第740話
「……なんだ?」
「毒液だな」
「毒? 面倒な」
シーマの声にアノスとオクスが後方に飛ぶと先ほどまで2人が立っていた場所に向かい、巨大蛇が何かを吐き出す。
巨大蛇が吐き出した物は地面に当たるなり、紫色をした煙をあげて異臭を放つ、アノスは何が起きたかわからずに眉間にしわをよせるがジークはすぐに毒だと理解して舌打ちをする。
ジークの声にアノスは舌打ちをすると攻める手段が見つからないようで忌々しそうに巨大蛇を睨む。
「……毒液を吐くなら先に言っていて欲しかった」
「毒液を吐くのはいたけど、たいした事はなかったのよ。このサイズになると……」
「毒液をためておける量が多いだろうな」
ジークは非難するようにシーマを見るがシーマも予想していたより、巨大蛇のサイズが大きいため、どうなるかわからないと眉間にしわを寄せる。
魔導銃で巨大蛇を牽制しながらジークは冷静に巨大蛇の攻撃手段を分析するが、毒液の量は1発、2発ではすまなさそうであり、ため息が漏れた。
「……ずいぶんと余裕そうね? 余裕なら打開策でも教えてくれないかしら」
「別に打開策はないんだけど、なぜか、毒液を吐くのとは縁があるんだよ……それにポイズンリザードよりは弱いだろ?」
「そ、そう思いたいです」
ジークの様子にシーマは険しい表情で何か策があるのかと聞く。
その質問にジークは苦笑いを浮かべるも冷静になったためか、経験で巨大蛇はポイズンリザード以下だと判断したようで余裕が出てきている。
しかし、ノエルは余裕がないようで声を裏返しており、彼女の様子にジークとシーマは眉間にしわを寄せた。
「……ノエルの魔法が攻撃の要なんだけどな。シーマさんって攻撃魔法は得意なんですか? 毒液もだけど、剣だとあの鱗は裂けないだろうし、ノエルとシーマさんの魔法が頼りなんですから」
「別に魔法に得手不得手なんてないわ。ただ、威力としてはドレイク族にはかなわないと思うわ」
「貴様、今、俺をバカにしただろ!!」
ジークは戦力の分析をしたいようでシーマに魔法の実力を聞く。
シーマは攻撃魔法の威力はノエルにはかなわないと素直に答えるが2人の会話がアノスの耳に届いていたようで彼はバカにされたと思ったのかジークを怒鳴りつける。
「……別にバカにしているわけじゃない」
「見ていろ。大きいとは言え、ただの蛇だろ。すぐに叩き斬ってやる」
「だから、剣がダメになるし、切れたとしても毒液がまき散らされたらたまったもんじゃないんだよ」
ジークはため息を吐くがアノスの耳には届いておらず、アノスは剣を構えると巨大蛇は自分が倒すと叫ぶ。
彼の様子にジークは周囲の被害を考えろと言う。
「そこまで有害の毒じゃないんじゃないかな? 結局は獲物を捕らえるためのものだし、消化液のような物だろうし」
「カイン、戻ってきたなら、あれを倒す方法を出せ。すぐに出せ」
「……ジークは俺を何だと思っているんだい?」
その時、ジークの頭の上にカインの使い魔が降り立つ。
聞こえたカインの声にジークは作戦を出すように言い、カインはもう少し言う事はないのかと言いたいのかため息を吐いた。
「性悪領主」
「……作戦を出す気が失せるね。それに今回の作戦の指揮官はシーマさんなんだから、俺は指揮官の指示に従おうと思うんだ」
「お前、面倒だと思っているだろ」
ジークは迷う事無く、カインを性悪だと答える。
カインはため息を吐くとあくまでもシーマが指揮官だと言い、その反応にジークは眉間にしわを寄せた。
「そう言うわけでもないんだけどね。シーマさんにはそのうち、正式にフォルムの領主を押し付けようと思っているからさ。指揮能力は高くなって貰わないと」
「……意味の解らない事を言わないでくれる」
「シーマさんが領主になるかは置いておいて、今はさっさと片付けて夕飯にしたい」
カインはシーマをフォルムの領主にすると緩く宣言するが、シーマはそんなつもりはないと舌打ちをする。
ジークはこの先の事より、夕飯の方が気になるようでため息を吐く。
「と言う事で、シーマさん、どうします? ちなみに俺は使い魔だとたいした事はできないから、火球を3発放つだけね」
「後は他人の神経を逆なでする事くらいか?」
「ジーク、屋敷に戻ったらお説教ね」
カインはジークの頭の上からシーマの肩の上に移動すると使い魔の状態での戦力を話す。
ジークは悪態を吐くとその言葉はカインの耳にはしっかりと届いており、いつの間にか本人がジークの背後に立っている。
「お、お前、どこから湧いて出た!?」
「転移魔法の応用利用、使い魔の位置と術者本人の居場所を入れ替える事ができるんだよね」
「……お前、最近、本当に何でもありになってきたな。と言うか、それなら最初から出て来いよ」
突然出てきたカインの姿に驚きの声を上げるとカインは転移魔法の応用だと笑う。
ジークは意味がわからないと言いたいのか大きく肩を落とす。
「貴様ら、遊んでいるヒマがあるなら、さっさとどうにかしろ。剣では無理だと言うなら、魔法でどうにかしろ!!」
「そうだね……ジークと俺は魔導銃と魔法でオクスさんとアノスを援護するから、倒すのはシーマさんとノエルに任せるよ」
「任せるって、そんな無責任な事を!?」
その時、アノスが声を張り上げる。
カインはジークの背中を叩くと2人でアノス達の援護に駆け出して行く。
残されたシーマは作戦を丸投げされた事に驚きの声を上げるが2人からの返事はない。
「シ、シーマさん、どうしたら良いんですか!?」
「わからないわよ。なんで自分より、実力の劣る人間に指揮を丸投げするの? 理解できないわよ!?」
ノエルは杖を両手で握りながら、シーマにこの後の作戦について聞く。
シーマはカインの意図がわからずに声をあげるが、巨大蛇の鱗を剣では切り裂けないようでアノスや巨大蛇討伐に参加している兵達からは指揮官であるシーマへ指示を求める声が止まらない。
「ジークはアノスをお願いね」
「別に良いけど、良いのかよ? シーマさんに後ろから狙われるぞ」
「大丈夫、大丈夫」
背後から聞こえるシーマのかんしゃく交じりの声にジークは困ったように笑うが、カインは気にする事はない。