第714話
「私もヒマだから行ってくるわ」
「フィーナは残る」
「何でよ?」
ジークとノエルの後をフィーナは追いかけようとするがカインは彼女を引き止めた。
フィーナは意味がわからずに怪訝そうな顔をするがカインは考えがあるようで戻って来いと手招きをする。
その手招きにフィーナは警戒しながら、カインとの距離を縮めて行き、実妹の様子にカインは大きく肩を落とす。
「それで、何を企んでいるの?」
「強欲爺がジークに執着しているからね。ちょっと、ジークを目に見えるところに置いてみようかな? と思ってね」
「あんた、ふざけているの? それって囮って事じゃない……」
フィーナはカインと少し距離をあけると自分を引き止めた理由を聞く。
カインは1つ咳をするとギムレットにジークとの接触の機会を与えてみようと言い、フィーナはカインの言葉に眉間にしわを寄せた。
「そうなるね」
「何を考えているのよ? ジークとノエルに何かあったら、どうするつもり?」
「だから、待つ」
フィーナはカインを怒鳴りつけるとジークとノエルを追いかけようとするがカインの手が伸び、彼女の首根っこをつかむ。
「放しなさいよ!!」
「ノエルだけなら、ちょっとした事で知らない人について行きそうだけど、ジークもいるんだ。大丈夫だよ」
「……カイン、ノエルも子供ではないのですから、知らない人にはついて行かないでしょう」
カインを振り払おうと暴れるフィーナだが、カインは平然とした表情で彼女を押さえつける。
それでもフィーナは何とか2人を追いかけようと暴れており、カインは面倒になったのか彼女を扉とは反対方向に投げ飛ばし、彼女の不安を払しょくするように言う。
フィーナが投げ飛ばされた時の音でセスはフィーナとカインに視線を向けると説得の仕方に疑問を覚えたようで大きく肩を落とす。
「いや、迷子の子供を見つけて話を聞いている間にノエルも迷子になりそうだ」
「……否定できませんわ」
「だから、2人だと危ないって言っているでしょ。ノエルを甘く見たらダメよ。そこを退きなさい。どけないなら、私にも考えがあるわ」
セスの疑問をカインは真顔で返すとノエルの人の好さを知っているカルディナは眉間にしわを寄せた。
フィーナが心配しているのもジークではなくノエルであり、扉を塞ぐように立っているカインに向かい言うと腰の剣を抜こうとする。
「……フィーナ、カインにも考えがあるわけですし、剣を抜くのは止めましょう」
「セスさん、その性悪の味方する気?」
「それは俺とセスには愛があるからね」
考え足らずのフィーナの行動にセスは彼女をなだめようとするが、すでにフィーナの頭の中にはカインを叩き斬る事しかないようで鞘から剣を抜いてしまう。
彼女の様子にカイン達の様子を遠目で見ていた兵士達は騒ぎ始めるが、カインはフィーナの怒りを煽るようにセスを引き寄せて笑った。
「こんな時に何を言っているんですか!?」
「いや、言っておかないといけないかなと思ってさ」
「……その性悪の味方をするなら、セスさんも敵ね」
カインの突然の行動にセスは顔を真っ赤にするが、カインは彼女をからかいたくなったようで楽しそうに笑っている。
フィーナは完全にセスも敵と見なしたようで剣を構えると2人に向かって駆け出そうとするが、それを挫くように彼女の足にはロープが絡みついており、フィーナは勢いよく床に倒れ込む。
「何なのよ!?」
「フィーナの事だから、こういう事になると思って先に仕掛けさせて貰ったよ。まったく、もう少し考えて動いてくれないかな? レギアス様には強欲爺を説得できなかったけど、孫のジークなら少しでも希望が見えるかも知れないじゃないか。息子や娘より、孫が可愛いって言うじいさんやばあさんも世の中には多いだろ……あれかな。ジークとノエルに子供ができればおじさんとおばさんも帰ってくるかな?」
「……カイン、あなたは何を言っているんですか?」
ロープはカインの魔法の指揮下にあるようでフィーナの身体をつたい、彼女を縛り付けてしまう。
フィーナは縄に縛られても逃げ出そうと身体を必死に動かすがすでに脱出できない状況になっており、カインを睨み付けて叫ぶ。
彼女の行動などカインにはお見通しのため、魔法の準備をしていた事を明かすと可能性は低いがギムレットの説得も考えているようで今回の目的を話す。
その言葉にフィーナは少しだけ落ち着いたようで言葉を飲み込むが、話の途中でカインの話は横道にそれてしまい、セスは大きく肩を落とした。
「流石にジークとノエルに子供ってのは冗談だけどね。と言うか、子供が生まれたらセスが仕事しないでずっとかまってそうだからね」
「それは間違いなく、1日中、抱き締めていますわ」
「……お姉様、他人のお子さんより、まずはお兄様とお姉様のお子さんじゃないのですか?」
カインは冗談だと笑うと現状で赤ん坊がいるとセスが働かなくなってしまう可能性があるため、ため息を吐く。
セスも自覚はあるようで拳を握り締めて叫ぶとカルディナは他人の事より、自分達の事を考えてはどうかと肩を落として言う。
「わ、私とカインの赤ちゃん!?」
「……そろそろ、この話、やめにしようか。セスにはフォルムに戻って貰ってやって貰う事もあるし」
「そうですわね」
カルディナの言葉にセスは顔を真っ赤にしていろいろと近い未来を想像したようで身悶え始める。
彼女の様子にカインは困ったように苦笑いを浮かべて、話を終わらせようとするとカルディナは賛同したようで大きく頷いた。
「……いや、詳しく聞かせて貰おうか? 2人のなれそめでも、何でもな」
「アノス? フィ、フィアナ? さてと、俺はソーマやコッシュと打ち合わせをしてこないといけないから、ここは任せるよ」
「そんな事を言わずにコーラッド家の令嬢を貴様のような平民が射止めた時の事を聞かせてくれないか? 何かの参考になるかも知れないからな」
「自業自得ね……だけど、誰か助けてくれないかな?」
カインの思い通りに行かせたくないのか、先ほどまでフィアナに追い掛け回されていたアノスが彼の肩をつかむ。
何があったか振り返るカインの目には瞳を輝かせてセスとの事を聞きたがっているフィアナが映り、カインは彼女の様子に後ずさりするがアノスがそれを許さない。
珍しく押されているカインの様子にフィーナは少しだけ気分が晴れたようで笑顔を見せるが誰も自分のロープを解いてくれない事もあり、眉間にしわを寄せた。