第725話
「……カイン、ひどく罪悪感を覚えるんだけど」
「ジークが罪悪感を持とうが、フィアナが自覚を持ってなかろうが関係ないね」
「戦争や内乱が起きた時に何もしないで家族や友人が殺されても良いなら、そうやって泣いて居なさい」
フィアナの表情にジークは困ったように頭をかく。
カインは必要な事だと割り切っているためか首を横に振るとカルディナはフィアナの考えが甘いと切り捨てる。
「それは……」
「それをやるのは騎士や兵士の仕事だと言いたいのですか? 笑わせますわ。戦争になれば騎士や兵士だって絶対的に数が足りなくなるのです。あなたはお兄様が認めるくらいの魔術師なのでしょう。それなのに何もしないつもりですか?」
「……言いすぎじゃないか? どうにかしろよ」
カルディナに突き付けられた言葉にフィアナは顔を伏せてしまう。
その様子にカルディナは呆れたようにため息を吐くとフィアナを見下すように鼻で笑った。
完全にフィアナはカルディナに飲まれており、身体を震わせている。
彼女の様子にジークは助けた方が良いと思ったようだが、自分ではカルディナが止まらないと考えてカインに助けを求めるような視線を向けた。
「良い事じゃないか。それにフィアナはその時になった時に何もしないような娘じゃないからね」
「それはわかっているけど……と言うか、カルディナ様って騎士とか兵士は無駄だって言ってなかったか?」
「当然ですわ。騎士などただの無駄飯ぐらいですわ。戦争が起きてからではないと動けないのですから、戦争を回避するために動く人間の比率を上げるべきですわ」
カインはフィアナの返事を信じているようでジークに少し待つように言う。
ジークはそれでも放っておけないようで頭をかきながら、フィアナを助ける方法を探し始めると以前にカルディナが言っていた事を思い出す。
カルディナはジークの言葉に反応するようにフィアナから視線をジークに移すと騎士を削減するべきだと叫ぶ。
「……フィアナ相手に言っている事と違わないか?」
「違いませんわ。実際、騎士だと言っている脳筋どもの動きは鈍いですし、名門だと言って権力を見せるために無駄なお金を浪費していますわ。それなら、臨時的に優秀な冒険者を雇った方が防衛力としても有能ですわ」
「何を言っている。冒険者など国を守る気概もないだろう。忠誠心などないのだ。有事の時には逃げ出すだけだ」
ジークはカルディナの言葉に矛盾を感じたようで首を傾げるが、フィアナはすぐに否定する。
カルディナの勢いにジークは頷きかけるが、アノスがカルディナの言葉は間違っていると否定し、再び、2人は睨み合いを始め出す。
「お互いの言い分もわかるのだが……話が進まない」
「本当にこの2人を一緒にしたら、ダメなんじゃないのか?」
「とりあえず、落ち着く。話が進まないからね。それに2人の考えはどちらも間違っているとは言えないからね」
アノスとカルディナの意見は2人なりに国の行く末を考えている物であり、シュミットはありがたいと思う物の本題に移れない事に大きく肩を落とした。
困り顔のシュミットの様子にジークは眉間にしわを寄せるものの、2人を止める手立ては見つからないようで何もする事はできない。
カインもこのままではダメだと思ったようでぱんぱんと手を叩き、こちらへと視線を向けようとするがお互いに視線をずらしては負けだと思っているようでカインの声に2人は微動だにしない。
「……ジーク、一先ず、頭を冷やさせようか?」
「わかった……」
「カイン、ジーク、2人を凍らせては呼び寄せた意味がないのではないか?」
カインは面倒だと思ったようでジークの肩を叩き、ジークは冷気の魔導銃の抜くと迷う事なく、アノスとカルディナを撃ち抜いた。
冷気の魔導銃は2人を氷漬けにして行き、その様子にシュミットは眉間にしわを寄せる。
「周辺国との関係はアノスとカルディナなら、ジークとフィアナよりは知っているでしょうし、氷が解ける頃には頭も冷えているでしょう」
「確かにそうかも知れないが……」
「とりあえず、始めないか? 俺達もヒマじゃないんだ。ここ数日で使った薬の調合もしないといけないからな」
カインはどこかでアノスとカルディナを呼び寄せたのを後悔しているようで小さくため息を吐くと話を進めようと言う。
シュミットは同意したいようだが、2人が次代を担って行く人物だとも考えているため、2人を抜かして話して良いか結論が出ないようで眉間にしわを寄せる。
彼の様子にジークは自分の都合も考えて欲しいと言い、その言葉はシュミットにとっては都合が良かったようで小さく頷いた。
「フィアナ、始めるよ」
「はい……」
「……大丈夫か?」
シュミットから返事を貰えたため、フィアナに声をかけるカインだが、フィアナはカルディナに言われた事のダメージが抜けていないのか返事は小さい。
フィアナの様子にジークは眉間にしわを寄せるとクーは彼女を励まそうと思ったのか、ジークの膝の上からフィアナの膝の上に移動する。
「クーちゃん、ありがとうございます」
「カルディナもカインも言っていたが、戦争や内乱を起こさないためにも協力をして欲しいのだ。協力してくれるな?」
「……わかっています。でも」
フィアナは不安を拭い去るためにクーを抱きしめる。
シュミットはフィアナを見ながら、彼女の不安を理解した上で協力して欲しいと頭を下げた。
彼の様子にフィアナは驚きながらも、まだ決心はついていないようで自信なさげに頷く。
「考えないといけない事だけど、そこまで気を張らなくて良いよ。まだ、先の事だろうからね。きっと」
「はい……」
「……だから、俺に言われても困るんだって」
カインはフィアナにもう少し力を抜くように言うも内乱を起こしそうな人間が身近にいるためか、わざとらしくジークへと視線を向ける。
フィアナは出身のシギル村がワームと近い事もあるため、ワームで火の手が上がると村が巻き込まれる可能性がある事は予想がついており、恨めしそうな視線をジークに向けた。
2人からの視線にジークは理不尽な物を感じたようで大きく肩を落とす。