第694話
「ただいま。ギドはどこ?」
「……フィーナ、あんまり、ギドに迷惑をかけるなよ」
ノエルの予想した通りにカインの印は木の上に有り、ジークはノエルに魔力を込めて貰った魔導機器を5カ所に設置して集落に戻った。
集落に戻るなり、フィーナは森の中を歩き回ったためか、また汗を流しにフォルムに戻りたいようでギドを探し回ろうとするがギドにはギドのやるべき事があるため、ジークは肩を落とすと彼女の首根っこをつかむ。
「何よ? 汗かいたんだから、仕方ないでしょ。女の子として当然の権利よ」
「あの、フィーナさん、カインさんが魔導機器を設置したんですから、この場所で転移魔法を使ったら、カインさんが決めた場所に誘導されるんじゃないでしょうか?」
「それは……あのバカ、余計な事を」
フィーナは頬を膨らませてとうぜんの権利だと主張するがノエルは遠慮がちに手を上げて転移魔法は使えないのではと言う。
彼女の言葉でフィーナはフォルムに戻る事は無理だと判断したようで舌打ちをする。
「水浴びくらいなら、どこかでしてこられるだろ」
「いやよ。いつもならまだしも、今回は無理」
「そうですね」
ジークはたいした問題ではないと思っているようで文句を言うなと言いたげだが、それは男性の言い分である。
フィーナは男性の兵士達も一緒のため、警戒しているようで首を横に振り、ノエルも彼女に賛同の意志を示して大きく頷いた。
「それもそうか……あれだな。そう言うのも必要だったな」
「あのクズも今回みたいな事も考えられたんだから、浴場くらい作っておけば良かったわ」
「わたし達は転移魔法が有りましたから仕方なかったと思います」
ノエルとフィーナに言われてジークは状況を理解したようで気まずそうに笑う。
フィーナは水浴びもできないこの状況をカインのせいにしたいようでぶつぶつと文句を言い始め、ノエルは苦笑いを浮かべる。
「とりあえず、その辺はおっさんやレギアス様に相談するか? 2、3日だから、我慢しろと言われるだろうけどな」
「絶対に対策を立てさせるわ」
「……こういう風にすればフィーナはやる気を出すのか?」
ジークは頭をかきながら、フィーナの希望に添えるように話をしてみると言うが、あまり、力になって貰えるとは思えないようでため息を吐く。
フィーナは水浴びもできないようなこの状況ではやってられないと考えているようで鼻息を荒くして歩き出して行き、ジークは普段、やる気のないフィーナがやる気を出している事に考える事もあるようで眉間にしわを寄せた。
「そういう事ではないと思いますけど」
「……と言うか、カインはこれを見越して転移魔法を使えなくしたのか?」
「そんな事はしないと思いますよ」
ジークは小さくなって行くフィーナの背中にまたも自分達がカインの手の上で踊らされている気がしたようで眉間のしわはさらに深くなって行く。
彼の言葉にノエルは否定をしようとするが、カインの性格を考えると否定しきれないようで苦笑いを浮かべる。
「ここで考えていても仕方ないか? ノエル、おっさんとレギアス様のところに行くか?」
「そうですね。フィアナさんも心配ですし」
「そうだな。俺達がいなかった間に劇的に改善されていたりしないかな? 正直、あの間に挟まれるのは遠慮したい」
ジークはフィーナがおかしな事をしでかしても困るため、ノエルに彼女を追いかけようと提案するとノエルは他にも心配事があるため大きく頷いた。
アノスとフィアナの関係は時間が経つほど、悪化している事もあり、ジークはため息しか出てこないようである。
「そんな事を言わないでください。レギアス様もラース様も少し距離を置いて見ていますから、ジークさんしか間には入れないんですから」
「いや、俺だけに押し付けないでノエルも間に入ってくれ」
「ジークさん、先に行きますね」
2人の関係改善は必要な事ではあるが、ラースやレギアスだけではなく年長者の兵士達も生温かい目で若者んの様子を見ている感じであり、押し付けられているジークとしては納得がいかないようでノエルにも手伝って欲しいと言う。
しかし、ノエルもアノスを苦手としている事もあり、ジークの言葉から逃げるように歩き出す。
「……フィアナだけじゃなく、ノエルとアノスもどうにかしないといけないのかよ? と言うか、面倒だから、また、アノスを2人の得意分野に突っ込んでみるか?」
「……貴様、そんな事をしてみろ。貴様を剣のさびにしてくれる」
「冗談に決まっているだろ」
ノエルの背中にジークは大きく肩を落とすとアノスを怯ませた状況を再び作り出そうと考え始めるが、タイミング悪くアノスに聞かれてしまったようで彼はジークの背後から低い声で殺意を込めて言う。
ジークは背後から伝わる殺気に冗談だと主張して異様で両手を上げて答える。
「……お前、くだらない事で剣を抜くなよな」
「貴様こそ、くだらない事を言うな」
「巻き込まれている俺としては当然の権利だと思うんだ」
ジークが振り返るとアノスは剣の柄に手を乗せており、その様子に顔を引きつらせる。
アノスはジークがいつも癇に障る事を言うからだと言い、彼を睨み返すがジークとしては被害者は自分だと考えているため、大きく肩を落とした。
「だいたい、俺は怖がられるような顔などしていない」
「……なあ、ひょっとして傷ついていたりするか? だから、剣に手をかけるな!?」
「くだらない事を言うな。それに何度も同じ事を言わせるなと言っているだろ」
アノスは問題があるのは自分ではないと言うと彼の様子にジークは1つの疑問が頭をよぎり、アノスに聞く。
その言葉はアノスにとっては我慢ならない言葉だったようでアノスは再び、剣に手をかけ、眼光を鋭くしてジークを睨み付ける。
「……そうやっているから、ノエルやフィアナに怖がられるんじゃないのか?」
「何か言ったか?」
「別に、それより、俺はおっさんとレギアス様に報告しないといけない事があるから行って良いか?」
アノスを説得して剣から手を放させたジークは大きく肩を落としてアノスの悪いところをつぶやいた。
そのつぶやきはアノスの耳には届かなかったようでアノスは聞き返すとジークは誤魔化し、ラースとレギアスの元に向かって歩き出して行くがアノスは何かあるのかジークと一定の距離をあけて彼の後をついて歩く。