第719話
「ただいま帰りました」
「お帰りなさい。ジークくん、問題は解決したんですか?」
フォルムに戻ったジークはノエルとフィーナをカインの屋敷に置いた後、テッドの診療所を訪れる。
ジークの顔を見るなり、クーはジークに飛びつき、その様子にミレットとテッドは顔をほころばせた。
「まだですね。ちょっと、わがまま娘を落ち着かせるためにクーの力が必要になったんで」
「わがまま娘? ……カルディナ様ですか?」
「そうです……クー、言いたい事はわかるけど嫌そうな顔をしないでくれ」
ジークは苦笑いを浮かべると自分がフォルムに戻ってきた理由を簡単に説明するとミレットは何があったか察しがついたようで困ったように笑う。
クーはカルディナの名前に顔をしかめ、ジークは苦笑いを浮かべたまま、彼の頭をなでる。
「それではまだ、フォルムに戻ってくるのは遅くなると言う事でしょうか?」
「いや、今日中には戻ってくると思います。ノエルとフィーナはいろいろあったんで、屋敷に置いてきました」
「そうですか。それなら、久しぶりに大勢で夕飯ですね。腕がなりますね」
ミレットはまだジーク達の方は時間がかかると判断したようで小さく頷く。
彼女の言葉をジークは否定するとミレットは楽しそうに笑う。
「それなんですけど、2人分追加で」
「2人分? 私の知っている人ですか?」
「1人はフィアナです。もう1人は……イオリア家の嫡男」
ジークは言い難そうにお客さんを呼ぶと言う。
アノスの名前は少し言い難いようでジークは困ったように頭をかく。
彼の名前にミレットは何かあるのか少し考えるようなそぶりを見せるがすぐに柔和な笑みを浮かべる。
「……何か企んでいるんですか?」
「いえ、イオリア家のご嫡男が来るのでしたら、オクスさんもお呼びしてはどうかと思いまして」
「叔父と甥でしたね。それは良い事ですね」
ミレットの笑顔にジークは何か感じたのか眉間にしわを寄せると彼女は笑顔のまま、オクスも夕飯に呼んでみようと言う。
テッドは2人の関係を思い出したようでうんうんと頷く。
「……大丈夫ですかね?」
「何かあるんですか?」
「いや、直情的な2人だからおかしな方向に進んだら面倒だなと思って」
しかし、ジークには2人を合わせるメリットは見つからないようで頭をかいている。
「大丈夫ですよ。そうなると今の食材では足りませんね。テッド先生、申し訳ありませんが今日は先に上がらせて貰ってもよろしいでしょうか?」
「それはかまいませんよ。元々、魔族の血が入っている方達が多い地ですから、病気もケガも少ないですしね。ほとんど、寄合所のような物ですから」
「……それを言ったら、診療所の意味がないんじゃ」
ミレットは診療所の早退を願い出るとテッドはすぐに許可を出す。
ジークも診療所の状況は理解している物の、何か納得がいかない物を感じたようで眉間にしわを寄せるとクーはジークを励ましたいのか彼の顔を覗き込む。
クーの気づかいにジークは彼の鼻先を指でなでるとクーは気持ちよさそうにのどを鳴らす。
「ジーク、ワームに戻る前にお買い物に付き合って貰ってもよろしいでしょうか?」
「それくらいなら、大丈夫ですよね?」
「心配ですか?」
ミレットは荷物をまとめると1人で買い物をするのは大変だと判断したようでジークに荷物持ちを頼む。
ジークは頷くものの、カルディナがワームでわがままを言っていないか心配になったようで小さくため息を吐く。
彼の様子にミレットは小さく口元を緩ませるとジークはそんな事はないと言いたいのか首を横に振るがその様子からジークが心配しているのは誰の目から見てもわかるようでテッドは表情を緩ませる。
「……別に心配しているわけじゃ」
「なんだかんだ言っても、ジークはお兄ちゃんですね」
「絶対に違います」
ミレットとテッドの生温かい視線にジークは視線をそらす。
彼の反応にミレットはくすくすと笑うとジークは否定するが、すでにミレットとテッドの中では答えは確定しているためかジークの反応に向けられるのは生温かい視線のままである。
「とりあえず、買い物に行きましょう。ワームで何かあってもいけませんし」
「そうですね。それではテッド先生、失礼します」
ジークはこの空気に耐え切れなくなったようでミレットを急かす。
ミレットは頷くとテッドで頭を下げるとジークとクーとともに診療所を後にする。
「そうですか。ギムレット様は何も仕掛けてこなかったんですか?」
「そうですね。カインはそれが不気味だとも言っていました……」
「何かありましたか?」
買い物をしながらフォルムの街を歩く。
ジークはここ数日で起きた事を話す。
それは口には出さないが彼女を従姉として考えており、身内としての相談のように見える。
ミレットもそれをわかっているようで真剣に話を聞いており、ジークの心配事を聞く。
「いや、何もないから余計に。俺は爺さんに会った事もないから、何を考えているかもわかりませんし」
「確かにそうですね……それなら、会ってみます?」
「……どうして、そうなるんですか?」
ジークは直接対峙した事が無いためか、ギムレットの思惑がわからないようで首を捻っている。
彼の反応にミレットはギムレットの面会を提案し、突然の事にジークは眉間にしわを寄せた。
「必要なら敵陣にも乗り込まないといけませんから、それにノエルのお父さんにノエルをお嫁さんにくださいって言う時の重圧に比べれば何ともないですよね?」
「……それとこれとは全く別問題な気がするんですけど」
「身内の説得と考えれば同じじゃないですか? それに向き合わないといけない問題ですから、私もジークもやっぱり、家族を失うのは寂しいですからね」
「そうですね……会うかどうかは別としてやれるだけの事はしましょう」
ミレットは些細な事だと笑うが、ジークは問題が全然関係ないとため息を吐く。
ギムレットの説得はジークだけではなく、ミレットにとっても大きな問題のようで少しだけ寂しそうに笑う。
その表情にジークはミレットを励ましたいのか笑顔を見せて言い、ミレットは大きく頷いた。