第700話
「…いつまで集落に居れば良いのよ?」
「俺に聞くな」
ジーク達が集落に着いてから3日経つが予想していた襲撃は起きず、フィーナはやる事が無いためかジークに文句を言い、絡んでいる。
襲撃を警戒しつつもジークは料理に兵士や魔族の体調管理に大忙しであり、フィーナの相手などしているヒマはないようで彼女を追い払うように手を払う。
「でも、フィーナさんの言いたい事もわかります」
「そうですね……眠っても疲れが取れないです」
「それは見てればわかるな。タイミング的にはそろそろ不味いか?」
野営も数日が過ぎてくると体力の無いノエルとフィアナにはゆっくり休んでも疲れが取れないようで目の下にはクマができている。
体調を崩しているのは彼女達だけではなく同行した新米兵士達も慣れない野営で眠れていないようで兵士達の指揮は目に見て取れるくらいに落ちてきており、ジークはアノスの言っていた通りに襲撃が近づいてきているのではないかと思ったようで困ったと言いたいのか頭をかいた。
「……」
「疲れているなら、飲むか?」
「絶対に飲まん」
ジーク達とともにカインが指定した場所を監視しているアノスの疲労も限界のようであり、ジークはアノスに栄養剤を差し出す。
しかし、アノスはすぐに拒否をするといらだった様子で監視先へと視線を向けた。
監視先は相変わらず、静かなものであり、その様子がさらにアノスの苛立ちを大きくしているようである。
「このままじゃ不味いよな……と言うか、こっちはすでに決着がついたんだから、ワームに戻った方が良いんじゃないのか?」
「ホントよね。あれからあのクズも戻ってこないし、私達がここで時間をつぶしている間にワームが乗っ取られたりしてないわよね?」
「いや、爺さんが食えない人間だとしても、シュミット様にカインもついているんだ。そう簡単に負けないだろ」
人族で落ち着いているのはジークを除けばラースの古参の兵とラース、レギアスくらいであり、フィーナはノエル達ほどではないものの、日に日に文句が多くなっている。
その様子にジークは危ういものを感じ取っており、眉間にしわを寄せるとワームに戻るのも1つの選択肢なのではないかと言い、フィーナはカインがあれから集落に戻ってこない事にワームで何かがあったのではないかと思ったようで首を捻った。
カインはギムレット相手に後手後手になっているとは言っていたが、ジークはカインがギムレットに負けているとは思えないようでその辺は問題ないと言った時、監視先が淡い光を上げだす。
その様子にアノスは剣に手をかけ、ノエルとフィアナは後ろに下がり、いつでも魔法を唱えられる準備を始め出すがジークとフィーナは何か感じたようで警戒する事はない。
「……今日はセスさんですか?」
「何か文句が言いたそうですね」
「いや、そろそろ、カインが襲撃してきそうな気がしていたんで」
光が消えると物資を運んできてくれたのかセスが立っており、カインが来ると予想していたジークはセスの顔を見て苦笑いを浮かべてしまう。
セスはジークの表情に何か引っかかったようで眉間にしわを寄せるとジークは慌てて首を横に振った。
「そうですか」
「セスさん、フォルムはどんな様子ですか? カインもシュミット様の補佐で動いているから、フォルムは大変なんじゃないですか?」
「……何かあったんですか?」
セスは若干、納得ができないようだが文句を言うほど時間もないようであり、近くにいた兵士に声をかけると運んできた物資を管理している場所に送るように頼む。
ジークは荷をあさりながら、長い時間、フォルムをあけている事に心配になっているようでセスに聞くとセスの表情は険しくなって行き、ノエルは心配そうに尋ねる。
「上手く回っていますわ。いつの間にか先々代の領主様の領地運営を補佐していた方達を復帰させてシーマさんに徹底的に領地運営を叩きこんだりしながら、シーマさんの見張りは彼女が幼い頃にお世話になった人達ですから、シーマさんも何かするには罪悪感があるようで逃げられないようです」
「……あいつ、着々と今後の準備をしているな」
「と言うか、フォルムを捨てて出て行った人間に任せて良いの?」
セスの口から出るのはカインが王都に戻る時の準備が進められていると言う事であり、シーマをフォルムに連れ帰った時に宣言した通り、領主としての教育が実施されている。
シーマは転移魔法を封じられ実父や幼い頃の自分を知る者達には逆らえないようで文句を言いながらも領主代行を行っているようで特に問題はないようだが、セスはシーマを信じ切れていないようでその表情は険しく、フィーナも同じ心配をしているようで怪訝そうな表情で聞く。
「……まぁ、エルト王子が主君だしな」
「そうですね……甘いとは思いますが、エルト様はきっと許すと言うでしょうし、表向きで何かをしたわけではありませんから」
エルトは失敗をしてもその失敗を糧に成長する人間を処罰する事はできないため、彼を主君と仰いでいるカインにはシーマを信じる選択肢しかない。
ジークはカインとエルトの信頼関係には賛同している事もあるのか苦笑いを浮かべるとセスは文句を言いたそうだが言っても仕方ないと思っているようで小さく肩を落とす。
「とりあえずはフォルムの方は問題なしで良いんですよね?」
「そうなりますが、現領主がいつまでも他の場所にいては領民に示しがつきません。だからと言って、ワームをそのままにしておけとは言えませんし」
「その前にあいつ、今更だけど領主として認識されているの?」
セスからの話ににジークはフォルムには問題ないと判断したようである。
セスは頷くものの、葛藤はあるようで首を捻っており、フィーナは何かある度にフォルムを離れているカインが領主として認知されているか疑問を抱いたようで眉間にしわを寄せた。
「領主としては認識されてはいるだろ。えーと、セスさん、ここに残っている時間って無いですよね? 魔法陣の外に案内しましょうか?」
「いえ、もう少し、ここに残りますわ。カインから残るように指示が出ていますから、もう少ししたらカインも集落に来るでしょう」
「今日、カインが来るのか? あいつ、襲撃のタイミングもわかっていて俺達に監視させているんじゃないだろうな?」
フォルムでのカインの働きは領民たちも認めるものではあるため、ジークは苦笑いを浮かべながらカインの味方をするとセスにフォルムに戻る手伝いをすると言う。
セスは首を横に振るとジークは何か納得のいかないものを感じたようで眉間にしわを寄せた。