第739話
「みなさん、大丈夫ですかね?」
「……いつも森の中で歩き回っている者達だから、問題ないわ」
シーマから待機指示が出るとジークとオクスを中心に周囲への警戒をしている。
そんななか、ノエルはやる事が無いようでそばにいたシーマにここにはいないメンバーの無事を聞く。
シーマは答えるのも面倒だとぶっきらぼうに答えた。
彼女の対応にノエルはどうして良いのかわからずに表情を曇らせるが、シーマは気にする事無く、森の奥へと視線を向けている。
「あ、あの、シーマさん、わたしの事、嫌いですか?」
「……くだらない質問をしないでくれる。今、必要なのは巨大蛇を退治する事よ」
「す、すいません」
ノエルは決意するように小さく両拳に力を込めるとシーマに自分の事をどう思っているか聞く。
それでも彼女の対応は冷たく、ノエルは慌てて頭を下げる。
「シーマももう少しノエルに優しくしても良いんじゃないかな?」
「……黙れ。性悪領主」
「これでも、シーマの好きな人の娘さんだよ。味方につけといて損はないんだから、機嫌は取っておくべきだと思うんだ」
その時、ノエルの肩の上に小鳥が降り立ち、シーマは耳障りだと言いたげに顔をしかめた。
シーマの表情の変化を気にする事無く、カインはべらべらと話し始め、その言葉にシーマは不機嫌だと言いたいのか表情を険しくしていく。
「あ、あの、カインさん、どうしてここに?」
「ノエルが帰ってこないから、何かあったかと思ってね。使い魔を飛ばして見たら、問題が起きているみたいだから、フィーナは役立たずと化しているし、伝令係くらいは出来るかと思って、と言う事で少し、森の中を見てくるよ」
シーマがカインの使い魔を捕まえて握りつぶしそうなためか、ノエルは距離をとり、カインに使い魔を飛ばした理由を尋ねる。
ノエルが気を使った事をカインは理解したようであり、彼女の質問に答えるとノエルの肩から飛び立つ。
「よ、良かったですね。カインさんが協力してくれるなら、他の人達の状況もすぐにわかりますから、対処がしやすいですよ」
「……」
「……どうして、カインさんはタイミング悪く出てくるんでしょう? 狙っているんでしょうか?」
飛び立ったカインの使い魔を見送った後、ノエルは背後に寒気を感じて振り返る。
そこに立っていたシーマは怒りの形相をしており、ノエルは後ずさりをすると彼女になんと声をかけて良いのかわからないようでかき回すだけかき回していなくなったカインへと恨み言を漏らす。
「ノエル、さっき、カインが来ていたか?」
「は、はい。使い魔ですけど様子を見てきてくれるって言っていました……」
「どうかしたか?」
その時、ジークが飛んで行った小鳥を見ていたようでノエルに声をかける。
ノエルはシーマと2人は気まずいため、表情を和らげるがジークがなぜ、カインの使い魔に気が付いたか疑問に思ったようで首を捻り、彼女の様子にジークは首を捻った。
「どうして、カインさんがきた事がわかったんですか?」
「邪悪な気配を感じたから」
「……ジークさん、そう言う冗談は良いです」
ノエルは頭によぎった疑問を口にするとジークは迷う事無く答えるが、それは悪質な冗談にしか思えなかったようでノエルは大きく肩を落とす。
「まあ、だいぶ、暗くなっているから、不自然ありすぎだっただろ」
「そうですね……そう言えば、カインさん以前に使い魔は鳥目だから暗くなると周りが見えないって言っていませんでしたか?」
「それはあいつの冗談だから、シーマさんもあいつの言葉すべてに腹を立てていると胃に穴が開くぞ」
ジークは不自然な小鳥が見えたからだと答えるとノエルは納得したのか小さく頷くも新たな疑問が生じたようで首を捻る。
その様子にジークは苦笑いを浮かべるとシーマの様子にも気が付いていたようで彼女に声をかけるが、シーマは簡単に割り切れていないのかジークを睨み付けた。
「睨まれても困るんだけど……」
「ジークさん、睨み合いを始めないでください!?」
「……違う。オクス、アノス、右手からくるぞ」
ジークはシーマの視線にため息をついた時、視線を鋭くする。
その様子はノエルには2人が揉めると思えたようでジークの服を引っ張るがジークとシーマは他の物を見ていたようであり、ジークは周囲を警戒していたアノスとオクスに指示を出す。
ジークの声から遅れて木々をなぎ倒しながら何かが進んでくるように音が聞こえた。
その音にこの場に残っていた者達はシーマの指示で迎撃態勢を取り、巨大蛇の攻撃に備える。
「ジークさん、大丈夫なんですか?」
「とりあえず、この間よりは楽だろ。人も多いし……そう思いたいな」
ノエルは不安そうにジークに声をかけるとジークは巨大蛇と戦闘経験もあるため、少し余裕があるようで心配ないと笑う。
その時、木々が割れて人1人くらい簡単に飲み込みそうな頭をした巨大な蛇が顔を覗かせ、その目が怪しく光った。
巨大蛇はジークとノエルが以前に戦った巨大蛇より大きく、ジークは顔を引きつらせる。
「……シーマさん、フォルムにはこんな巨大蛇がいるんですね」
「……いや、私もここまでとは思わなかった」
巨大蛇は舌を出しながら、こちらを見定めるように視線を動かしており、ノエルは小さく悲鳴を上げた後、シーマに声をかけた。
シーマが予想していたよりも巨大蛇は大きかったようで顔を引きつらせるが、この空気に飲まれてはいけないと思ったようで杖を握っている両手に力を込める。
「……とりあえず、先制攻撃かな?」
「アノス、オクス、後ろに飛びなさい!!」
巨大蛇の登場にその場が固まっているなか、いち早く動いたのはジークである。
ジークは魔導銃を腰のホルダから引き抜くと巨大蛇へ向かって魔導銃を放つ。
近づく光線を避け切る事ができず、巨大蛇はジークの攻撃を受けるが、その硬い鱗を撃ち抜く事はできなかったようで巨大蛇の瞳は怪しく光りを放った。
その様子にシーマはイヤな予感がしたようで声を張り上げて巨大蛇の前にいた2人に下がるように指示を出す。