第715話
「買い物ね。さっきは納得したけど、やっぱり、嘘くさい……」
「ジークさん、どうかしたんですか? バーニアさんのお店に行かせたかった時みたいに聞いた事のないものばかりなんですか?」
シュミットの屋敷を出てから、ジークはカインから渡された買い物のメモを見ながら首を捻る。
ノエルは首を捻るとジークの持っているメモを覗き込む。
彼女はジークの様子から以前にカインにだまし討ちを食らった時の事を思い出したようで困ったように笑う。
「いや、買い物自体は珍しい物じゃない。フォルムでもジオスでも普通に売っているものばかりなんだけど、ただ……内容がバカみたいに細かい」
「本当ですね」
「値段まで指定されていて、これ以上だと買ってこなくて良いって……ほとんど、フォルムの方が割安じゃないか。領地運営にムダ金はないんじゃなかったのかよ」
カインのメモには購入商品だけではなく、値段までも指定がされている。
それは普段、フォルムで購入している金額に比べて高く、ジークは乱暴に頭をかいた。
「フォルムより、安いものがあるんですかね?」
「安ければ良いってわけでもないんだけどな。品質も重要なものもあるし」
「それなら、安くて良いお店から探さないといけないんですね……ジークさん、何かあるんですか?」
ノエルは安く品質の良いものを見つけようと気合を入れるが、ジークはメモを見ながらまだ考え込んでいる。
彼の様子にノエルはジークの顔を覗き込んだ。
「……カインの事だから、何か裏がある気がするんだ」
「裏ですか?」
「いや、考え過ぎかな。単純に時間つぶしかも知れないし、デートして来いとも言っていたからな」
ジークは眉間にしわを寄せて、このメモにあるカインの考えを読み解こうとする。
ノエルは買い物以上の意味はないと思っているようでジークの言葉の意味がわからずに首を傾げており、彼女の様子にジークは苦笑いを浮かべるとメモをしまう。
「デ、デート?」
「最近、ゆっくりするヒマがなかったから、ご褒美って感じだろ。それより……今更だけど、あんまり、ワームで買い物しないから、安い店とかわからないよな? 冒険者の店で聞いてみるか?」
「そうですね。ソーマさんとかセレーネさんなら知っているかも知れません。それにワームで何も起きていないかも聞いてみたいですし」
デートと聞き、ノエルは少し顔を赤くし、彼女の反応にジークは少しだけ気恥ずかしそうに笑うとノエルの手を握り、2人は歩き出す。
気分的にデートとなったわけだが、買い物を全くしないとなるとカインに何を言われるかわからないため、懇意にしている冒険者の店を目的地に決める。
「2人ともいないですね?」
「昼飯の前の時間だからな。あの酔っぱらい達の場合、まだ寝ている可能性が高いな。どうする。少し待ってみるか?」
「そうですね」
何事もなく、冒険者の店に付きホールに入るが、懇意にしている冒険者は見当たらない。
2人は少し待ってみようと思ったようでテーブル席に座り、飲み物を注文する。
「この店で酒を頼まないなんてどういうつもりだい?」
「……まだ時間的には朝ですからね」
「セレーネさん、おはようございます」
飲み物が届き、2人が一息入れた時、欠伸をしたセレーネがホールに降りてくる。
彼女は2人を見つけると同じテーブル席に腰を下ろし、店員に酒を注文するとジークに絡む。
「おはよう。ノエル、それでこんなところに何の用? ソーマに用事?」
「ソーマでもセレーネさんでも良いですよ。ちょっと、教えて欲しい事があったんです」
「教えて欲しい事? ……大人の色香? それともマンネリ感があるから、新しいプレイ?」
セレーネは注文した酒が待ち遠しいのか、カウンターへと視線を向けながら2人が店を訪れた理由を聞く。
ジークは頼みごとをしようと思ったと話すが本題に移る前にセレーネはジークとノエルの顔を交互に見て、からかうように笑う。
「そう言うのは良いです」
「つまんないね。それでどうかしたのかい? ワームに戻ってきているって事はそっちの方は上手く行ったんだろ?」
ノエルはセレーネの言葉に顔を真っ赤にしており、ジークは大きく肩を落とす。
ノエルの反応は好みだったようだが、ジークの反応が不満のようで口を尖らせた後、2人の成果を聞く。
「こっちは上出来って成果じゃないか? 被害は出てないし」
「魔族相手に被害なしね。それは上出来だね」
「元々、殺し合いをしに行ったわけじゃないからな」
流石に魔族と知り合いでしたと話すわけにも行かないため、ジークは苦笑いを浮かべる。
セレーネは充分すぎる成果を得てきたと思ったようで笑顔を見せるとジークは何とか誤魔化そうとしているのか飲み物に口をつけた。
ジークの様子にセレーネは何か感じたのか一瞬、視線を鋭くするがそれ以上の追及する事はない。
「それで聞きたい事って何だい?」
「いや、カインから買い物を頼まれたんだけど、あいつ、細かく値段指定までしていて、俺もノエルもワームはあまり知らないし」
「知らないって、あんた達は領主様やエルア家、オズフィム家両当主のお気に入りじゃない。何、ふざけた事を言っているんだい」
セレーネの前に酒が入ったカップが置かれた。
その酒をセレーネは半分ほど一気に飲み、店員におかわりを頼んだ後、ジークとノエルがこの場所を訪れた理由を聞く。
ジークはセレーネを訪ねた理由を話すとカインのメモをセレーネの前に置く。
話に納得できないのかセレーネは首を傾げるとメモに何かあると思ったようでメモを覗き込むが、メモには特に変わった事は書かれていない。
「その言われ方だと誤解を生みそうだけどな。あまり、ワームで買い物ってしないんだよ。ここで金を使うとフォルムの金がまわらないってうるさいヤツがいるから」
「そう考えるとこのメモには裏がありそうだね。あいつの事だ。ただの買い物メモなわけがない。絶対に何かあるよ」
「そう思うよな……」
ジークはワームの街の事はあまり詳しくないと言うとセレーネもメモに何か意図があると思ったようで意図を読み取ろうと真剣な表情をする。