第698話
「本当にここに呼び寄せられるの?」
「……お前、信じたから、こっちに来たんじゃないのかよ」
「あんた、本当にここに引き寄せられるか、試して見なさいよ」
カインが魔導機器で指定した場所は集落の中の少し開けた場所であり、少人数での戦闘が可能そうである。
すでにカインの手回しで魔族はこの場所から一定の距離を取っており、ジーク達5人しかこの場所にはいない。
フィーナはただ待っているのは苦手なためか、きょろきょろと周囲を見回した後、文句を言う。
彼女の様子にジークはため息を吐くが、フィーナは気にする事はなく、実験してみろと言い始める。
「試せって、そのせいで何かあった時に間に合わなかったら、ダメだろ。俺はこの集落には戻ってこられないんだから無理だ」
「試して見て使えなかったら、ここに人員を取られなくても良いでしょ?」
「……確かにその考えは間違っていないな」
持っている魔導機器では集落に戻ってくる事はできないため、ジークは首を横に振るがフィーナは言い分を変える事はなく、彼女の意見に一理あると思ったのかアノスは小さな声でつぶやく。
「……アノス、流されるな。こいつはフォルムに戻って、汗を流してきたいだけだから」
「そんなわけないでしょ」
「目をそらしたら説得力がないと思うんですけど」
しかし、ジークはフィーナの考えている事などお見通しであり、彼女の考えている事を言い当てる。
彼女本人は口では否定するものの、その視線は泳いでおり、ノエルは苦笑いを浮かべた。
「目的は別として、フィーナさんの言う事も正しいと思いますよ。ただ、私達は残念ながらそれをできませんから」
「フィアナの転移魔法も集落には移動できないからな」
「はい。先ほど、マーキングしたばかりなので無理ですね」
「失敗して戻ってこられないなら、試す必要はないだろ」
フィアナはフィーナの言った事も試して見たいようだが、自分では実験できない事も理解しており、申し訳なさそうに肩を落とす。
わざわざ戦力を減らす事も出来ないため、ジークは実験に乗り気でないため、気にする必要はないと彼女に言う。
「だが、試して見るのは間違っていない。あのギドとか言うゴブリンに協力して貰ったら良いんじゃないのか?」
「そうね。ギドを連れてくるわ」
「……おい。ギドだって忙しいんだ。無駄な事をさせないでくれ」
アノスはカインの魔導機器を信用しきっていないため、この集落に戻ってこられるギドに協力を仰いでみてはどうだとつぶやく。
その言葉にフィーナは大きく頷くとギドを連れて行くために駆け出して行き、ジークはアノスを非難するような視線を向ける。
「何だ? 必要な事だろう? カイン=クロークを信用していて、それが外れた時にどうするつもりだ?」
「それはそうなんだけどな。魔導機器って制限がある物もあるからな。必要な時に使えなくなっているとかあっても困るから、使いたくはないんだよ」
「なるほど、魔導機器も面倒だな……」
アノスは必要な事だと言うがジークは魔導機器には制限もある場合があるため、無理に使いたくはないと頭をかく。
ジークの言葉にアノスは魔導機器の事を良く知らないと思ったようで小さくため息を吐いた。
「いろいろと便利ではあるんだけどな」
「確かに便利かも知れないが、それに頼る事で自分のできる事をせばめている可能性はないか?」
「……せばめている可能性?」
ジークは苦笑いを浮かべるとアノスは魔導機器にた選りすぎるのも良くないのではないかと言う。
その言葉を聞き、ジークは首を傾げた時、カインが指定した場所が淡く光り始める。
それを見て、ジーク達には緊張感が走るがその場所に姿を現したのはフィーナとギドであり、2人の姿に微妙な空気が広がって行く。
「ダメか……」
「だから、意味がないと言っただろう」
「わざとこの場所に移動したわけじゃないわよね?」
フィーナは成功すればフォルムで汗を流して来ようと思ったようで舌打ちをする。
ギドは付き合わされた事に文句を言いたいようでため息を吐くがフィーナはギドが自分を黙らせるためにわざとこの場所に移動したのではないかと疑う。
「ジーク、フィーナをどうにかしろ。ワシもそんなに暇ではない」
「俺も言ったんだけどな。フィーナ、試して見たんだから、納得しろ。ギド、悪かったな」
ギドはフィーナの相手をしていたくないためか、ジークにフィーナを押し付けようとする。
ジークは自分も言ったけど、フィーナは話を聞かなかったせいだと言いたいのだが、ギドもわかってくれていると思ったようで彼に謝った。
ギドは小さく頷くと彼も忙しいようですぐにこの場を離れてしまい、視線はフィーナに集まる。
「何よ? これであのクズの作った魔導機器が問題なく動いていると証明されたんでしょ」
「……証明はされたけどな。もう少し他人に迷惑をかけたって事を理解しろ」
フィーナは自分が悪くないと言いたいようでジークを睨み付けるとジークは勝手な彼女の言い分を考え直すように言う。
その言葉はフィーナの眉間にはしわが寄り、彼女はジークに殴り掛かろうとしているのか、彼との距離を縮めて行く。
「で、ですけど、これでこの場所を見張っていれば問題ないんですよね?」
「そ、そうですよ」
「ノエル、フィアナ、甘やかすな。下手をしたら、フィーナのせいで全滅って事にだってなる時もあるんだからな。さっきだって、フィーナとギドじゃなく、敵が来ていたとしたら、まともに戦えるのがアノスだけじゃ、一気に不味い状況になったんだぞ」
フィーナの様子にノエルとフィアナは慌てて2人の間に割って入るが、ジークはフィーナの行動次第で危険に陥る可能性があったと告げる。
その言葉にフィーナは少しだけ悪いと思ったようで表情をしかめた。
「貴様、働かないつもりか?」
「いや、変な勘違いされているけど、俺も前線で戦うタイプじゃないからな。と言うか、俺は薬屋、そこのところをもう1度、考えてくれ」
「……ジークさんを薬屋さんと言うくくりで捉えてはいけないと思います」
アノスはジークの言葉が引っかかったようで眉間にしわを寄せるとジークは自分が元々、戦闘に向いていない事を伝える。
しかし、何度か、彼が戦っている所を見ているフィアナにはジークの言い分を信じるわけにはいかず、大きく肩を落とした。