第713話
「で、俺達は何でワームまで来たんだ?」
「どうしてだろうね」
しばらくするとカインとセスが戻ってきた。
2人が現れるとカルディナは大人しくなってしまい、セスは彼女にこれからフォルムに戻る事を伝えている。
その声がジークの耳に届き、カインにワームまで足を運んだ理由を聞くとカインは何かをとぼけるように笑う。
「……意味ないのかよ」
「意味はあるよ。きっとね」
「また何か企んでいるのね」
大きく肩を落とすジークの様子にカインは笑顔を見せたままであり、その笑顔にフィーナは嫌な予感がしているのか眉間にしわを寄せた。
「それなら、フォルムに戻るか?」
「そうしたいけど、ジーク、これを買ってきて」
「……買い物があるなら、お前らが話し合いをしている間に行かせろ」
カインの笑顔にジークも裏がある事には気づいているようだが、深く追求する事で面倒事には巻き込まれたいとは思わない。
そのため、フォルムに戻ろうと言うがカインは懐からメモ紙を取り出してジークにおつかいを頼む。
手渡されたメモを見て、ジークは時間を無駄に使わせるなと言いたいようで大きく肩を落とす。
「何を言っているんだい。ジークがいなかったら、何か起きた時にカルディナ様とアノスの手綱を引く人間がいないじゃないか」
「……騎士と兵士を解散させれば済んだ話だろ」
「強欲爺の手が回っている人間もいるかも知れないからね。簡単に解散なんかできるわけがないだろ」
カインは自分がいない間の面倒事をジークに押し付けたかったようであり、ジークはその言葉で自分達が見張り番だと理解したようで文句を言う。
ジークの言い分はもっとものようにも聞こえたようでフィーナはカインを睨み付けるがカインには彼の考えがあり、まだまだ考えが足りないと言いたいのかため息を吐く。
「疑い深いわね。他人を信じられなくなると人間として終わりよ」
「フィーナにだけは言われたくないね。それに今回の場合は報告内容が特殊だからね。レギアス様やラース様だけではなく、今回の件に同行した者達全員から報告を受けたいんだよ」
「それって、魔族についてどう思ったかと言う事でしょうか?」
フィーナはアノス以外の騎士や兵士とは集落で交友を深めたようであり、カインを非難するように言う。
その言葉にカインはもう1度、ため息を吐くとシュミットが責任者の2人以外にも兵士達から聞き取りを行いたいと説明する。
カインの説明にフィアナはシュミットの目的を理解したようで遠慮がちに手を上げた。
「そう言う事だね。ジーク、ノエル、フィーナの3人は必要ないけど、アノスとフィアナはもう少し時間がかかるよ」
「……そうか」
「あの、アノスさんは……」
カインは頷くとシュミットへの報告にアノスとフィアナは時間が取られると言い、アノスは小さく頷く。
フィアナは魔族との共存に好感触を見せてくれたがアノスには話を聞けなかった事もあり、ノエルは不安そうな表情で彼に尋ねようとする。
ノエルに声をかけられ、アノスは彼女に視線を移すとアノスに睨まれたと思ったのかノエルは慌ててジークの背中に隠れてしまう。
「……隠れるな」
「す、すいません」
「どうにかならないのか?」
ジークはため息を吐くとノエルを引っ張り出すが、ノエルはアノスの顔が見られないのか視線はそれている。
アノスは先日からノエルやフィアナに怖がられているのが気になっているようで眉間にしわを寄せた。
「流石に少し気になってきたのかな?」
「別にそう言うわけではないが……」
「まぁ、ノエルやフィアナみたいな子はアノスみたいなタイプは怖がられるからね」
アノスの様子にカインは楽しそうに笑うとカインの笑みを不快に思ったのかアノスは顔をしかめる。
しかし、カインは口元を緩ませたまま、更に話を続けて行き、ジークはアノスがキレてしまうのではないかと思ったようで眉間にしわを寄せた。
「カイン、あんまりおかしな事を言うなよ」
「いやね。前も言ったかも知れないけど、イオリア家にケンカを売るなら、自分で婚約者くらい探さないとね。アノスがどんなタイプの娘が好きかわからないけど、騎士ってだけで騒いで持ち上げてくれるような子達はあまり好きじゃないだろうし」
「……騒がしいのは勘弁したいな」
アノスに我慢の限界が来る前にジークはカインを黙らせようとするがカインはアノスにイオリア家を継がせて味方に引き込む事を画策しているためか、彼の婚約者を探す事を考えているように見える。
彼の言葉にアノスは何度か夜会で会った家名目当ての令嬢達は遠慮したいようで眉間にしわを寄せた。
「言いたくないけど、家名だけを見て、アノスを見ない娘達ではイオリア家の財を食いつぶす事しかしないと思いますよ。派手な暮らしが騎士や貴族の特権だと思っているような方を迎え入れたら、アノスの考えている家の改革はできないと思うよ。アノスはあまり恋愛の事は何も考えていないんだったかな?」
「ぐっ」
「きっと、家を変えようと思っても両親とお嫁さんが結託したら、アノスは勝てないと思うけど、違うかな?」
カインはさらに追い打ちをかけて行き、アノスは自分の考えている家の改革をできない事だけは理解できたようで眉間にしわを寄せて考え込む。
「……カイン、お前は何がやりたいんだ?」
「アノスには剣術や槍術以外にも覚えて貰いたいと思ってね。恋愛感情あるなしは置いておいて、人を見ると言う事に繋がるなら良いのかな? って」
「大丈夫か? 見ていると無駄に真面目なところがあるからな」
カインの目的はアノスに人を見る目を養わせる事で彼の成長を望みたいようである。
ジークはカインの言いたい事は理解できるようだが、アノスの性格を考えるとおかしな事になりそうな気がしているのか大きく肩を落とす。
「と言う事で、フィアナ、アノスの事は任せたよ。この間、聞いた恋愛話をアノスに叩きこんでくれ」
「わかりました!!」
「……恋愛話に関してだと攻守が逆転するな」
カインは小さく口元を緩ませるとフィアナの肩を叩き、恋愛話の事ならフィアナはアノス相手でも臆する事はないようで拳を握り締めて大きく頷いた。
彼女の良すぎる返事にアノスは1歩後ずさるがフィアナは一気に彼との距離を縮めて行き、その様子にジークは意味がわからないようで眉間にしわを寄せる。
「とりあえず、こっちは任せてくれて良いから、ジークはノエルと買い物デートでもしてきて」
「そうだな。とりあえず、さっさと済ませてくるか」
フィアナから逃げ回るアノスの姿にカインは楽しそうに笑うとジークとノエルにおつかいを頼み。
ジークとノエルは頷くとシュミットの屋敷を後にする。