1人でやるタイプの人ですよね?」
「それが悪いのですか? 使えない者に指示を出して、任務を失敗するよりは自分でやった方が確実です」
「その自分でやろうとして俺達に捕まっているわけですよね。それも1人で来たから助けもなく、今の状況と」
ジークは自分の持っているシーマの印象を本人にぶつける。
シーマは当然だと言い切るが、ジークはそれが彼女の失敗の原因だと言うと彼女はバカにされていると感じたようで表情は険しくなって行く。
「意見を求めたんだから、怒りませんよね?」
「……人の失敗をバカにするつもりですか?」
「バカにして良いならバカにしますけど、シーマさんは改善する事も考えているから意見を求めたわけですよね……カインに直接聞くと血圧上がるから俺に聞いたんだろうし、俺だってわざわざ怒らせたくないですよ」
シーマの表情の変化にジークは聞き返すとシーマは怒りを何とか押さえつけようとしているのか笑顔を見せるがその頬は引きつっている。
彼女の頭に血が上っているのもジークには理解できるようであり、大きく肩を落とすと自分の考えをジークが読み取っているため、シーマは自分を押さえようと大きく深呼吸をする。
「落ち着きましたか?」
「……少しは頭から血が下がったと思います」
「前にエルト王子に自分より優れた事がある人間がいるなら、その人の考えがわかるようになれば良いって言われた事があるんですけど」
シーマはまだ完全に怒りが治まっていないようで、ジークを睨み付けたまま自分は冷静だと言う。
ノエルは心配なのかジークに目で訴えるとジークは心配ないと笑顔を見せた後、話し始める。
その言葉は以前にエルトの口から出た言葉であるが、シーマはジークが何を言いたいのかわからないようで次の言葉を待つ。
「自分の考えている事を他の人に教えるのってどうします?」
「……バカにしているのですか?」
「そう言うわけじゃないですけど、話の都合上、必要なので」
しかし、次のジークの言葉は人を小ばかにするような質問であり、シーマの額にはぴくぴくと青筋が浮かび出す。
ジークは質問の仕方を間違えたと思ったようで誤魔化すように自分の鼻を指でかくと必要な事だと強調して言い、シーマは自分が質問している立場のためか怒るわけにも行かず、ジークの質問に裏がある可能性もあるため真剣に悩み始める。