第695話
「何かわかったんですか?」
「小僧、その前に小娘をどうにかしろ」
ジークとアノスが捕虜を捕まえている場所に顔を出すとフィーナはラースにつかみかかっており、ノエルとフィアナはその様子にオロオロとしている。
ジークはフィーナの事など気にする気もないようでラースに捕虜から話を聞けたかと聞くが、ラースはフィーナの相手をしているヒマはないようでジークに彼女をどうにかしろと言う。
「……あいつは何をしているんだ?」
「汗かいたから、水浴びする場所を作れって、お前が覗くから川では水浴びできないからって」
「誰が覗くか、こんな女の裸になど興味はない」
フィーナがラースにつかみかかっている理由がまったくわからないため、アノスは眉間にしわを寄せる。
ジークは簡単フィーナの主張を説明した後、冗談めかしてアノスが覗くと言い、アノスはフィーナなど覗くに値しないと言いたいのかフィーナを見て鼻で笑う。
「いや、そこはフィーナだからじゃなくて、騎士としてとかもっと言い方があるだろ」
「だいたい、今回は森の中を進むとわかっていたんだ、それくらいの覚悟をしているのが当然だろ」
「まったく、その通りで反論ができないな」
アノスの言葉に女としてのプライドが傷つけられたのか、フィーナは彼を睨みつけるとアノスはその視線に負ける気はないようで彼女を睨み返す。
2人の間にまたも挟まれる形になったジークは大きく肩を落とし、アノスに言い方を変えてくれと頼むがアノスはフィーナには覚悟が足りないと言い切った。
彼の言葉は正論と言っても問題なく、ジークは眉間にしわを寄せる。
「何でよ?」
「いや、普通にそう思うだろ。帰る時は転移魔法で帰れるんだろうから、少しくらい我慢しろよ。それでおっさん、何かわかった事はあるのか?」
「やはり、カインの言う通り転移魔法を使える魔術師はいるようだが、ゴブリン族やリザードマン族に気づかれずに転移魔法のマーキングをする事ができるのかがわからなくてな」
フィーナは納得ができないようでジークの胸ぐらをつかむが、ジークは彼女にかまっているヒマはないと思っているため、彼女の手を外すとラースに状況を聞く。
新たに手に入れた情報にはカインの予想した通り、転移魔法を使用できる魔術師がいるようである。
集落の近くに転移魔法で移動できる人間がいる事がわかり、ラースはその事に魔族達が気付かなかったのかと思ったようで眉間にしわを寄せた。
「わからないな。俺は魔導機器を使って初めて転移魔法が使えるわけだしな」
「えーと、周囲を警戒しなければいけないとは思いますけど、ゴブリンさんもリザードマンさんもいつも集落の外に出ているわけではないですし、集落と一定の距離を取っていれば可能だと思います」
「そうか……カインがいくつかの場所で野営をした形跡があるって言っていたからな。そう考えるとやっぱり魔術師はいるって考えて作戦を立てないといけないんだよな」
ジークは自分のわからない事のため、どうして良いのかわからずに頭をかく。
フィアナは遠慮がちに手を上げると魔族達に気が付かれる事無く、単位魔法のマーキングが可能だと話す。
ジークはカインとの話とフィアナの話を併合し、魔術師がいる事を確信すると集落の防備を固める方法を考えなければいけないと言う。
「そうなるな。カインが転移魔法で敵が現れる場所を変更したと言うが、その魔導機器も実験段階のものであるなら、上手く作動しない事も考えられる。そうなると最低2カ所を警戒しなければいけない。それに……」
「何よ? もったいぶらずに言いなさいよ」
「転移魔法は1度に、どれくらいの人数を移動させる事ができるんだ?」
ラースはジークの言葉に頷くとこの部隊を預かる者としてやるべき事が増えたと思っているようで眉間にしわを寄せる。
フィーナはラースの様子に彼が言葉を濁しているのがわかったようで不機嫌そうに続きを話すように言うとラースは転移魔法の移動限界人数を聞く。
「俺の持っている魔導機器は5人が限界って聞いているけど、フィアナ、そこら辺はどうなんだ?」
「えーと、試した事が無いのでわかりませんけど、たぶん、術者の魔力で人数は変わってくると思います。ノエルさんが転移魔法を使えれば、この集落の人達も一気に飛ばせるとは思いますけど」
「そう言えば、ルッケルでのイベントの時、カインさんは王都とルッケルを1人で何往復もしたと言っていましたよね? でも、ルッケルでフィリム先生は大人数を一気に飛ばしていましたし、魔力はフィリム先生の方があるんでしょうか?」
フィアナはジークに聞かれて、魔力次第なのではと答えるが、自信はないようで申し訳なさそうに視線をそらす。
魔力が関係するのはノエルもなんとなく理解できるようだが、かなりの大人数を移動させているのも目の前で見ているため、答えが見つからないようで首を捻っている。
「単純に人数だけで決まるわけではない」
「ギドさん?」
「そうなのか?」
その時、ギドが話を聞いていたようで近寄ってくる。
ギドに視線が集中するとギドは話しにくい言いたいのか小さくため息を吐く。
「すまん。ギド殿、話して貰っても良いでしょうか?」
「あまり詳しい事を言っても仕方ないと思うからな。簡単に言えば、移動できる人数は術者の魔力だけではなく、移動する距離も関係してくる。距離が延びれば魔力は多く消費する」
「距離か……ワームからここまでだとギドなら、どれくらいの人数を移動できるんだ?」
ラースは1つ咳をすると転移魔法の事を教えて欲しいと頼む。
ギド頷くものの、しっかりと説明をするとなると魔法式など面倒な事もあるため、簡単な説明をする。
ジークは納得できるような気がしたようで小さく頷くと参考までにギドならどれくらいの人数を動かせるのかと聞く。
「ワシはさほど移動させる事はできん。元々、ゴブリン族は人族と比較すれば魔力は少ないからな。参考にするなら、カインやセス、後はフィアナに聞いた方が良い」
「すいません。私もあまり使った事が無いからわかりません」
「となると1度にどれだけの人間が移動してくるかはわからないな」
ギドは自分の話は参考にならないと言うとこの中で転移魔法の使い手であるフィアナに視線が集まる。
しかし、フィアナは答える事ができず、申し訳なさそうに謝り、ジークは彼女を責める気もないため、励ますように彼女の肩を叩く。