第730話
「……頭がパンクしそうです」
「フィアナは元々、頭のできが良いんだから、大丈夫だろ……俺は今、バカだからと言う理由でこの話を聞かずに済んだフィーナが羨ましい」
「一気にやったからね。長い時間をかけて聞くともう少し楽だったかな」
カインの周辺国や内乱を起こしそうな貴族、有力者の話を聞き終えたジークとフィアナは多くの情報を詰め込んだせいか処理しきれないようで頭を押さえる。
その様子にカインは無理をさせたのは自覚があるようで苦笑いを浮かべると氷から解放されて途中から話に加わっていたカルディナはジークをあざ笑う。
「……そう思うなら、無理に詰め込めさせるな」
「そうも言ってはいられないから、話をしているんだ」
「それはわかっているけど……」
ジークはカルディナの態度にムッとしながらも彼女に当たっては面倒な事になるため、カインへと矛先を向ける。
その視線にカインは小さくため息を吐くとシュミットがカインの擁護に回り、ジークは感情を抑え込もうと乱暴に頭をかいた。
「ワームがこの状況だからね。俺やジークがシュミット様の手伝いに来る事もあるだろ? その時に俺とお前が一緒とは限らない。その時はジークの判断で動いて貰う時だってあるんだ。全部1人でやれなんて言わないけど、何かを担って貰わないといけないんだからね」
「……できるかどうかはわからないけど、その辺は理解しているつもりだ」
「これはジークだけに言う事じゃないけどね」
ジークは自信なさげに答えるとカインは苦笑いを浮かべた後、アノス、カルディナ、フィアナへと視線を向ける。
その視線には各々、国が変わり始めた時に責任がかかってくると言う意味が込められており、アノスとカルディナは次代の王であるエルトを補佐する気持ちでいるためか大きく頷く。
しかし、フィアナだけは冒険者と言う事もあるのか、頷けずにいる。
「フィアナは良く分かっていないかな?」
「えーと、いろいろと大変な事も理解しています。ですけど、想像がつかないと言うか……ジークさんもエルア家の血を引いているわけですし、平民って私だけだから特にそう思うんですかね?」
「エルト様の考えは魔族との共存を解いているが簡単に言えば能力があれば種族に関係なく、能力を買うと言う事だ。想像がつかないと言うのなら、私が宮廷魔術師に推薦しても良い」
彼女の様子にカインが気付くとフィアナは苦笑いを浮かべて平民で立場もないため、実感がないと言う。
その言葉にフィアナの能力を高く買っているシュミットは彼女を宮廷魔術師に推薦する事を考え始める。
「……これが冒険者か?」
「上手くやりましたわね」
「ま、待ってください。いきなり、何を言いだすんですか!?」
彼の言葉にアノスは眉間にしわを寄せ、カルディナはフィアナと仕事をしていないためか上手く取り入ったと言いたいのか舌打ちをする。
フィアナはシュミットがなぜ、自分を宮廷魔術師に推すのかわからずに声を上げた。
「シュミット様、それはどうかと思います」
「反対か? カインはフィアナの実力を買っていると思ったのだが」
「そ、そうですよ。少し依頼を受けせていただきましたけど、私の実力ではなくてカインさんやジークさんがいたからで有って私の実力ではありません」
カインは小さくため息を吐くとシュミットに何かを進言しようとするが、シュミットは反対だと思ったようで不服そうな表情で聞き返す。
フィアナは味方ができたと考えたようでまくし立てるように自分には宮廷魔術師になるような実力はないと主張し、この話をなかったと言う方向に持って行こうする。
「フィアナは新設される魔導騎士隊の初期メンバーにしたいとエルト様に推薦していますので、宮廷魔術師は頭の固い老害も多いのでフィアナにはきついと思いますし、シュミット様もご存じだと思いますが魔導騎士隊は家名を問わず、才ある者達を集めようと思っていますのでフィアナは適材だと思います」
「確かにな。カインからの推薦があるなら問題なく合格すると思うが私からもエルト様に推薦しておこう」
「ど、どうして、そうなるんですか!? それに新設部隊って何ですか!?」
カインがシュミットの意見に反対したのはフィアナの所属部署に不満があったようであり、エルトの右腕として現在は彼の政務にも携わっているシュミットは納得できたようで大きく頷いた。
2人の会話には聞きなれない部隊の名前がある事や完全に自分の意志を無視されている事もあり、フィアナは声を上げるがジークは言っても無駄だと思っているようで生温かい視線を彼女に向けて笑っている。
「ジークさん、笑ってないで助けてください!?」
「いや、俺が入っても助けになんかならないだろうからな。カインはやると言ったらやる。諦めろ」
「……エルト様もお兄様の推薦なら反対はしないでしょうからね」
フィアナは1人では勝てないと思ったようでジークに助けを求めるがジークが首を横に振り、カルディナはエルトのカインに寄せる信頼感は簡単に崩れない事を知っているためか、フィアナの魔導騎士隊入隊が確定したと思ったようで小さく頷く。
「魔導騎士隊とはエルト様は新たな騎士隊を作るつもりなのか?」
「そうだね。今の軍は騎士と宮廷魔術師はあまり仲が良くないからね。騎士は魔術師を前線で戦わないと言ってバカにしているし、宮廷魔術師は騎士を頭も使えないバカと言っている。このままじゃ有事の時には連携も取れないだろうからね。2つの良いところを兼ねた部隊を作るのも必要かな? と思ってね」
「……この2人はその縮図だな」
アノスは騎士がエルトから信頼されていないのかと思ったようで小さく声を漏らす。
カインは小さく頷くと今の国軍の状況を説明するとジークは先ほどとアノスとカルディナの姿を思い出したようで大きく肩を落とした。
「この2人だけではない。カインの言った通り、問題は多くて困っている。本来なら騎士と宮廷魔術師が和解してくれれば問題はないのだがそうもいかないのでな」
「おっさんやレインの親父さんも宮廷魔術師を嫌っているのか? そんな風には見えなかったけど」
「聖騎士であるファクト家とオズフィム家は昔から有事の時にそんな事を言っていられないと理解して和解しようとしてくれていたんだけどね……宮廷魔術師側が頑なでね」
シュミットは問題が多いと眉間に深いしわを寄せるが、ジークは状況がわからないためか首を捻る。
カインは少しだけ困ったように笑うとどちらかと言えば宮廷魔術師に問題があると言い、彼の様子にカインが宮廷魔術師を老害と言うだけの理由があると思ったようでジークとフィアナは眉間にしわを寄せた。