第737話
「……」
「睨むなよ。おっさんの部隊に入っていたから、おっさん辺りが言っていると思ったんだよ」
「俺達はあの事件で表向きは処分された事になっている。身内だろうが簡単に話す事はできないだろうな。それこそ、イオリア家はあの事件に関わっているんだからな」
カインやシュミットが上手く手をまわしていたようでシギル村でギムレット側に回った兵士達は身分などを誤魔化してフォルムの警護兵として受け入れられている。
ジークとノエルの様子から察してくれたようでオクスはアノスに自分がフォルムにきた経緯を話してくれ、アノスはオクスの無事に安堵の表情をするがそれでも納得ができない事があるようでジークを睨み付けた。
彼の様子にジークは大きく肩を落とすがオクスはラース達がアノスに自分達の事を隠している理由もわかると言ってくれ、アノスは矛先を収める。
「助かりました」
「いや、アノスの性格だとジークやノエルにかみついてしまうだろうからな。それにカインの事だ。この件に関しては2人には詳しく話はしていないだろう」
「そうですね」
ジークは苦笑いを浮かべてオクスに礼を言うとオクスは小さく表情をほころばせる。
その様子にノエルは釣られるように笑顔を見せると3人の様子にどこか距離があると感じたのかアノスの顔は小さく歪む。
「オクスさん、とりあえず、あっちと合流しませんか? 俺達、詳しい情報を聞かずに森の中に入ってきたんで」
「そうだな。アノスも良いな」
「わかりました」
アノスの様子にジークは気が付くと先に森に入った面々と合流して情報の共有をしたいと言う。
オクスはジーク達の状況が理解できたようでアノスに声をかけ、オクスの言葉には逆らう気はないようでアノスはすぐに頷いた。
「シーマさん、巨大蛇は見つかりましたか?」
「……」
「いや、ノエル、見つかっていたら、みんな、撤退しているだろ」
オクスの案内でシーマ達と合流する。
ノエルは彼女に駆け寄るが、シーマは小さく会釈するだけで何も言わず、ジークはすぐにノエルの質問にツッコミを入れる。
ジークに言われてノエルはバツが悪そうに目を伏せた。
「そうだな」
「叔父上、巨大蛇は何匹見つかっているのですか?」
「3匹は確実だ。被害は家畜が数匹食われている」
2人の様子にオクスは表情を和らげた。
合流した物の情報が聞けない事に苛立ち始めたアノスはオクスに巨大蛇の情報を聞き、オクスは真剣な表情をすると被害状況を話す。
被害としては小さいと判断したのか、オクスはつまらないと言いたげに小さくため息を吐くが、対照的にジークの表情は険しくなって行く。
「……さっさと駆除しないとな」
「そうだな」
ジークは気合を入れ直したのか視線を鋭くして言う。
彼の言葉にシーマは小さく頷くがアノスはそこまで重要な事ではないと思っているのか怪訝そうな表情をしている。
「家畜が減るのは民の生活を脅かす事になるからな。アノスももう少し、民の目線に立つようにした方が良い」
「……」
「必要な事だ。騎士は王や民に降りかかる災いを振り払う剣、王や民を守る盾、それを忘れてしまえば驕りだけが残る。それだけでは騎士とは言えない……俺もそれがわかったのは最近だがな。お前は俺と同じになるな。お前は騎士でいろ」
アノスの様子にオクスは彼が危ういと思ったようで肩を叩いた。
しかし、アノスは騎士としてのプライドなのか民を見下しているため、頷く事はできない。
その姿にオクスは以前の自分と重ね合わせてしまったようで、自虐的な笑みを浮かべた後、甥であるアノスが自分と同じ過ちを起こさないようにとアドバイスをする。
叔父の言葉にアノスは息を飲み、小さく頷くとオクスは甥の成長を喜ばしく思っているのか小さく表情を緩ませた。
「それで、シーマさんは巨大蛇の気持ちはわからないのか?」
「……ジーク=フィリス、お前は私をバカにしているのか?」
「そう言うわけじゃないけど……ラミア族って蛇だろ?」
巨大蛇を見つけようとするジークはシーマにおかしな質問をする。
その質問はシーマには不愉快に思えたようで彼女は視線を鋭くし、その瞳の奥は怪しい光を放つ。
瞳の光はラミア族の特殊能力である魔眼の発動を意味するものであり、ジークはすぐに視線をそらす。
「……確かに蛇の特徴を持ってはいるが蛇の気持ちなどわかるわけがないだろ。それがわかるなら、ドレイク族は竜の気持ちがわかるのだろう」
「悪い。おかしな事を言った。確かにそれならノエルはクーの気持ちが完全にわかるはずだ。ノエルにクーの気持ちを理解する才能は皆無だ」
「わ、わかりますからね。わたしだって、クーちゃんの気持ちは!?」
シーマの言葉は淡々としているがその声には怒気が含まれている事がわかった。
彼女の言葉の意味をジークは考えて納得したようでシーマに謝罪し、クーが大好きなノエルはクーの気持ちがわかると主張し始めるがジークとシーマは首を横に振り、彼女の意見を全否定する。
「あの性悪領主の屋敷に住んでいる人間でクーの優先順位はジーク、カイン、ミレット、レイン、フィーナ、セス、ノエルの順だ」
「……だいたい合っている」
「そ、そんな事はないです!?」
シーマはクーの優先順位を話し、ジークはその通りだと言いたいようで大きく肩を落とした。
ノエルは自分がクーに好かれていると思いたいようで声を上げるが、すでにジークとシーマは彼女の言葉を受け入れる事はない。
「それで巨大蛇は3匹って言っていたけど、どうして、わかるんだ?」
「私達だって、ただ家畜を食われただけではない。血は薄まっているとは言え、それなりに戦う術は持っている」
「……そうだったな。たまに忘れそうになるよ」
ジークは識別された3匹の巨大蛇の事を聞くと住民達が目撃した時に仕留めきれないまでも傷を負わせたようである。
それを聞き、いつもは普通に暮らしているフォルムの民が魔族の血を引いている事を思い出したようで苦笑いを浮かべた。
その笑みは彼にとって種族など関係ないと心から思っているように見え、魔族中心の世界を作ろうと動いていたシーマは自分達の考えに迷いが生じていると思ったようで表情を険しくする。