第736話
「……」
「先頭きって歩くのは良いけど、迷子になるなよ」
アノスとノエルに遅れて森に入ったジークはすぐに2人を見つける。
魔族の集落に行くために森の中を歩いたと言ってもなれない事であり、アノスは道を探るが判断できていないのは見て取れ、ジークは小さくため息を吐く。
彼の言葉はアノスのプライドに傷をつけたようで鋭い視線をジークに向けるが、ジークは気にする事無く、森の様子をうかがっている。
「ジークさん、どうするんですか?」
「まずはシーマさんやオクスさん達と合流だろうな。巨大蛇の数を聞き忘れたし、大量発生しているなら、3人だときついからな」
「巨大蛇ていど、俺が叩ききってやる」
ジークは3人で動き回るのは危険と判断しており、先行して森に入った面々と合流すると言う。
無視された事もあるのか、アノスは声を大にして巨大蛇の相手は任せろと叫ぶが、ジークの対応は冷たく、冷ややかな視線を向ける。
「……何だ?」
「巨大蛇と戦った事もないのに大きい事を言うなよ。鱗があるから硬いんだぞ。俺とノエルは1度、戦った事があるけど、騎士のリアーナの剣もダメになっていたからな。数によっては剣がダメになる。それにお前の剣って騎士様の装飾剣だろ。すぐに刃がへたるんじゃないのか?」
「剣が……いや、あのバカ女の持っている剣に比べれば劣るがそこまで軟弱ではない」
その視線にアノスはムッとした様子で聞き返し、ジークは経験談からアノスの持っている剣では役に立たないと思ってようでため息を吐く。
剣がダメになると聞き、アノスは自分の腰の剣を抜くと森に差す光が剣に反射する。
剣の輝きを見て、アノスはフィーナの剣の出来のよさを思い出したのか、忌々しそうに舌打ちをしながらも自分の剣にも自信があるようでジークの心配など杞憂だと言い、剣を鞘に戻す。
「そうかよ」
「それに剣が折れようが、俺は折れん」
「……根性論は余所でやってくれ」
アノスは剣がダメになっても、巨大蛇を倒すと大見得を張り、ジークは疲れたと言いたいのか大きく肩を落とした。
「ジークさん、もしもの時は前回みたく、わたしがフォローしますんで」
「頼むな……こっちだな」
ノエルは以前の時のようにアノスの剣に補助魔法をかけると言い、ジークは小さく表情を緩めた後、行き先を決めたようで指で進む方向を示す。
「疑うのは勝手だけど、1人で歩いて迷子になるなよ。日が落ちた後に探すのは面倒だからな」
「わかっている。すでに迷子になりそうな人間がいるからな。何人も探すのは骨が折れるだろうからな」
「わ、わたしは迷子になんてなりません!?」
アノスはジークが選んだ道を信用するか悩んでいるようで怪訝そうな表情をしており、ジークは彼の態度に大きく肩を落とした。
魔族の集落でのジークの働きをアノスは思い出したようで何とか納得するとこの中で最も迷子になりそうな人間に視線を移し、ため息を吐く。
アノスの視線にジークも釣られたようでノエルに視線が集まり、ノエルは声を上げる。
「説得力がないからな。アノス、悪いんだけど最後を歩いて貰っても良いか? ノエルが最後だと迷子になっても困るから」
「仕方ない」
「で、ですから、わたしは迷子になんかなりません!?」
しかし、ジークとアノスの間ではノエルを無視して話が進み、ノエルは自分の評価が正当ではないと言いたいのか2人に声をかける。
「ノエル、行くぞ。日が落ちる前に終わらせたいからな……蛇は夜行性のもいるし、見つけやすいか?」
「い、いやですよ。速く終わらせて帰りましょうよ。皆さん、待っていますし」
「そう思うなら、変な事を言うな」
彼女の言葉を無視してジークは歩き始めると巨大蛇の発見のためには日が落ちた方が良いのかもと言う。
その言葉にノエルは声を上げるとアノスは速く歩けと言いたいのか、ノエルの背中を押す。
ノエルはアノスの声に小さく頷くと駆け足でジークに追いつき、アノスは2人の後を追いかける。
「……迷ってないのだろうな」
「迷うまで歩いてない」
「なら、何で道を選んでいるんだ?」
しばらく歩くと日が落ちてきている事もあり、真っ暗な個所もあるためかアノスが声を漏らす。
ジークは時々、立ち止まるもののすぐに歩き出しており、その様子がアノスには迷っているように思えるようであるがジークは心配ないとため息を吐く。
アノスは道を選んでいる根拠を示せと言う。
「足跡、先に進んで行ったんだ。それも少し前にな。追跡を心配するような事でもないし、そのままだから誰でもわかる」
「……誰でも?」
「良いから行くぞ。暗くもなってきているから、見つけにくいし、時間もないんだ」
ジークはくだらない事を言うなと言いたいのかため息を吐くと進行先の地面を指差した。
ノエルとアノスは言われて前に出て地面を探すものの、何も見つからないようで首を傾げるとジークは時間の都合があるからと2人を急かす。
彼の言葉にノエルは頷くがアノスは自分が見つけられないものをジークが見つけるのが悔しいようでしかめっ面をしている。
「……面倒だ」
「ジークさん、あれですよ。向上心があるって事ですよ」
「そう思いたいけどな……見えたな」
アノスの表情にジークはため息を吐くとノエルはアノスをフォローしようとする。
アノスに向上心がある事は理解しているため、ジークは苦笑いを浮かべた。
その時、彼の視線の先には人影が映ったようで声を漏らす。
ジークに言われてノエルとアノスはジークの視線の先を見るが2人の目にはまだ人影は見えないようで首を傾げる。
「……とりあえず、行かないか? 目撃情報も聞きたいし」
「そうですね」
「……アノス? お前がどうしてフォルムにいる?」
2人の様子にジークは小さく肩を落とすと合流しようと言う。
ノエルとアノスが頷き、3人で歩き出そうとした時、相手もジーク達に気が付いたようで男性がこちらに向かって歩いてくる。
向かってきた男性はアノスの叔父であるオクスであり、久しぶりに見る甥の顔に驚きの声を上げた。
「叔父上こそ、なぜ、フォルムに? ……お前達、何を企んでいる?」
「ノエル、言ってなかったか?」
「えーと、わたしは言った記憶はないです。カインさんかシュミット様、ラース様辺りが教えていたものだと」
オクスの顔にアノスは驚きの声を上げた後、ジークとノエルへと疑いの視線を向ける。
2人の驚きようにジークとノエルは顔を見合わせると困ったように笑った。