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勇者の息子と魔王の娘?  作者: まあ
ジーク=フィリス
733/953

第733話

「……なんで、こいつがくるのよ?」


「ミレットさん、説明してくれてないんですか?」


「しましたけど、文句をぶつける相手はジークかカインが良いと判断したんじゃないでしょうか? さっきまでは静かでしたよ」


ハイム周辺国の情報を話し終えたため、ジーク達はアノスを連れてフォルムに戻ったのだがフィーナはアノスの顔を見るなり、威嚇するように言う。

彼女の様子にジークは大きく肩を落とすとミレットは苦笑いを浮かべた。


「……文句をぶつけられても困るんだけどね。話は夕飯の時にしようと思うからまだ時間もあるから、ソファーにでも座ってゆっくりしていてよ」


「ゆっくりできる状況には見えないな……ミレットさん、ノエルは? キッチンにいるんですか? 夕飯の準備が忙しいなら手伝いますけど」


「ノエルにはセスさんとオクスさんに今日の事を話しに行って貰っています。2人ともこれでも飲んで落ち着いてください。お茶菓子も用意しましたから」


カインは小さくため息を吐くとフィーナの事は気にしなくて良いと言うが、2人は睨み合いを続けている。

2人の様子にジークはため息を吐くとノエルがいない事に気づき、首を捻った。

ミレットは他で仕事をしている2人への伝言を頼んだと言うと温かい紅茶を置き、落ち着くように言う。

フィーナとアノスは視線をそらしたら負けだと思っているようでミレットの言葉に返事をする事無く、睨み合いを続けており、その姿にミレットは困ったように笑った。


「……カルディナ様との決着がついたと思ったら今度はこっちか? アノス、時間もあるみたいだから、フォルムの街並みでも見てくるか? イオリア家は領地も持っているんだろ。役に立つ事もあるかも知れないぞ」


「……」


「ちょっと行ってくる。カイン、フィーナは任せるぞ」


ジークは無理やりでも2人を引き離そうと思ったようでアノスにフォルムを案内しようとする。

しかし、アノスはフィーナとの睨み合いが忙しいようで返事はなく、その姿にジークは大きく肩を落とすとアノスの首根っこをつかんで屋敷を出て行ってしまう。

アノスは突然の事で声を荒げるがジークは聞く気などなく、彼を引きずって行き、フィーナは目の前からアノスが消えてしまったため、怒りの矛先を見つけられずにジークとアノスを追いかけようとするが、すぐにクーが彼女の前に出て動きを止める。


「ジークも強引ですね。そして、クーちゃんも良いタイミングです。偉いですよ」


「クー」


目の前のクーを振り払う事も出来なかったフィーナは不機嫌そうな表情をしながらも動きを止めた。

彼女の様子にミレットはクーを誉めると紅茶のお供に用意していたお菓子をクーの前に差し出し、クーはご褒美だと思ったようで嬉しそうに頬張る。


「クーがいてくれて助かったね。フィーナも意味があってアノスを連れてきたんだから、おかしなケンカを売らない。わざわざ、敵を作る必要はないだろ」


「意味があるって、あのバカに何かを考える事なんてできるの? それに敵を作る事に関して言えば、あんたにだけは言われたくないわ」


「……アノスもフィーナに言われたら終わりだね」


お茶菓子を頬張っているクーの頭をカインはなでるとフィーナに落ち着くように言う。

フィーナは少しでも怒りを抑えようとしているのか、ミレットの淹れてくれた紅茶を一気に飲み干すが怒りが治まる事はなくカインを睨み付ける。

感情的に動くのはアノスだけではなく、フィーナも同類だと言いたいようで席に座るが自分への非難は耳に入っていないと言いたげに紅茶に口をつけた。


「それで、何で、あんなヤツを連れてきたのよ?」


「アノスにフォルムを見て貰おうと思っただけだよ。形は違うけど人族と魔族が共存している場所だからね。魔族への偏見もそれほど持ってないみたいだしね」


「あの自分勝手なバカが何かを感じるとは思えないわ。それにどう見たって、あいつは魔族との共存なんて考えられないって顔をしているじゃない。危険よ」


フィーナは勢いよくテーブルを叩きつけるとカインを怒鳴りつける。

カインはアノスを味方に引き込む気のため、現状を見て貰うためだと言うとお茶菓子に手を伸ばす。

フィーナは反対だと言いたいようでカインの胸ぐらをつかもうとするが、カインはフィーナの手首を捕まえて手首を締付ける。


「……自分勝手に相手を過小評価しない。自分が相手を正当に評価できないから、相手も自分の事を正当に評価しないんだ」


「カインの言う事はもっともですね。フィーナはもう少し冷静になる事を覚えた方が良いと思います」


「わ、わかったから、1度、手を放しなさい。い、痛いわよ!?」


手首に走る痛みにフィーナは顔を歪めるがカインは手を緩める事無くため息を吐くとフィーナの欠点を言い、ミレットは席に着くと彼の言葉に大きく頷く。

カインの言葉には素直に頷けないもの、手首の痛みとミレットの助け舟にフィーナは顔を痛みでゆがめたまま小さく頷いた。

その様子にカインは彼女の手を放すとフィーナは不機嫌そうな表情をして、席に着き、クーはフィーナを簡単に動かさないためか彼女の膝の上に降りる。


「……これは逃げ道がつぶれた感じかな?」


「ですね。フィーナは我慢する事を覚えた方が良いのでちょうど良い機会ですね」


「クー、ちょっと降りてくれない? なんか、イヤな予感がするわ」


いつもは難しい話や礼儀作法などの話になるとフィーナは逃げ出すため、これを良い機会だと思ったようで口元を緩ませた。

同じ事をミレットも思ったようで大きく頷き、2人の様子にイヤな予感がしたようで顔を引きつらせて逃げ出そうとするが、クーがいるため逃げ出す事はできない。


「それじゃあ、せっかくの機会だから、フィーナの普段の態度についてお説教するよ」


「しなくて良いわよ!?」


「感情論に巻き込まれたら、巻き込まれた方が大変だからね」


カインは楽しそうに笑うとフィーナは背中に寒気を感じたようでクーを膝の上から下ろそうとするが、クーは必死に彼女の膝にしがみつく。


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