第727話
「それで、任せられているお前はどれだけ情報をつかんでいるんだ?」
「聞きたい?」
「……聞かせるために集めたんだろ」
ジークは眉間にしわを寄せながら、カインの持っているザガードの話を聞く。
その質問にカインは小さく口元を緩めて聞き返し、彼の態度にジークの眉間のしわはさらに深くなる。
「聞かなくて良いなら、聞かなくても」
「……フィアナももう覚悟を決めてくれ。話が進まない」
「で、ですけど」
フィアナは未だに自分が踏み入って良い問題ではないと思いたいようで遠慮がちに手を上げるが、ジークはこのままではいつまで経っても終わらないと思ったようで納得するように強く言う。
それでも、フィアナは納得できないようで涙目になるが、すでに彼女に拒否権などないのは明白であり、カインは楽しそうに笑い、シュミットは申し訳なさそうに首を横に振った。
「だいたい、時間がないのは俺だけじゃないだろ。あんまり、ワームでバカをしているとフォルムに戻った後、セスさんに俺が理不尽に怒られる」
「ジーク、お前も大変だな」
「……最近、どこかでシュミット様に共感している自分がいるんだ」
ジークはフィアナを無視して話を戻そうとセスの名前を出すとシュミットから同情される。
ジークとシュミットはお互いにカインやエルトに振り回されているためか、共感する部分が多いようで顔を見合わせた後、大きく肩を落とした。
「酷い言われようだね」
「カインさんは秘密主義過ぎるんだと思うんです」
「一応、他人に聞かせる事の出来る情報かどうか精査するのが仕事だからね。なんでも教えて、聞いた人が命を狙われる事になっても困るからね」
2人の様子にカインは小さくため息を吐くともう何を言っても無駄と諦めたようで反撃の意味を込めたのかフィアナがカインを非難するように言う。
彼女の言葉にカインは少しだけ困ったように笑うと周囲の人間の安全を考えての行動だと話す。
しかし、カインの言葉は信用ないのかジークとフィアナは彼に疑いの視線を向け、2人の視線にカインは納得がいかないと言いたいのか小さく肩を落とす。
「カイン、このままでは終わらない。今度こそ、本題に移ってくれ。あまり時間もかけてはいられない」
「はい。わかりました」
「……今更な気がするんだけど」
シュミットはジーク達を呼び寄せてからかなりの時間が過ぎた事に気が付いたようで念を押してカインに指示を出した。
カインは仰々しく頭を下げるが、ジークはわざとらしいとしか思えないようで眉間にしわを寄せている。
「今のザガードは第2王子だった『クラスト=ザガード』が王位を継いでいる」
「そいつがリュミナ様をザガードから追い出した? ……あれ? 第2王子」
「あの普通は1番上のお兄さんが継ぐんじゃないんですか?」
ジークの様子など気にする事無く、カインはザガードの国王の名前を伝える。
ジークとフィアナは話を聞き、小さく頷くがすぐに1つの疑問が頭をよぎり、首を捻った。
「良いところに気が付いたね。前国王が亡くなった後、本来は第1王子が王位を継ぐはずだったんだよ。だけど、そうはならなかった」
「……第1王子を殺して王位を継いだって事か?」
「そうだね。前国王も病死なんだけど、力づくで王位を継いだって事は前国王の死にもクラスト王が関与している可能性も高い事は容易に想像がつくね」
ザガードの王位継承は血生臭い物のようでカインの話にジークとシュミットは眉間にしわを寄せ、フィアナは顔を青くしている。
「あ、あの、リュミナ様は第3王女でしたよね? お姉さん2人はどうしたんですか?」
「現状は行方不明。王位継承権は男児の方が高いから見逃して貰えていると信じたいね」
「そ、そうですか……リュミナ様、フォルムまで逃げてこられて良かったです」
フィアナはザガード国王の恐怖に震えながらも、少しでも恐怖を小さくしようとリュミナの姉妹について聞く。
カインも調査途中のようで首を横に振るとフィアナはリュミナだけでも助かってくれた事にほっとしたようで胸をなで下ろす。
「まったくだ。あの時にカインがフォルムの領主でなければどうなっていたかわからないな……計算ではないだろうな?」
「流石にそこまで計算はしきれませんね。話を戻します」
リュミナ達がフォルムに逃げてきたのは偶然であり、カインでなければ彼女を保護する事ができなかったと言うが偶然にしては都合が良すぎるとも思ったようで眉間にしわを寄せた。
カインは困ったように笑うがすぐに表情を引き締める。
その表情にジークとフィアナはまだ深刻な話が続くと思ったようで体勢を整えるとカインへと視線を向け直す。
「力づくで王位を継ぐとところどころに綻びが出てくるんだけど、ザガードの綻びは思いのほか少ない」
「やっぱり、王様が代わると国の中って荒れるのか?」
「そうだな。私も体験した事はないが、記録では第1王位継承者が継いだとしても、新たな政策が合わない事もある。後は他の王位継承者を推している者が居れば反発が生まれるからな」
ザガードの統治はカインが予想していたものより、順調のようで難しい表情をしている。
カインの様子にジークはまだ王位継承と言う時に立ち会った事が無いため、首を捻るとシュミットは書物から得た知識ではあると断った後にジークの疑問に答えた。
「……おかしいですよね。普通はそんな人が王様になったら、国は安定しないですよね?」
「そうだね。ザガードのすべてを調査しているわけじゃないから、何とも言えないけど用意周到にすべてを計画していたか、もしくは反発した者すべてを処刑したかのどちらかだね。後者なら自滅するだろうけど前者だとしたら本当に厄介だと思うよ」
「……魔族の共存だとか言う前に関係なく戦争仕掛けられそうだな」
カインはクラスト王の本性がわからないようで眉間に深いしわを寄せている。
ジークは人族と魔族の軋轢からの戦争以前に人族同士の醜い戦争が起きるのではないかと思ったようでどうして良いのかわからずに乱暴に頭をかいた。