第711話
「……なぜ、レギアス様がジークを手伝っているのですか?」
「気にしない。レギアス様が自分から手伝いを買って出てくれているわけだし」
「そうなんですか?」
欠伸をしたフィーナを引っ張ってセスが店に顔を出す。
フィーナはすぐにノエル達の座っている近くの席にだらけるように座り込む。
セスは彼女の様子にため息を吐いた後、レギアスが村の老人達の診察をしている事に気づいて眉間にしわを寄せる。
レギアスの考えもあるため、カインは苦笑いを浮かべるとセスは一先ず、頷いてカインの隣に座った。
「シルドさん、何かない?」
「……フィーナ、お前は家で飯を食べてきたんじゃないのか? と言うか、お前達2人待ちだったみたいだぞ」
「良いじゃない。どうせ、まだワームに行けないでしょ。速く」
フィーナは朝食が足りなかったようでシルドに食べ物をねだるとシルドは呆れたようにため息を吐くと遅れた事を詫びるようにと暗に言う。
しかし、シルドの言葉の意味を捉える気のないフィーナはワームへの移動はまだ先だと考えているようでシルドにせがみ、彼女の様子にカインは呆れたようにため息を吐いた。
「仕方ない奴だ。えーと、セスはどうする?」
「私は遠慮させていただきます」
「そりゃそうだ」
フィーナの様子にシルドはもう1度、ため息を吐くとセスにも確認する。
セスにはカインとフィーナの実家で出された朝食は充分な量だったようで大きく首を横に振るとシルドは失礼な事を聞いてしまったと思ったようで苦笑いを浮かべた。
「それでカイン、あれはいつまでかかるんですか?」
「俺が聞きたいね。世間話も始まっているからね」
「……イオリア家の子息にしては頑張っていますわね」
セスはあまり時間が遅くなるとワームにいるシュミットに迷惑がかかるため、ワームに早く移動したいようでそわそわしながら、カインに聞く。
カインは村の老人達が相手のためか強く出られない事やレギアスが乗り気な事もあり、止める事はできないようで苦笑いを浮かべる。
セスの目には今にもキレそうなアノスが老人達に上手くあしらわれて怒りをぶつける場所が見つからない様子が映り、なんと言って良いのかわからないのか眉間にしわを寄せた。
「良くキレないわね」
「ラース様の指示で手伝っているからね。怒りを上手く治める練習って奴かな?」
「小娘も必要なのではないか?」
アノスを見て、いい気味だと思っているのかフィーナは口元を緩ませる。
彼女の様子にカインはため息を吐くとラースがアノスを手伝いに行かせた説明し、我慢強さが足りないフィーナにラースは一緒に手伝いをして来いと言う。
「いやよ。必要ないわ」
「フィーナの場合はあそこに行くと甘やかされるからな。どうして、こうなったんだろうな?」
「1人だけ、女って言うのもあったんだろうね。だから、甘やかしていたんだよ」
フィーナは面倒だときっぱりと断るとラースは小さくため息を吐き、兄であるカインに何か言えと言いたいのか視線を向ける。
その視線にシルドが気づき、苦笑いを浮かべるとカインも老人達がフィーナを特別に扱っていた事を知っていたためか、ポリポリと頭をかく。
「まともにフィーナを叱りつけていたのはアリアばあちゃんだけだからな」
「……まだ分別がつく事があるのはばあちゃんのおかげだね」
「本当にどうしてこうなったんだろうな」
フィーナの成長にカインとシルドは顔を見合わせてため息を吐く。
フィーナは2人の様子に不満なのか口元を膨らませるが、シルドが朝食を彼女の前に置くとすぐに笑顔に見せて、頬張る。
「……簡単だな」
「食い物で釣れるからね」
「フィーナさんはあれだけ食べてもどうして太らないんでしょう?」
彼女の様子にカインとシルドが苦笑いを浮かべるとノエルはフィーナの摂取カロリーが理解できないようで羨ましいのか小さく肩を落とす。
セスとフィアナも同感のようで大きく頷いているが、フィーナは気づく事無く嬉々として食事を頬張っている。
「筋肉量が違うからね。仕方ないよね」
「……筋肉はあまり要らないです」
「はい」
カインは3人の様子に苦笑いを浮かべるが、フィーナほどの筋肉は要らないようでノエルとフィアナは苦笑いを浮かべた。
「カイン、そろそろ行かないか? このままここに居ても何も進まない」
「診察は終わったのかい?」
「診察は終わった。後は世間話だ」
その時、ジークが逃げるようにカイン達の元に戻ってきてワームに移動しようと言う。
カインは首を傾げるとジークは早くしろと急かし始め、その様子にカインは何かあったと思ったようで店の一画を占拠している老人達へと視線を向ける。
「確かに話的にはジークの子供の頃の話になるね」
「……わかっているなら、言うな。セスさんとフィーナがきたんだろ。いつまでも遊んでいる時間はないだろ」
「そうは言っても、それにああいう話はノエルがジオスに来てからも聞かされているんだろ。なら、良いじゃないか」
レギアスと老人達の話はジーク子供の頃の話になっており、レギアスはジークとの時間を埋めるように老人達の話を聞いており、ジークはその話を横で聞かされるのが苦痛のようでこの場所から逃げ出したいと急かす。
カインはジークに耐えるように言うが、ジークはもう我慢ならないようで何か策はないかと考え始める。
「……速くしないと、俺はこれからカインとセスさんが婚約したと話をしてくるぞ」
「良し、行こうか」
「行きましょう」
ジークはカインだけではなく、セスも味方に引き込む策を思いつき、2人の耳元でささやく。
彼の言葉に2人は面倒事に巻き込まれたくないと思い、すぐに立ち上がり、兵士達に出立の準備をするように声をかけ始める。
「小僧も、おかしな事に頭がまわるな」
「……あの中にいるのがしんどいんだ。それより、おっさんはレギアス様を説得してきてくれよ。俺は無理だ」
「うむ。確かにそうだな。レギアス、そろそろワームに戻るぞ」
カインとセスが動き始めた事で朝食を食べ終えてゆっくりとしていた兵士達は動き出す。
その様子を見たラースは苦笑いを浮かべるとジークはラースにレギアスの事を頼み、ラースは大きく頷くとレギアスの元に歩いて行く。