第709話
「おはようございます」
「おはよう。ジーク、ノエル、さっそくだけど……ジーク、ノエルはどうしたんだ?」
翌日、ジークはノエルとフィアナとともに集合場所であるシルドの店を訪れる。
シルドは兵士達の朝食の準備が大変なようでジークとノエルに手伝わせようとするが、ノエルの反応は鈍く彼女の様子に首を捻った。
「なんか、2人で夜遅くまで話をしていたみたいだ」
「……寝不足か」
「久しぶりにベッドで寝られたんだから、ゆっくり休めば良かったのに」
ノエルとフィアナは部屋に移動してからも遅くまで2人で話をしていたようで2人そろって寝不足のようでふらふらとしている。
今のノエルでは手伝いにならないため、ジークはノエルとフィアナを座らせるとシルドの前に移動し、彼女達が夜更かししていた事を話す。
シルドが小さくため息を吐くとジークはここ数日、野営をしていた事もあり、2人の様子に苦笑いを浮かべる。
「泊まっている奴らも見ていたけど、大変だったみたいだな」
「そうだな。起きている人間もまばらだし、とりあえずはいる人間から済ませて行くか?」
店に泊まった兵士達の様子から、彼らの数日の行動が過酷だったと思ったようでシルドは苦笑いを浮かべると出来上がった朝食をジークに渡す。
ジーク達から遅れて兵士や冒険者達が少しずつ、ホールに集まり始め、ジークは朝食を配って行く。
「ほら、2人とも眠気覚ましに飲め」
「ありがとうございます」
「すいません。お手伝いもできなくて」
ジークが朝食を配り始めるとシルドは眠たげな2人に温かいお茶を淹れて渡す。
ノエルはお茶を受け取ると申し訳なさそうに謝るが、やはり眠たいようで欠伸をかみ殺した。
「そう言う日もあるさ。それにノエルには普段から手伝って貰っているし、気にしなくても良い」
「……やっぱり、お手伝いします」
「良いから、座っていろ」
欠伸をかみ殺したところを見られてバツが悪そうにノエルは視線をそらす。
シルドはあまり、ノエルのそのような姿は見ないためか小さく口元を緩ませた。
その時、ホールに集まっていた冒険者達はジークより、ノエルに朝食を配って欲しいと騒ぎ始め、ノエルはふらふらと立ち上がる。
シルドはノエルに無理をさせない方が良いと判断したようで座るように言う。
「ですけど、人手が足りないみたいですし」
「もう少ししたら、カイン達が来るだろ。フィーナは役に立たないにしてもカインは働くだろうし」
「うむ。それなら、小娘はワシが借りるとするか」
ホールにはどんどん人が集まり始め、ジーク1人で配膳をするには大変に見えたようでノエルは手伝わせて欲しいとシルドに訴える。
彼女の様子にシルドはため息を吐くとカインに手伝わせると言った時、ラースがホールに降りてきてノエルとフィアナのすぐそばの席に腰を下ろす。
「ラース様、おはようございます」
「うむ。店主、人手が足りないのなら、若い者に手伝わせよう」
「いや、客に手伝わせるわけにはいかないよ」
ノエルとフィアナは深々とラースに頭を下げるとラースは頷いた後、ホールの様子を見てシルドに手伝いを提案する。
シルドはありがたい提案ではあるが、お客様に手伝いをさせるのは冒険者の店を預かる者としての矜持としてできないと笑う。
「そうか。すまない。余計な事を言ったようだ」
「いえ、こちらこそ、余計な気を使わせてしまい、申し訳ございません」
ラースは不仕付けな提案をしてしまったと思ったようでシルドに頭を下げるとシルドはラースが悪いわけではないと首を横に振った。
「……客に手伝わせないなら、俺にも手伝わせるな」
「お前もノエルも客じゃないからな。身内を助けるのは当然の事だろ」
その時、朝食を取り戻ってきたジークが2人の話を聞いてきたようでため息を吐く。
2人は客ではなく、身内だと迷う事無く言い切るシルドにジークは文句を言いたそうだが後ろから朝食を求める声が聞こえてすぐにこの場から離れて行く。
「身内を助けるのは当然ね」
「……カイン、どこから出てくるんだ?」
「普通にドアからですよ。身内を助けるのは当然と言う事は、ジークの伯父であるレギアス様を助けるのは当然なんだよね? まずは宿泊費の値下げからかな?」
ジークがいなくなってすぐにシルドの耳には不快な声が届く。
その声の主はカインであり、いつの間にか店の中に入り込んで楽しそうに口元を緩ませた。
カインの姿を見つけたシルドは聞かれた内容が不味かったと思ったようで顔をしかめると彼とは対照的にカインは笑顔を見せ、値下げ交渉に移ろうとする。
「……身内を助けると思って」
「え? ただで良いの? 流石はシルドさん、身内のジークの伯父さんからお金は取れないよね」
「悪かった……」
シルドは利益を出したいようで値下げ交渉を無視したいようだが、カインは笑顔のまま、更にえげつない事を言う。
絶対に勝ち目がないと感じ取ったシルドはカウンターに両手を置き、カインに向かって頭を下げるがカインは許す気はないのか楽しそうな笑みを浮かべたままである。
「カイン、意地の悪い事を言うな」
「わかりました」
カインとシルドの様子にラースは大きく肩を落とすとシルドの味方をする。
その言葉にカインも元々、そこまで引っ張るつもりはなかったようで小さく頷くと店の手伝いをするつもりのようでシルドに目で朝食を出すように言い、シルドもすぐにカインの合図に対応を返す。
「カインさん、フィーナさんとセスさんはどうしたんですか?」
「朝食はあっちで食べるって、店に来ると朝からラース様の剣術の相手をさせられそうだからって言っていたよ。気分的にだらだらしたいんだって、少し仕事を押し付けすぎたから休ませないと後で面倒な事になるから仕方ないね」
「うむ。逃げられたか、小娘も侮れんな。仕方ない。他の者を探すか」
シルドから朝食を受け取るカインの姿にノエルは彼が1人で店に来た事を不思議に思い、質問をする。
彼女の質問にカインはすぐに返事をすると自堕落なフィーナの様子にため息しか出てこないようで大きく肩を落とした。
フィーナがまだ店に訪れないと聞いたラースは朝食の前に軽く体を動かしたいようで席を立つと手合せに付き合ってくれそうな兵士を探しに行ってしまう。
「……ラース様、お元気ですね」
「そうですね」
部隊の隊長であるラースの誘いは命令とも捉えられるためか断る事ができず、数名の兵士達はとぼとぼとラースの後をついて店を出て行き、その姿にノエルとフィアナは兵士達が可哀そうになったのか苦笑いを浮かべて彼らの背中を見送った。
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