第704話
「俺を探ったって、意味がないだろ?」
「……貴様は自分の立場を理解していないのか?」
「立場? ……あれか? エルト王子やライオ王子に巻き込まれているせいか?」
しかし、ジークは自分の事を調査している冒険者がいる理由がわからずに首を捻った。
彼の様子に話を聞いていたのか、アノスは眉間にしわを寄せるがジークは自分の事を巻き込んでいる王子2人の顔を思い浮かべる。
「……それもあるだろうが、もっと、すぐそばにあるだろ?」
「カイン、また、お前が原因か? それなら、フィーナの家も見張られているんじゃないか?」
「原因は俺じゃないよ。どうして、頭がまわるくせに自分の事になると無頓着かな?」
アノスは首を横に振るともう1度、考えてみるように言う。
彼が言っているのはレギアスの事なのだが、ジークはカインの顔を見て原因を彼だと判断したようである。
カインは呆れたようにため息を吐くと視線でレギアスを見るように指示を出す。
「……面倒な事になりそうだな」
「レギアス様? ……なるほど、そう言う事もあるのか」
「伯父さんなのに何で様付けなんかしているんだ?」
ジークと違い、レギアスは彼の事を調べているのがギムレットの息のかかった冒険者だとすぐに気が付いたようで難しい表情をしている。
そこでようやくジークも気が付いたようでポリポリと首筋をかくが、レギアスの身分まで聞いていないシルドは首を傾げた。
「……エルア家の当主様?」
「そうだ。きっと、ジークを探っているのは私の父だ」
「ジークの爺さんがジークを調べているって事か? まぁ、どこの馬の骨かもわからない奴が自分の血筋だって聞かされて裏を取りに来たって事か? そう言えば、レギアス様って子供がいなかったよな。そうなるとジークが跡取りか? 村の年寄の事はどうするつもりだ?」
エルア家の現当主であるレギアスの名は冒険者の店を取り仕切っているシルドの耳には届いており、目の前の人物が同一人物だと知って顔が引きつって行く。
レギアスはジークの事を探っている者達の話が知りたいようで、その正体が父親であるギムレットの指示だろうと言い、シルドはジークを一族と認めるかどうか調べていると判断したようで首を捻る。
「いや、俺はこのままだから、エルア家はレギアス様の養女が継ぐ。ミレットさん、そう言えば、シルドさんも会っただろ」
「そうか? でも、それで良いのか? レギアス様ってこの辺ではかなり力を持っているんだろ」
「俺は人の上に立つような人間じゃないからな。それにジオスの年寄の面倒だけでも大変なんだ。ワームやこの周辺の人達の生活まで見てられないよ」
ジークは自分がエルア家を継ぐ事はないと言うと、シルドはもったいないとも思ったようで聞き返す。
その言葉にジークは苦笑いを浮かべると自分にはそんな才能はないと言い、シルドはジークの言葉に嘘はないと思ったようで苦笑いを浮かべた。
「シルドさん、ジークの店を探った冒険者はどうなったの?」
「この店に巣食っている奴らに捕まってルッケルに強制連行された。今頃はアズ様に引き渡されているんじゃないか?」
「アズさんも余計な仕事を押し付けられて大変だね。だけど、こんな田舎まで調べに来ているって事はルッケルでも同じような事が起きてそうだね」
ジークの店を探っていた冒険者は不審者として捕まえらえたようであり、カインは苦笑いを浮かべるとジークの素行調査などが目的なら、彼と関係が深いルッケルにあるジルの店やリックの診療所も探られている可能性が高いのではないかと言う。
「大丈夫か?」
「少なくともジルさんがいるんだ。エルア家の隠居爺が何かをしても思い通りにはならないと思うよ」
「だろうな……ジルさんがいれば問題ない」
ジークはルッケルの事が心配になったようで眉間にしわを寄せるとカインは心配ないと言い、シルドもカインと同感だと頷いた。
「……カイン、お前、これも織り込み済みじゃないだろうな? だから、俺をフォルムに連れて行った?」
「フォルムに連れて行ったのは偶然だよ。単に人手が欲しかったから、それに強欲爺がジークに執着する理由はわからないね。おじさんに執着しているとは言え、その息子にまで執着するとは限らない。邪魔だから消してしまえって言う感じもないからね。何か他にも理由があると思うんだけど、できれば、その件についてレギアス様に聞かせて貰いたいんですけど」
「……もう少し時間をくれないか」
ジークはまたもカインの掌の上で踊らされている気しかしないようでカインを睨み付ける。
カインはその視線に言いがかりだと言いたいのかため息を吐くとレギアスにギムレットが何を企んでいるのかと聞く。
その問いにレギアスは眉間にしわを寄せるとまだ話すべき時ではないと言いたいようで首を横に振った。
「そうですか。それじゃあ、この話はまた今度ですかね?」
「ここで止められると気になるんだが」
「この店の店主として、他人の話に立ち入るべきではないのではないかな?」
カインはレギアスの言葉に頷くとシルドは小さくため息を吐いた。
そんな彼の様子にレギアスは最初の仕返しだと言わんばかりに言い、シルドは1本取られたと思ったのか困ったように笑う。
「……当の本人を無視して話が進んで行くんだけど」
「仕方ないんではないか?」
「それはそうなんだけどな。納得はいかない……こんな感じか」
ジークは自分が中心の話であるにも関わらず、自分が話に入って行けない事に大きく肩を落とすとアノスはいつもの事だと言いたげに言う。
彼にまで言われてしまい味方のいないこの状況にジークは眉間にしわを寄せるが、イオリア家に振り回されて出口を探していたアノスの気持ちがわかりかけたようでポンと手を叩く。
「何だ?」
「別になんでもない」
「ただいま。シルドさん、お腹減った。ごはん」
ジークの反応の意味がわからずに怪訝そうな表情をするアノス。
ジークは苦笑いを浮かべて首を横に振ると汗を流し終えて上機嫌のフィーナを先頭にノエルとフィアナがドアを開ける。